第84話 葛藤
「ふふふ、これでどうかな?」
米村はメタムンを人質にして再度語りかけてくる。
メタムンの首元には死神のデスサイスが今にも当たりそうになっていた。
「ひ、卑怯だぞ……正々堂々、お、俺と勝負しろっ……」
「コミュ障ってのは大変だね。こんな時でも僕に対して口ごもってしまうんだから。かわいそうに」
「う、うるさいっ……メ、メタムンを放せっ」
「だからそのためには奇跡のハチミツと交換だって言っただろう。何度も言わせないでくれよ」
「くっ……」
奇跡のハチミツを渡したら間違いなく、米村は日本にいるであろう誰かと自分の居場所を入れ替えるつもりに違いない。
そんなことを許したら……だ、駄目だっ。それだけは絶対に出来ないっ。
で、でも、奇跡のハチミツを渡さないとメタムンまで殺されてしまう……。
……ど、どうすれば。
「いいかい、善くん」
笑顔の米村は続ける。
「僕はたしかに君が思っているように日本に帰るつもりだよ。そしてもし仮に日本でもレベルや死神のデスサイスが通用すると知ったら、僕は本当の自分というものを解放するかもしれない……でもそれの何がマズいんだい? 日本にはきみの友達なんて一人もいないのだろう。だったら別にいいじゃないか。それよりも目の前のたった一人の友達であるメタムンくんを助けるべきじゃないのかな。僕、おかしなこと言っているかい?」
米村の言っていることはむちゃくちゃだ。
肯定なんて出来ない。
でも……。
『ん~、ん~っ』
メタムンを助けたい。
「……き、奇跡のハチミツを渡せば、メタムンは絶対に助けてくれるんだろうな……」
「僕は嘘は嫌いだからね。約束するよ」
涼やかな顔で米村は言う。
もう何を信じていいのかわからない。
「わ、わかった……」
俺は何度も逡巡したのち、メタムンを助ける道を選んだ。
スマホを操作して奇跡のハチミツを足元に出現させる。
「地面に置いたままにして、善くん、きみは後ろに下がってくれないか? きみを信じていないわけじゃないけれど念には念を入れないとね」
「……」
俺は一歩、また一歩と後ろに下がっていった。
米村がそれを見て動き出す。
奇跡のハチミツを拾い上げ、
「これを飲めばいいんだったね。さあて、誰と入れ替わろうかな」
と米村。
「メ、メタムンを返せっ……約束、だろっ」
「ああ、そうだったね。返すよ、もちろん。約束だからね。でもその前に……善くんにはやってもらいたいことがあるんだ」
「……?」
「今ここで、自分で自分の首をはねてくれ」
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