物語の続き
お年寄りから小さな子どもまで、誰もが知っているおとぎ話、『竹取物語』。
だが、かぐや姫は実在し、全ては実話だった。
そして、物語には、人々に知られていない続きがある。
月界からの迎えと共に一度は月へ返ったものの、帝を愛していたかぐや姫は、その想いを抑えきれず、もう一度地上へと降り立つ。
再びすぐに月界へと連れ戻されたものの、その短い逢瀬の中で、姫は帝の子を身籠った。
そうして、姫と帝の子どもが生まれたが、半分人の血が入ったその子を、月界へおいておくことは出来ず、姫は生まれた子どもを地上の帝へと託した。
愛する姫との、姫に似た美しい女児を帝は大変喜び、その子は帝の元で大切に育てられた。
そうして、全ては上手く収まったかのように思われたが、しばらくすると、帝の屋敷を度々妖怪が襲うようになった。
かぐや姫に求婚し、条件としてだされた燕の子安貝を手に入れようとして断命した中納言石上麻呂が悪霊となり、かぐや姫の娘を手に入れようと妖怪を操っていたのだ。
月界人の血を受け継ぐその子が悪霊の手に渡れば、どんな災いが降り注ぐか分らない。
かぐや姫は、愛する帝と娘を守るため、自分の月界人としての力を帝に渡した。帝はその力を、自分のもっとも信頼する側近達に与え、娘を守るよう命じた。
以来、彼等は月守りと呼ばれ、何千年もの間、月界の力を駆使して石上麻呂と戦い続けている……
「あー、寝ちゃってたのかぁ…。」
蛍が目を覚ますと、目の前一面に銀色が広がっていた。
「寝ちゃってたのかぁ…じゃ、ないだろ!普通あのタイミングで寝るか!?しかも立ったまま!」
あの後、結局目を覚まさない蛍を、朔がおぶって運んでいたのだ。
「ゴメンって。でも睡眠は人間の三大欲求の一つなんだよー。我慢するのにも限界があるんだって。」
そう言って、自分の背中で大きなあくびをしている蛍を、朔は呆れ顔で振り返り、足を止めた。
この、どこまでもマイペースな少年が、月守りの中でも上位の力を誇る香具夜の当代当主だと、現状からは誰も想像出来ないだろう。
しかし、蛍の髪と瞳がその力の壮大さを物語っている。
月界の力を持つ者は、体のどこか一部に藍色を有した容姿を持って生まれてくる。
そして、その藍色の強さと力の強さは比例するため、より多くの部分に藍を持つ者が、大きな力を有しているということになる。
もっとも多いのは、片方の瞳が藍色というパターンだが、蛍の瞳は二つ共に藍。加えて髪まで藍色だ。
これ程の藍を有して生まれてきたのは、長い月守りの歴史の中でも、蛍を除けば300年前に一人きりとされている。
「起きたから自分で歩くよ。」
「いい。どうせもうすぐ家だ。このまま運んでやるよ。またいきなり寝られても困るしなー。」
背中から降りようとする蛍を止め、朔は再びゆっくりと歩き出した。
「あんまり甘やかすと、ダメな子に育つよー?」
「今日は特別。その代わり、明日からはきちんと昼寝すること。」
「了解。」
そっと翼に擦り寄る感覚を背中に感じ、朔は穏やかに微笑んだ。