第61話 怒?
「それはどうしてかな?」
俺の言葉を受けて、米村さんがこれまでに見せたことのない真剣な表情で訊いてきた。
もしかして怒らせてしまったのではないだろうか。
不安にさいなまれながらも俺は、
「あの、誰も、犠牲にしたくないからです……」
と勇気を振り絞って答える。
「どういうことかな?」
「俺がこの島から出るってことは、俺の代わりに誰かをこの島に呼び寄せるってことですよね。それだとその人がかなり危険な目に遭うんじゃないかと、思いまして……その点、俺ならモンスターとも戦えますし、この島でも生きていけるので、この島を出るためには、別の違う方法を探せるかなぁと、思っています」
上手く話せただろうか。
理解してもらえただろうか。
俺は米村さんの顔をそっと盗み見た。
すると米村さんは予想に反して、太陽のようなにこにことした顔で俺をみつめていた。
「米村さん……?」
「いや、ごめん、善くんの言う通りだよ。よく考えたら誰かをこの島に無理矢理来させてしまうことになるんだもんね。うん。それは人としてよくないね、やっぱり」
「米村さん」
「この島を出られる方法をみつけたと思ってつい焦ってしまっていたよ。いや、ごめん。この通りだ」
米村さんは深々と頭を下げた。
続けて、
「メタムンくんもごめんね。先走ってひどいことを言ってしまったよ」
とメタムンに対しても同じく頭を深く下げる。
『ん? よくわかんないけど、ってことはおいらはまだ善と一緒にいられるのっ? お別れじゃないのっ?』
「うん、そういうことだよ」
米村さんのその言葉を聞いてメタムンは俺の胸に飛び込んできた。
『やったー、善ーっ! 善、善ーっ!』
俺の胸に顔をぐりぐりと押し付けてくる。
少しくすぐったい。
「許してくれるかな? メタムンくん」
『許すも何も大地が言ったことは本当のことだし、気にしてないよっ』
「そっか、ありがとう」
何もはともあれ、これでよかったのだろう。
俺はほっと胸を撫で下ろしつつ小さく息を吐いた。
そしてこのあと、島にいるみんなに変に期待を持たせないように、奇跡のハチミツのことは一切他言はせず、俺と米村さんとメタムンだけの秘密にすることにしたのだった。