第40話 独裁国家
「すご……」
俺は言葉を失っていた。
三人の女子学生に連れられてやってきた場所は、歴史の教科書で見た弥生時代の集落の様子そのままだった。
広い田んぼには農作物がびっしりと並んでいる。
みくちゃんたちには申し訳ないがこういうのを本当の村と呼ぶのだろう。
「なんだ、ここ……」
「おい、私語は慎めっ!」
「わ、わかったよ」
そんな怒鳴らなくてもいいだろうに。
背の高い女子学生にたしなめられ俺は口をつぐむ。
我ながら情けないが、子分肌な性格の俺は強い口調で命令されると委縮してしまうのだ。
かなり広々とした村だったが、視界に入ってくるのは女子学生ばかりで男子学生の姿はまったく見当たらない。
そんな村人らしき女子学生たちの無遠慮な視線をその身に受けつつ、俺は村の中央付近の建物の地下に連れていかれた。
「よし、とりあえずここに入ってろっ!」
と背の高い女子学生。
その言葉を受けて腕を掴んでいた二人の女子学生が俺を牢屋の中に突き飛ばす。
「うおっと……」
「広本様は今大事なミーティング中だっ。しばらくはそこでおとなしくしてるんだなっ!」
言って女子学生たちは立ち去っていった。
「どうなってるんだ……?」
まるで広本という人間を王様のごとくあがめているようだ。
広本って奴は一体……?
とその時、
「お前さんも捕まったのかい?」
牢屋の奥の方から男性のしゃがれた声がした。
俺は一瞬驚くも、気を取り直して奥の方をみつめる。
すると薄暗くて気付かなかったが牢屋の中には俺のほかにも人がいた。
見覚えこそないが、見た目から察するにおそらく神里大学の教授ってところだろう。
年齢的には俺の伯父さんと同世代に見えた。
「あなたは?」
俺が訊ねると、
「わしは神里大学の教授で石栗という者じゃ。これでも名誉教授じゃよ」
男性はゆったりとした口調でそう返した。
やはり教授だったようだ。
「ここで何を?」
「お前さんと一緒じゃよ。捕まったんじゃ」
達観した様子で石栗さんは答える。
「彼女たちはなんで俺たちを捕まえたんですか? 俺、特にマズいことはしてないと思うんですけど……」
領土に勝手に入ったとか言っていた気はするが……。
「広本とやらのせいじゃよ。彼女らはどういうわけか広本の命令通り動いておるのじゃ」
「え? あの、よくわからないんですけど……広本って誰ですか?」
俺は率直に思ったことを口にした。
すると石栗さんはこうつぶやいた。
「広本はいうなれば、この独裁国家の王様ってとこじゃな」




