第42話 広本という男
広本という人間を探すべく地下牢から逃げ出した俺だったが、
「あ、貴様っ。こんなところで何をしているっ!」
俺を捕らえた三人組の一人である背の高い女子学生と鉢合わせてしまう。
「ヤバっ」
「おい、みんな来てくれっ! 脱走者だっ!」
大声を上げて仲間を呼ぶ背の高い女子学生。
それを受けて近くにいた女子学生たちが一斉に集まってきた。
あっという間に五人の女子学生たちに囲まれてしまう。
「さあ、もう逃げ場はないぞ。観念しろっ!」
女子学生たちは手を広げ、お互いにその手を掴んで包囲網を完成させた。
「それともあたしたちと戦ってみるかっ? だがあたしたちは全員レベル70以上だからな、貴様のようなチビに勝ち目などないがなっ!」
「こんな奴、殺っちゃいましょうよっ」
「駄目よ、広本様におうかがいを立てなくちゃ」
「その広本様に反旗を翻してるんだから殺しちゃってもいいはずじゃん」
女子学生たちは俺を見据えながら思い思いの言葉を口にする。
それにしても言いたい放題言ってくれるな、まったく。
まさか女子学生たちを殴り飛ばすわけにはいかないので、俺は持ち前の敏捷性でもって瞬時に移動してみせた。
「「「「「っ!?」」」」」」
目の前から一瞬にして消えたことで女子学生たちは、
「ど、どこ行ったのっ!?」
「上かっ?」
などと俺を完全に見失っている。
実際は女子学生たちの腕の下を高速でくぐり抜け背後に回っただけだが、彼女たちにはそれを目で追うことは出来なかったようだ。
俺はそのままの勢いで今いる建物の最上階へと向かった。
俺が閉じ込められていた牢屋は村の中央付近の一番大きな建物の地下にあった。
普通に考えれば村で一番偉い奴は一番大きな建物に住んでいるはずだ。
そう考え、俺は階段を二段飛ばしで駆け上がり最上階にたどり着いた。
するとそこには大きな扉があった。
そして中からは男と女の声が聞こえてくる。
妙になまめかしい声から察するにどうやら中では情事が行われているようだった。
「う~ん……どうするか」
恥ずかしい話だが、今まで十九年間生きてきてそういう経験が皆無な俺にとっては、目の前の扉を開ける勇気がなかなか出ない。
しかし早くしないとさっき撒いた女子学生たちが、俺が最上階に向かったと気付いて上がってきてしまうかもしれない。
「あ~~もうっ、どうにでもなれっ」
俺は大きな扉を勢いよく開け放った。
バンッと大きな音がしたことで、こちらを振り返る男女。
二人して抱き合っていたが、服は着ていたので俺はその姿を見て内心ほっとする。
「だ、誰だっ!?」
男の方が慌てた様子で声を飛ばしてきた。
中肉中背で顔はお世辞にもカッコイイとは言えない感じの冴えない男子学生だった。
隣にいた女子学生はベッドの後ろにすっと隠れ気配を消す。
「お前が広本って奴か?」
「き、貴様はあれかっ。今日女どもが捕まえてきたっていう男かっ!?」
「やっぱりお前が広本なんだな。お前、アイテムか呪文で女子たちを洗脳してるんだろ。それを今すぐ解くんだ」
「ふ、ふざけるなっ! せっかくのハーレムをみすみす捨てるわけないだろっ!」
広本は唾を飛ばしながら反抗的な態度を見せた。
「この<チャームの指輪>は絶対に渡さないぞっ!」
そう言って広本は右手を高々と上げる。
その右手の中指には、広本には不釣り合いなほど大きな宝石のついたきれいな指輪があった。
きっとあの指輪が女子学生たちを洗脳し、操っているアイテムに違いない。
「お前、恥ずかしくないのか? アイテムなんかに頼って」
「うるさいうるさいっ! 貴様のようなイケメンにはおれの気持ちなんてわからないんだっ!」
赤子のように手足をばたつかせてわめきたてる広本。
なんだこいつは。
……というか。
「俺がイケメン? どこがだ? お前、目悪いのか? 自分で言うのもなんだが俺はこれまで彼女がいたことなんて一度もないんだぞ」
こんなこと言わせないでくれ。
「おれに比べれば貴様だって充分イケメンだっ! それくらいおれはブサイクなんだっ! アイテムでも使わなきゃおれは一生一人なんだっ! うわぁ~~ん!」
広本は大声で叫び声を上げ、しまいには泣き出す始末。
……マジで、なんだこいつ。