表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19歳、プール監視員。  作者: カンシイン
1/1

消えたその先に

シャャャャャャャャャ...ギコギコギコギコ..ギーコギーコ

「はぁ、はぁ、」

肌寒い季節に特に何も無い下り坂を颯爽と降り、特に何も無い田んぼ道を特に何も無い表情でペダルを回す少年。

5台分しか入らなそうな何も無い小さな自転車置き場の奥にいつものように自転車を置き、鍵をかける。

誰も盗みそうにも無い田舎の中の田舎なのに....真面目な少年。 そのままある建物に入っていった。


受付をしてるお姉さん方のすぐ横にある少し重たいドアを男にしてはやや小さい体で目一杯に押し、中に入る。

「おはようございます」と彼が挨拶をすると中にいる5.6人の人達からも挨拶が帰ってきた。

そんな元気な挨拶をする彼は今年で20歳になる19歳の男、花宮 傑。 (はなみや すぐる)

そしてこの建物は傑が働かせてもらってるバイト先の市民プール。 かすみの温水プールだ。


いつものように事務所の中にある休憩室で着替えを済ませ、家から持ってきたペットボトルのお茶を片手にタイムカードを押す。 そのままタイムカードを元の位置に戻し、いつでも飲めるようにと台所のすぐ隣にある机の上にペットボトルを置く。 今日は傑が最後の出勤だったようで彼以外の従業員は既に待っていた。

申し訳なさ感じることはない。彼以外の従業員は主婦が大半で皆仲良く話をしている。傑が輪の中に近寄るとすぐに入れてくれるくらいの仲だ。友達というかお母さんというかそんな感じ。



その後は全体ミーティングが始まった。今日は遅番の日。このミーティングで朝番から遅番へと今日あったことの報告や伝言事項を共有していく。

「春の短期教室の入金しに来るお客様がいるかもしれないのでよろしくお願いします。」そう言うのはこのプールの館長 金田さん。今年で還暦を迎えるとは思えないほど元気なうちのトップの女性。とても頼りがいがある人生の大先輩だ。短期教室というのは市民プールでは小学生水泳教室や大人が対象の成人水泳教室など幅広く教室が開かれる。傑はわかった振りをしているが教室のことは大抵受付の人に任せているので右から左にそのまま流しているだけ。甘ちゃん野郎だ。


ミーティングが終わると直ぐ横にあるプールに出て溺れている人がいないか監視をする。誰しもが小学生の時にプールの授業や夏休みのプール開放の際に溺れる人がいないか監視してくれるあの人達。それが傑の仕事。基本3人で30分交代で回すのだがミーティングが終わってからこの時間の1番は決まって傑なのだ。

「監視入ります」傑がそう言ってプールに出ようとすると「お願いしまーす」と主婦達の声が帰ってくる。この掛け声は監視員達のテンプレと言ったところ。 そのままプールに出る傑。今日も綺麗で透き通ったプールの水。

「こんにちわ」傑が常連客のおばあちゃんに元気に挨拶 。 すかさずあちらも「こんにちわぁ」と返してくれる。 お客さんはいつも通りおじいちゃんおばあちゃんが4.5人いるくらい。この光景は別におかしくない。今の季節は春が来る前のまだ寒い3月なのだから僕らにとっては当たり前の光景。プールの端っこに立ってそのままお客さんの安全を見守る。 それだけである。

プールの監視というのは命に関わる仕事であるだけに緊張があるもの。だがそれは傑が研修していた1年前の話。プールで溺れる人など週5でシフトに入ってる傑が1年続けても1人も現れなかった。客層は高齢の方がほとんどだが高齢でもこんな運動するための施設に来るご老人なんてまだまだご健在の元気な方ばかり。そんな日常に慣れてしまっている傑なのだ。


今日も何も起きない。何も起きない。傑には退屈にも思える日常であった。

19という若い年で同級生は大学や専門学校、仕事でバリバリ働いている人もいる。夢も希望も何も無いつまらない少年。田舎に暮らしていると刺激も少なく都会に出るという行動力も彼にはないのだ。なので今日も平穏に一日が終わる。そう思っていた.........

がしかし

バシャバシャバシャバジャバシャバシャ

突然傑の目の前で水しぶきが上がった。それもかなり大きい。大きな魚でもいるのではないか。いやそんなはずは無い。

ここは市民プール、誰かが溺れている他に理由は無い。

1年間プールで監視員をしているが実際に緊急の事態になるのは初めて。 傑は一瞬体が動かなくなり頭が真っ白に。事態の理解に追いつかずどうしたらいいか分からなくなった。だがすぐ気を取り戻り首にかけている笛を大きく鳴らし持っていたトランシーバーを濡れないように床に置いてから水しぶきの中に飛び込んだ。

ザバァァァァァンン.....

大きな音がして傑が水に入ったぶんだけより大きい音で返ってきた。 だが妙に変だ。

数十秒経っても傑が水面まで上がってくることはなかったのだ。気持ち悪いほどに先程とは対称的な静けさ.......彼はどこに行ったのだろう......








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ