第82話 米村大地
「う、うわぁぁぁーっ!」
「人殺しーっ!」
「逃げろーっ!!」
「殺されるーっ!」
深町だけでなく梶谷もやられたことでそこにいた全員が我に返り、米村さんから逃げ出す。
恐怖のあまり足元もおぼつかず、勝手に倒れたり逃げまどう者同士でぶつかったりしていた。
そんな様子を冷たい微笑を浮かべつつ眺めていた米村さんは、
「人殺し? きみたちだってそのつもりだったんじゃないのかい?」
すぐ近くにいた俺にだけ聞こえるくらいの声量でつぶやいた。
そしてパニックになっている者たちを逃がすことなく、一人ずつ死神のデスサイスで斬りつけその者たちの魂を奪っていった。
一方俺はというと、まさかあの米村さんがそんなことをするはずがない、と現実を受け入れられずにいた。
この世でもしかしたら両親以上に尊敬し、憧れていたかもしれない米村さんの凶行に、俺の思考は完全にストップしてしまっていた。
なので俺は身動き一つとることが出来ないまま、ただ棒立ちの状態でその場で固まり続けるのだった。
☆ ☆ ☆
どれほどの時間そうしていただろう。
気付くと学生たちの悲鳴は聞こえなくなっていた。
そんな時、
「柴木くん、危ないっ!」
北原の鬼気迫る声がしてハッとなる俺。
とっさに振り返ると、
「きゃぁっ……!!」
北原が米村さんの凶刃に沈んでいた。
「き、北原……」
「駄目だよ、善くん。戦いの最中にぼーっとしてちゃ」
「よ、米村、さん……」
俺の目の前に立つ米村さんはいつもと変わらずニコニコとしている。
だからこそ、北原までがやられた今でもまだ俺はどこかで米村さんを信じたい気持ちがあった。
「ど、どういうことなんですか……米村さん……?」
「さっき倒した学生たちが十八人だろ、それから教授に准教授に……あと、その前の連中が合わせて百十人だったかな? いや、待てよ……」
米村さんは俺の問いには耳を貸さず、指折り数えながら何やらぶつぶつとつぶやいている。
「よ、米村さんっ」
「僕の計算が間違っていなければ……うん……」
「よ、米村さんっ!」
「逃がした奴は一人もいないはずだな……ってことはあとは」
「よ、よ、米村っ!」
俺は勇気を振り絞って米村さん、いや、米村に声をぶつけた。
それを受けてようやく米村が俺の目を見返す。
「呼び捨てはよくないなぁ。僕は先輩だよ。これまで通り米村さんって呼んでくれないと」
顔は笑っているが目の奥が笑っていない。
米村の素顔を初めて見た気がして、俺はどんな強いモンスターに相対した時よりも強烈な寒気を覚えた。
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