第54話 再会
仮に、今俺たちがいるこの【魔物島】が地球上には存在していないのだとしたら、四ヶ月もの間救助が一切来なかったこともうなずける。
それもそのはず助けに行きたくても俺たちは地球にはいないのだから。
もちろんこれは俺の単なる推測にすぎない。
ロジックなどほぼほぼない穴だらけの仮説だ。
俺が知らないだけでかなり大きな島が地球上にはあるのかもしれないし、俺が歩いた道のりが自分で思っていたほどの距離がなかっただけかもしれない。
なので俺はこんな信じたくない仮説は胸の内にしまっておくことにした。
☆ ☆ ☆
『あ、おはよう善っ。よく眠れたっ?』
「ああ、おはよう。ばっちりだ」
本当は目が冴えてしまってなかなか寝つけなかったのだが、あえて言う必要はないので俺はメタムンに嘘をついた。
『おいらお腹すいちゃったよ。早く朝ご飯にしよう、善っ』
「そうだな。でもその前に顔洗ってこようか」
『うんっ』
俺とメタムンは丘を下りてすぐのところにある川に向かった。
数分後、川に到着した俺たちは、顔を洗い眠気を覚ます。
そしてすっきりした気分で朝食の準備を始めた。
☆ ☆ ☆
『いっただっきまーす!』
「いただきます」
と二人して口にしたその時、
「んっ? そこに誰かいんのかっ?」
ぶっきらぼうな口調の男性の声が届いてくる。
微妙に聞き覚えのある声だった。
すると直後、ガサガサと葉っぱが揺れる音がして、その奥から男性が姿を見せた。
さらに続いて男性がもう一人と女性が二人出てくる。
彼らは俺と目が会うなり、
「なっ、て、てめぇ……!?」
「な、なんでここにっ!?」
「あ、あんたはっ……」
「うわ、最悪っ……!」
ある者は驚き、またある者は恐れおののき、またある者は顔をしかめた。
「お前たちっ」
それは俺も一緒で二度と会いたくない相手だったのでつい眉をひそめる。
その相手とはもちろん梶谷ら四人組だった。
「お前たち、まだ四人で行動してたんだな」
俺が声をかけると、
「お前には関係ないだろっ」
梶谷がいかにも見下すような目線で返す。
「そ、それよりてめぇのせいでハードモードになっちまったじゃねぇかっ! どう責任取るつもりだこらっ!」
深町が語気荒く発した。
「いや、それに関しては悪いと思ってるけどさ……」
それを言われると言葉がない。
実際に俺のせいで迷惑をこうむっている人がいるはずだからな。
「でも俺も一応みんなのために頑張ってるつもりだし……」
「んなことは聞いてねぇんだよ、馬鹿がっ!」
「やるなら迷惑かけないで頑張ってくれる?」
「べ~だっ!」
深町と佐藤、高梨が俺に嫌悪の感情のこもった言葉を浴びせてくる。
「まあ、そうだけど……」
「てめぇのせいで大勢が迷惑してるんだっ、謝れっ!」
「そうだな、謝ってもらおうか」
「謝ってちょうだい」
「土下座しろ~っ」
調子づいた四人は言いたい放題口にする。
これにはさすがにちょっとだけだがムカッと来た。
また俺の力を見せつけてやろうか。
なんならリリースを使ってから、ここら一帯を吹き飛ばしてやったっていい。
それで黙って消えてくれるなら、と本気で考えていた矢先、さらなる訪問者が現れた。
「うわっとっと……いったたた。木の枝が引っ掛かっちゃったよ、まったく……ん? やあ、こんにちはっ。あれ? なんかお邪魔だったかい?」
そのおかしな男性にも俺は見覚えがあった。
「なんだよあんたはっ」
「関係ない奴はすっこんでろっ!」
「……」
「わっ、超イケメンっ」
その男性は四人の顔を順番に見てから、
「せっかくこんなところで出会えたんだし、みんなで朝ご飯にしない? 僕食材なら結構持ってるからさ」
とおどけた口調で言う。
「いいからさっさと消えろよっ」
「イカレてんのかてめぇ!」
「……」
「超カッコイイし~」
梶谷ら四人の反応は様々だった。
しかし業を煮やした深町が男性の前に歩み寄り、胸ぐらをつかんで引き寄せる。
「おい、てめぇ。いい加減にしろよ、ぶっ殺すぞっ!」
「そんな暴力的な言葉はよくないよ。もっと平和的にいこうじゃないか。ねっ」
男性が微笑みかけると、
「うるせぇ、このや――い、いや、わかった、そ、そうだな、い、今はそうしてやるぜっ……」
何かに気付いたように、一触即発ムードだった深町がなぜか突然態度を変えた。
くるりと後ろを向き、男性から離れそそくさと逃げるように立ち去っていく。
「おい急にどうしたんだよ、深町っ。おい深町っ!」
「……っ」
「ちょっと、何~っ」
三人も深町を追って森の奥へと消えていった。
それを見届けてから男性は俺に向き直る。
「やあ、僕のこと憶えてるかな?」
俺はその爽やかすぎる超絶イケメン笑顔をもろに受け、記憶が鮮明によみがえる。
「ええ、はい、もちろん、です……」
この男性とは入学式の日に出会っていた。
俺にきさくに話しかけてきてくれて、それから……たしか、米村大地と名乗ったはず。
「……二年の米村大地さん、でしたよね」
「うん。また会ったね、善くん」
そう言うと米村さんはにこやかに微笑んだ。




