第2話 俺、外へ連れていかれる
少し時間が出来たので、ちょっと書き物をしてみました
駄作ではありますが、読んでいただけたら幸いです
俺は最後の強敵を自らの手で下した
そう、全ての試練に打ち勝ったのだ
これで俺はエンディングを…
はい、迎えていません
只今、俺史上最大最悪の試練に挑んでいる最中です
俺の目の前には、巨大な女がそびえ立っている
その女は俺を見下ろしながら、表情を一切変えずにうどんを啜っている
「うん、美味いぞコレ。 マサオも喰うか?」
巨大な女は俺を見ながら話しかけてくる
「いらないよ。 ていうか… 姉ちゃん、ここで何してるの?」
うん、この巨大な女は俺の2歳年上の姉、マツザカ アリサ
「ん? 見てわからんのか? うどんを食っている」
そんなの見たらわかるから!
「いや、そうじゃなくて、どうしてここに居てるのさ! ここって俺らが居た世界と…」
なんか、ダンジョン最奥の部屋に居てるのに、どうも姉ちゃんを見ていると自分の家に居てるような感覚がしちまう
だからかもしれないが、ここが異世界って素直に言い出せられない
「ん? そんなの私にも良く解らん。 なんかブワァーって暗くなって、グァーって明るくなったらここに居た」
いやいやいや… そりゃおかしいだろ? 俺、ここには数か月位居てたんだぞ。 で、ダンジョンだけでなく地上とか頻繁に出歩いていたからな
それで、今まで他人の痕跡何て何もなかったんだ
だから姉ちゃんの言う事に疑問しか沸かんぞ
と言う事で、姉ちゃんに直接聞いてみた
「ん? そりゃこんな小さな島じゃない所に居たからだ。 ここに来たのはほんの1時間前だぞ」
…どういうこと?
更に意味の解らんことを姉ちゃんが言い出してくる
そもそもこの世界は俺の作ったゲームの世界で、四方を海で囲われた孤島しかないはずだ
ちょっとその辺も踏まえて聞いてみる
すると姉ちゃんから驚愕の事実を告げられた
この世界、どうも俺が作ったゲームの世界とは違う可能性が高い
というのも、この孤島以外にも陸地はあるらしい
しかも孤島だけではなく大陸の様な広大な大地も広がっているとの事
「うん、そうだぞ! こんなちっぽけな島だけじゃないぞ。 でも改めてこの島を見て見ると、あのくだらん絵がこんな事に使われていたとは」
いつの間に用意したのか謎だが2杯目のうどんを啜りながら、姉ちゃんが周囲を歩きながら眺めている
実は、俺のゲームの絵は全て姉ちゃんによるものだ
姉ちゃんってほとんどの事を完璧にこなしてしまうハイスペックな能力の持ち主
そんな姉ちゃんだからもちろん絵も凄い
というか… 凄すぎて凡人である俺には理解できない
「野菜や果物、それから肉なんてものを書かされて、一体何に使うのか理解できなかったが、ここに来てやっと理解できたぞ。それにしても、あの大量のヌイグルミの絵がここで使われていたとはな」
更に3杯目のうどんを啜り始めながら、生温かな視線をこちらに向けてくる
なんか、表情に乏しい奴からこういった視線を向けられると無性に腹が立つ
だって… 姉ちゃんの絵って妙にグロいから、俺の精神に悪影響を及ぼしかねない
だから、モンスターの絵の大半はヌイグルミ調にしてもらったのだ
精神に悪影響を及ぼしかねない見た目のモンスターが血や臓物を垂れ流して襲い掛かってくる様な映像何て絶対に見たくないからな
おかげで、ダンジョン攻略の時、気分が滅入る事が無く快適に過ごせれた
「本当なら、もっとしっかりと描いてやったものの、お前がこれで良いというから…」
なんか少し不満げな事を言い出したが、これは無視
んで4杯目のうどんの用意をし始め出した
ん?
うどんの用意?
「ちょっと姉ちゃん! さっきから食べてるうどんって何からできていうの?」
どこからともなく巨大なうどんの麺を取り出し… 自らの手刀で切り分けている
「ん? マサオも喰いたいのか? 安心しろ、これが無くなってもまだまだあるからな! そうだ、ちょっと待っていろ、捕ってくる!」
小走りでダンジョンの奥へ消えていった
数分後、姉は巨大な白いヘビを抱えて戻ってくる
あれって、3層のボスだった気が…
「おぉ、マサオ。 待たせたな。 大きなうどんの麺がこの先にいくらでも泳いでいるからな。 お前がこんなにも食い気の多い奴だとは思わなかったぞ!」
何か勘違いしているようだが、もう何でもよくなってきた
「というか、お前って全然成長していないのだな? 本当に私の弟か? さっきまでダンボールの人形と木刀でチャンバラとかし
ていたし、思わず目を覆いそうだったからそこの柱を投げつけてやったぞ」
今も部屋の壁に突き刺さっている柱には、俺との死闘を繰り広げた『ラスボースン』であった一部がヒラヒラと揺らいでいる
いや、あのな! こうなってしまったのも原因は姉ちゃんにあるんだからな!
流石にラスボスがヌイグルミだと雰囲気台無しだけど、普通に姉ちゃんが書いていたらとんでもないのを書く可能性が高いって事
で、妥協してダンボールを黒く塗った人形調にしたんだぞ!
「で、あの聖剣ナントカーってのはなんだ? あれって、お前が小さいときお母さまに駄々をこねて買って貰った剣のおもちゃだろ! あ、違うか… 木刀が光っていただけだったな」
くそぉ… そうだよ! 戦隊物とかに出てくる様な武器のレプリカだよ!
漢のロマンだぞ! 光る武器っつうのは!
姉ちゃんに言っても解らんと思うがな!
「おぃ、マサオできたぞ。 食え」
といって、さっきから作っていた4杯目のうどんが俺に手渡された
「うん、決めたぞ。 マサオ、お前… もうちょっと社会と言うのを勉強してこい」
なんか姉ちゃんが変な事を言い出したよ
そんなの無視して冷めないうちにうどんを… を? お? お?
うどんに手を伸ばそうとしたが、手に持っていた箸はうどんを掴む事ができなかった
「では行くぞ! 外の世界へ!」
俺は姉ちゃんに抱えられダンジョンを去る事(強制的)になってしまった
……………
え~っと…
只今、俺は海上を姉ちゃんに抱えられたまま、進んでいます
巨大な水しぶきを上げながら速度を維持しつつ姉ちゃんが走っています
原理は不明なのですが、海の上を爆走しています
「って、姉ちゃん怖いって! もうちょっとゆっくり行ってよ!」
俺は心の底から懇願してはいるのですが、全く聞く素振りすら見せてくれないです
空気抵抗が余りにもきつい為、目を開けれません
少し後方から爆音が聞こえているのですが、これがいわゆる音速の壁を越えた状態って言う奴なんでしょうね
うん… ごめん… ここまで意識を保っていたが、もう、無理
「おい! マサオ着いたぞ! ほら起きろ!」
…う~ん、なんか頭が痛い
!
って、ここどこだ!
俺は自分の見た光景が信じられない
天と地が逆転している世界に俺は…
「って、痛いって! 姉ちゃん俺の頭を地面でこするの止めてくれない!」
違っていました…
姉ちゃんが俺の脚を持ちながら逆さになった俺の頭を地面に擦りつけていただけでした
「ふむ、やっと起きたか。 ところでマサオ! ここがどこか解るか?」
って、お前! ちゃんと目的地決めた上で、俺を連れて来たんじゃねぇのか?
…だめだ、こんな事で怒ってはこっちの身が持たない
姉ちゃんにとってはこういうのが当たり前なんだし、小さい頃から巻き込まれてばかりだったから、もう耐性がついたわ!
俺は落ち着いて周囲を見渡す
白い砂浜、穏やかな波、後ろに見えるは大海原そして前にはコテージが立ち並んでいる
うん、どこかのリゾート地みたいな感じだが…
人だかりが凄い事になっているぞ!
俺と姉ちゃんの周りに物凄い人が集まっている
因みに、その人たちの身なりは普通…
っていうか、まんまリゾート気分を満喫しているようなラフな格好だ
俺は周囲の人にここがどこだか尋ねてみる
会話は普通に日本語でOK
キャン ユー スピーク イングリッシュ
とか言われなくて安心したわ
まぁ、それはさておき、ちょっと地名は聞き取れなかったんだがリゾート目的の島って言う事が解った
それよりも、この島からは大陸へ向かう為の定期便が出ているらしい
俺は教えてくれた人に丁寧に礼を述べその事を姉ちゃんに伝えようとした
しかし、姉ちゃんは島の人達から質問攻めに合っている
あの水柱を立てていたのはお前か? とか どうやってここまで来た? とか どうして海の上を走っていたのか? 等など
ちょっと困っていた様子だったので、俺は遠目から姉ちゃんの様子を眺めていた
ふふふ… 困ってやがる。 いい気味だ!
…………
「おぃ! 新入り! しっかりと網を持ちやがれ!」
「はい! 親方! って、これ重すぎる」
はい、俺は今、船に乗っています
そして、沖まで漁に連れてこられています
「気い抜くな! ほら力入れて引っ張りやがれ!」
俺の横には、髭面のマッチョなオッサン
この船の船長で、俺の雇い主
で、そんなオッサンに怒鳴られてしぶしぶ不慣れな力仕事をしているわけだ
俺って頭脳担当なのに…
こういった事は姉ちゃんが向いているはず
「おらぁ! ボサッとするな! なんならここで魚の餌にしてやっても良いんだぞ!」
それって殺人だよね! お巡りさ~ん! ここに殺人者が居てますよぉ!
「ったく使えねえ奴だな! アリサさんのたっての頼みだから聞いてやったが、まさかここまで役立たずだとは思わなかったぞ」
いや、それは俺が悪い訳でないぞ!
さっきも言ったが俺は頭脳仕事向きであって…
ここに居てるのも原因は姉ちゃんな訳で…
この町へ来た時は姉ちゃんの金で、宿へ泊る事ができた
しかし、姉ちゃんと同じ部屋
変な気を使いながら生活する羽目に…
しかも、姉ちゃんから今後は自分の食い扶持は自分で稼ぐよう強く言われてしまった
姉ちゃんの圧が物凄く強い
ここでNOと言える奴が居てたら教えてくれ…
でも、考え方を変えるのだ
ネガティブは良くない… 何事にもポジティブに変換だ!
何気に見ていた胡散臭い自己啓発動画でもそういった事を言う奴がわんさといてたし…
まず、ここは俺の作った世界… とは違うかもしれないけど異世界な事に変わりはしない
しかも町の住人の衣服や生活を見ていると、もろファンタジーな世界と言うのが解る
んで、町の人達に聞いてみると、やっぱりありましたよ!
みんなが憧れる不思議パワー! 不可能を可能にしちまう『魔法』って奴が!
そんな世界ならする事は当然… 『冒険』だ!
もちろん、俺の職業はそれに因んだ『冒険者』
やっぱ、ファンタジーな世界のお約束は押さえておかないと!
なんか、そう考えたらがぜんやる気がみなぎってきたぞ!
てことで次の日、町の中を探索する
こういったリゾート地みたいな所でも、絶対に『冒険者ギルド』ってのはあるはずだから
…と思っていた事もありました
フッ… この町にそんなもん無かったよ
まぁこの世界にはあるみたいな事を聞いたから良しとしなければ…
でも、やはりまずは先立つものを用意しないと、姉ちゃんからも言われているし…
って思っていたら、姉ちゃんが仕事を紹介してくれた
うん、毎日の様に次から次へと仕事を紹介しては俺の意見なぞ聞かずに仕事を押し付ける
んで、俺は姉ちゃんの言う通り仕事をこなす日々が続いて今日に至る
はぁ、開発者とは一体…
………
「ほらよっ! 今日の日当だ! ったく、これでも多い位だぜ! 本当にお前ってアリサさんの弟か?」
陸に上がってから今日の仕事報酬とオッサンの小言を貰ってから、トボトボと宿へ歩いていた
俺は宿に入り自分の部屋に戻る
途中、宿屋の女将さんにあったが、夕食時であったのか俺には目もくれず仕事をしている
「あれ? 姉ちゃん、まだ帰ってないのか」
俺は部屋に一人でベットに座り仕事の疲れを癒していた
「あ、アリサさんお帰りなさい。 今日もお仕事お疲れ様」
下の階から女将の愛想良い声が聞こえてくる
その後すぐに俺一人だけだった部屋に姉ちゃんが入って来た
「うむ、マサオ戻っていたのか。 女将が飯の準備ができたと言っていたからすぐに向かうぞ」
俺は姉ちゃんに連れられ宿の食堂へ来ていた
俺と姉ちゃんは同じテーブルに向かい合わせで座って夕飯が来るのを待つ
女将が出来立てで湯気が立ちこめている料理を姉ちゃんの前にだす
「アリサさん、いつもこの町の為に仕事してくれてありがとうよ! これ、少しおまけしとくから良かったら食べておくれ」
凄く良い笑顔で、女将は姉ちゃんに豪勢な料理を出してきた
その後、厨房へ戻り今度は如何にも作り置きしていたであろう冷めきったスープを持ってきた
「あいよ」
俺の前にスープだけを出した後、女将は何事も無かったように厨房へ消えていく
…この扱いにももう慣れてしまった
でも… 何故か物凄く悲しい気持ちになってくる
以前、俺が女将に文句言った事があったけど、「半人前は半人前の量。 十人前は十人前の量。 当り前じゃないか」と言われた
女将基準だと、姉ちゃんは十人位の仕事を一人でこなし、俺はほとんど役にたっていない半人前との事だそうだ
「あんたが、アリサさんの弟じゃなけりゃぁ家には泊めないよ」と素で言われたこともあったかなぁ…
ていうか金払っているんだから普通に客として泊めろよ!
そんな事を俺が思っているとも全く気にしないで、食べる事に夢中の姉ちゃんが急に話しかけてきた
「マサオ、明日からは大工の棟梁の所へ行ってこい。 私は街はずれの山で魔物を狩ってこないといけないからな」
はいはい、明日は大工の棟梁の所ね…
…こっちの町に来てからリゾート気分満載の天国生活を送ろうとしていたのに!
と偉そうに言いたいが、この町での生活はほぼ姉ちゃんに頼っている
だって姉ちゃんは金を稼いでくる
しかも皆からめちゃくちゃ感謝され、かなりの大金を手に入れている
それに引き換え… うんよそう… 俺は俺のペースで頑張れば良いのだ
「あ、それとだなマサオ! 少しの間だけ浜辺には近づくな。 どうも海賊がこの町を狙っていると噂になっているからな」
あ、その話、今日船長から聞いたぞ
「おい、新入り。 明日からは来なくていいぞ!」って船長から言われた時は、かなりショックだったから覚えていた
「いや、お前が使えないから来なくていいって言った訳じゃねぇからな。 というのも、明日から当分漁へ行けないんだ」
その時に、海賊の話を詳しく教えて貰った
まぁ、国の偉い人が解決してくれるって船長が言っていたし、それまでは陸での仕事だ
…………
白い砂浜、可愛いコテージ群。
舗装されたこじゃれた道の端にはヤシの木がぁ~
はい、このリゾート気分満載にさせて頂ける町の主要産業はもちろん観光でございます
ですが、ですがですよ… わたくしマツザカ マサオは土木作業の現場で土埃にまみれております
この国でかなりの地位がある御貴族様の別荘を建造している現場で、汗水とついでに鼻水を出しながら仕事に励んでおります
それもこれも全ては魔王マツザカ アリサの所業であります
「おらぁ! そこ! 手を止めるな!」
うげ! ちょっとだけ人が今の現状をぼやいていただけなのに!
俺は慌てて必死になってツルハシを振るう
「おぅ、ヒッキー。 この間みたいに腰壊すんじゃねぇぞ!」
「ヒッキー。 ここが済んだら一緒に木材運ぶの手伝ってやるからな」
この現場、初めてじゃないから何人かの顔馴染みができている
因みに、ヒッキーって言うのは俺のあだ名
このあだ名の由来は『引き籠り』だ
そんな不名誉なあだ名が付いた原因は全て魔王アリサのせいだ!
この現場に初めて来た時って姉ちゃんも一緒だった
そして俺の事を紹介してくれたのだが、その時の紹介の仕方が問題なのだ!
「こいつは私の弟だ。 皆迷惑をかけるがよろしく頼む。 マサオは余り人と話したことがなく、家で引き籠って生活をしていたのだ。 だから皆の力でこいつを一人前にしてやってくれ」
と俺の黒歴史をさらっと暴露しやがったのだ
それからと言うもの、この現場だけでなく町全体にこのあだ名が広まってしまった
まぁ、余りこの世界の奴らに引き籠って家で生活するというのが解っていないみたいで、どうも御貴族様みたいな生活だと勘違いする奴らも居てた
いや、というか… 俺が引き籠っていた原因は全て…
「おぃ! そこ! 早く作業を… お?」
俺の事を叱りつけるのかと思ったが、棟梁の様子がどうもおかしい
遠くに見える海辺を眺めている
ここは町外れではあるが、小高い丘になっていた為周囲を一望できる
もちろん、海辺も綺麗に見渡す事ができるのだが…
なんか水平線に黒い点がいくつも見えるけど…
「おぃ、お前。 今日から漁は禁止だったよな?」
棟梁がすぐ近くに居てた奴に声を掛けて確認している
声を掛けられた奴も海を見ながら棟梁の思っている事が正しい事を告げている
一人、一人と小高い丘の上から海を見始めた
「おぃ、お前ら! 作業は中止だ! すぐに海岸へ向かうぞ! それとヒッキー、お前は役に立たんからこの町からできるだけ離れておけよ」
棟梁が現場の男衆に声を掛けている
普段の声より気合が籠っているようだ
「ヒッキー、早く行け。 もうすぐここに海賊がくるかもしれないからな!」
俺のすぐ隣にいてた奴が声を掛けてくる
「いや、みんなが行くなら俺もいくぞ!」
もちろん、俺も行くぞ! 俺だって男だ。 しかもあの孤島で数か月修行だってしてある
「あのなぁ… お前が来ても殺されるだけだろ? お前って女、子供よりもひ弱なのだし…」
なんか呆れたように俺に言ってくるが…
はい、彼の言う通り、俺は貧弱です
宿の女将さんはもちろん、近所のガキより貧弱です
だって、この世界の男共って皆筋骨隆々だし、女共も平気で酒樽を担いで歩き回っているんだぞ
そして、つい最近、俺が薬草を摘むバイトをしていた時の事だ
俺が気楽なバイトだって薬草を摘んでいたら凶悪なモンスターが襲い掛かって来たんだ
で、死んだな俺って思った瞬間、近所のガキがモンスターを退治しやがったんだ
その事がこの町のみんなに知れ渡ってしまって『貧弱のヒッキー』って2つ名まで付けられてしまった…
だとしても… だとしてもだ…
俺は話しかけてきた奴に無言で意思を通す
それを汲んでくれたのか彼が頷きながら話し出す
「仕方ねえ… お前の事は俺が守ってやるよ。 で、ちゃんと守れたら… その… アリサ様の下着を… できれば洗濯前の物をだな…」
…うん、こいつ変態だな
「解った。 俺が生き残ったら、姉ちゃんの靴下をあげよう。 もちろん洗濯前のだ」
俺の言葉を聞き、目の前の変態は凄く活き活きとした表情になりながら、何か興奮してる
…………
もの凄い人だかりができている
やたらめったらいかつい男達が集めっている
まぁ、中には衛兵ぽい奴らもいてるが、基本、タンクトップにズボンを履いているだけの野郎がそこいらにわんさと沸いている
ここに居てるだけで、体感温度が5度上昇する様な熱気だ
しかも、みんな手に刃物や棍棒っていった物騒な物を持っているのだが…
これ、何かの祭りの準備か?
…って、冗談を言ってる場合じゃない
俺は今、この町の波止場へ来ている
で、俺も含めて野郎どもの視線は皆、海の水平線を見据えている
とそこに見知った奴が目に入った
俺の視界には姉ちゃんの姿が
うん、背が異様に高いから野郎どもでごった返したこんな場所でも目立っている
俺は人込みをかき分け、前の方で海を見つめている姉ちゃんの元へやってきた
「姉ちゃん。 あれが海賊か?」
俺はすぐ隣に立っている姉ちゃんに声を掛けた
「うむ、間違いないな… さっき衛兵から聞いた出で立ちと同じだ」
…って、俺には船の形も全く解らんが
「あの臭そうで下品な顔立ちが如何にも海賊。 しかも船の形が全て該当しているな」
え? 船の形だけでなく、ここから人の顔とか見えるのか?
俺にはどう見ても黒い点にしか見えないのだけど…
「ふむ、ここまで近ければ十分だな…」
なんか姉ちゃんがボソって呟いたんだけど…
姉ちゃんの呟きなんて無視しながら、俺は緊張を押し殺し黒い点を凝視する
ボキッ
すぐ近くで、何かが折れた音がしたけどそんなの気にせず前を見据える
海の水平線には黒い点がいくつも見えている
時間が経つにつれ、一つまた一つと増えてくる
ボキッ
って、また何かが折れた音がしているが、そんなのどうでも良い
俺はこれから起こる海賊との戦いの為精神を研ぎ澄ます
ボキッ
って、さっきから五月蠅いなぁ!
一体隣で何が起きているんだ! 折角人が集中してるのに!
…え?
いや、何してるの、この人…
隣で姉ちゃんが、波止場に備え付けられていた柱をへし折り黒い点に向って投げつけている
うん、文章で書けばこうなるんだけど…
実際、まじかで見て見ると、無表情で柱をへし折り、普通に海に向って淡々と投げつけている巨大な女って、どんだけ綺麗でも恐怖を感じてしまうぞ
うん、俺の感性はまともだ
だって、周りの野郎どもも、姉ちゃんのしている事に口を開けたまま見ているもんな
ん?
なんか一瞬、姉ちゃんと目があったような?
………
うん、僕 マツザカ マサオ
只今、超低空水面すれすれの高度で飛んでいます
さっきまで遠くで見ていた黒い点だったものの全容が、船だと視認出来るようになっています
ンギョギョギョギョァァァアアアアアアアア
俺は叫びながら飛んでいる
文字通り飛んでいる アイ キャン フライ アイム ミサイルマン
って、俺の横を同じ運命を辿った野郎どもが抜き去っていく
フギョァァアアアアア
至る所で悲鳴が聞こえてくるが…
グギャァ
…………
水… それは生命の源
海… それは全生物の母
そんな海の中に俺はいてるよ
ゆっくりと深海に引きずり込まれていく
船の残骸やら、海賊と思える様な人達が俺と同じように引きずり込まれている
あぁ… お前もか…
一緒にツルハシを振るっていた変態よ
なんて良い面をして海底へ行くんだ
そんな良い面しても姉ちゃんの下着は駄目だぞ
………
「おぃ! とっととと起きんか! 本当にだらしない!」
ん? ここが死後の世界か?
「いい加減に目を覚ませ」
なんか馴染みある声が…
グホォッ
俺の下腹部を誰かが踏みつけやがった
グヘッグヘッ
咳き込みながら俺は慌てて目を開ける
口からは大量の液体が、そして衣服はべちょべちょ。
なんか髪の毛もネバネバして少し潮の匂いがするんだが…
そんで、目の前には巨大な女がいてる
無表情なその女は仰向けに寝転んでいる俺を見ている
「ふむ、目が覚めたようだな。 じゃぁ帰るぞ。 女将が夕飯をしてくれているからな」
姉ちゃんがぐったりしている俺をお姫様抱っこならぬ、俵抱っこをして宿へと連れ帰ってくれた
……………………
あれから更に数日が過ぎた
俺の生活はあの日を境に… 変わることなく全く今まで通り
それと言うのも姉ちゃんのせいだ!
俺が生死の境を彷徨った甲斐もあり、海賊共は全員逮捕された
それもこれも全ては姉ちゃんのおかげだって事で、この町を治めている領主様から褒美の話があったのに…
あろう事か、そんな美味しい話を姉ちゃんが断ってしまったのだ!
「あんな臭そうな奴らがこの町に入るなど耐えられん。 だから当たり前の事をしたまで。 第一、こんな事で褒美とか受けとれんし、受け取ってはこの馬鹿マサオが調子にのってしまうだろうが!」
と領主様の使いを追っ払ってしまったのだ
んで、その次の日、領主自らが俺達の元に来て再度褒美の話をしてくれたのに、それも即断っていたぞ
なので、俺は今も姉ちゃんが勝手に受けてきた仕事の依頼を黙々とこなしている
因みに、この事が町中に知れ渡り姉ちゃんの人気は鰻登り
更に御貴族様も感動して姉ちゃんの事を気に入っている様子
けどなぁ… 海賊の件では俺も活躍したぞ!
なのに… 誰からも褒められない
俺と一緒に人間ミサイルとして海賊と戦った名も知らぬ変態は褒められていたのに!
あ、因みに町の住人はもちろん海賊共の中にも死亡した奴は居なかったようだ
全員、この町の漁師に助けて貰ったらしい
もちろん、俺もこの町の漁師に助けられた
記憶は全く無いがみんながそう言うならそうなんだろう
そんな事を思っていると、いつの間にか今日の仕事を終えていた
俺は日給を貰って宿へと戻る
「お! マサオ戻ったのか! マサオ、この間『冒険者』って言うのになりたいとか言っていたよな」
あ、今日は姉ちゃんが先に帰っていたのか
というか、俺って姉ちゃんに冒険者になりたいって言った事あったかなぁ?
「でな、ピレネー殿から教えて貰ったんだが、どうもマサオ向けの町がこの国にはあるみたいだぞ」
なんか姉ちゃんが知らない単語を言ってきたのだが…
「ピレネーさんって誰?」
俺は率直に尋ねる
「マサオ… 今の話を聞いて、気になるのはそこか?」
なんか、呆れている様に見えるが… だって気になるもん
「あのなぁ… ピレネー殿はこの町の領主をしている人だぞ! ていうか、マサオも以前会ったことがあるだろうが」
え? 領主様? って、あの派手な服を着ていたオッサンか!
「だからマサオはいつまで経ってもマサオなんだぞ!」
そんな事を言われても、生まれた時から死ぬまでマサオなんだけど…
「ところで、今も言ったが明日から早速行くからな! じゃぁ飯を食いに行くぞ」
う~ん… どこへ行くんだ? 買い物にでも行くんか? まぁ、さっきの話からして、この町を出るって事なんだろうと思うけど流石に準備をしてから後日行くって事だよな
まさか、明日いきなり町を出発とかそういった訳… いや、姉ちゃんならその可能性も…
貴重な時間を、この作品に費やして下さり感謝しています
色々と読みにくい箇所がありますが、そこはスルーして貰えれば嬉しいです
最後にもしこの作品が良ければコメント頂ければ励みになります