第52話 出発
『善、これからどうするっ?』
仲間になったばかりのメタリックスライムであるメタムンが、俺を見上げて訊いてくる。
「そうだなぁ、とりあえずこの島の全容を把握したいから、まだ行ったことのないここから東の方に進んでいこうと思うけど。ついでにレベル上げが出来れば最高だな」
『そっか。じゃあ行こうか善っ』
「おっと、その前に。お前に訊いておきたいことがあるんだ」
意気揚々と動き出したメタムンを引き留める俺。
『なあに?』
「お前の強さを一応知っておきたいんだ。お前、レベルとかってあるのか?」
仲間になったからには相手のことは知っておきたい。
せっかく仲間になったのにモンスターとの戦闘で死なれても困るからな。
それにもしかしたら使える特技か何かを覚えているかもしれないし。
だが、
『ないよ』
とメタムンが返す。
『おいらたちモンスターは生まれた時からずっと同じ強さだからね』
「そうなのか」
『おいらの強さはそうだなぁ、普通のスライムとおんなじくらいかな』
「それってすごく弱いんじゃないのか?」
『えへへ、まあね』
なぜか照れ笑いを浮かべるメタムン。褒めてないぞ。
「それじゃあ特技とかは何か覚えてるのか?」
『そういうモンスターもいるけどね、おいらは何も覚えてないよ』
特技がないことなどまったく気にしていないといった様子でメタムンが答えた。
うーん……獲得経験値が2倍になるという特性がなかったら、まったくもって使えない足手まといだなこいつ。
「だったらこの先、モンスターとの戦闘は俺に任せておいてくれ。お前は離れたところで身を守っていればいいから」
『そう? 別においらも戦ってもいいけど』
そんなことをしたらハードモードのモンスター相手ではきっと瞬殺されてしまうだろうが。
「あー、いや、俺は経験値がほしいからな。俺に戦わせてくれ」
『そっか、そうだねっ。じゃあ戦闘は善に任せるよっ』
「おう」
メタムンのプライドを傷つけないようにと俺は言葉を選びつつ話をする。
まさかモンスター相手に気を遣う日が来ようとは思ってもいなかった。
すると、
『ねぇ、善はレベルいくつなのっ?』
今度はメタムンが訊ねてくる。
「俺はレベル3008だけど」
『3008っ!? 何それ、めちゃくちゃすごいじゃん! わぁ、善ってそんなに強かったんだー!』
「ん、いやまあ、それほどでも」
モンスターに褒められてまんざらでもない俺。
普段から褒められ慣れていないせいで顔のにやけが止まらない。
今自分の顔を鏡で見たら、きっと顔の下半分が緩みきっているに違いない。
『善ってすごいんだねっ。おいら尊敬しちゃうよっ』
「べ、別に普通だって。それよりもういいだろ、先を急ぐぞ」
『オッケー!』
これ以上の褒め殺しには耐えられそうもなかったので、俺はそうそうに話を切り上げると、メタムンとともに東のまだ見ぬ地へと出発した。