第4話 スクールカースト上位の人間たち(三ヶ月前)
嫌な予感は当たっていた。
俺たちが出会った男女四人は俺たちと同じく神里大学の新入生だったのだ。
彼らもまた、大きな揺れの直後から記憶をなくしていて、目を覚ますとここにいたのだという。
「マジかよ、くっそ」
「どうなってんだよ、一体!」
「助かったと思ったのにっ」
「最悪~」
思いの丈を口にする面々。
どうにも居心地が悪い。
「つまり、ここがどこかもなんでわたしたちがここにいるのかも誰も知らないわけね」
「ああ、そうだ」
北原の問いかけにリーダー格らしき男子学生が答えた。
「でも仲間が増えたのは心強いわ。ここからは一緒に行動しましょ」
北原が手を差し出すと、
「いいぞ。おれは梶谷陸翔、よろしくな」
「おれは深町健太だぜっ」
「佐藤玲子よ」
「あたしは高梨奈々、よろしく~」
間違いなくスクールカーストの上位に位置するであろう四人がそれに応じる。
「わたしは北原奏美。こちらこそよろしくねっ」
北原は持ち前の積極性で四人の学生たちと握手を交わしていった。
一方の俺はというと、引っ込み思案が顔を出し「えっと……柴木善です、よろしく」と中途半端に敬語を使ってしまう。
さらに四人のうち誰を見ていいかわからず、目が泳ぎまくってしまっていた。
そんな俺に違和感を覚えたのか、
「じゃあ、奏美ちゃん。そろそろ行こうか」
梶谷が明らかに俺を無視し北原にだけ声をかける。
それに倣い、ほかの三人も俺の存在をないものとして行動し出した。
「手ぇ繋ごう、かなみん」
「かなみんって可愛いね~」
佐藤と高梨の女子二人が北原を取り合うように両隣について歩くと、梶谷と深町の男子二人がその光景を後ろから眺めながらあとをついていく。
そして「お前はお呼びじゃない」とばかりに梶谷と深町は広く大きな背中をずっと俺に向けていた。
俺は自分のことはそれなりに客観視できているつもりだ。
性格は温和だが根暗で消極的。
見た目は決してブサイクではないがイケメンというわけでもない。
身長と体重は成人男性の平均そのもの。
自分に点数をつけるとするならいいとこ65点てとこだろう。
それに比べて俺の目の前を歩く五人は見た目だけなら全員90点はかたい。
そして北原はともかくとしてほかの四人は俺を煙たがっている。
そんな連中と行動を共にするのは正直言って心が疲弊する。俺の方から願い下げだ。
だから――
「あの、ちょっといいかな」
俺は意を決して彼らに話しかけた。
「あん? なんだよ」
と面倒くさそうに梶谷。
話しかけてくるなオーラを少しも隠そうとする気がない。
……まあ、無視されなかっただけマシか。
「えっと……悪いけどさ。俺、ちょっと確かめたいことがあるから別行動してもいいかな?」
実際はそんなことなどないのだが、北原の手前そう言っておく。
「あー、好きにしろよ」
「全然構わねぇぜ」
「いいんじゃない」
「いいよ、ばいば~い」
四人からは予想していた通りの反応が返ってきた。
俺がいなくなってせいせいするとでも言いたげだ。
一方、北原は、
「え? 駄目だって、一人にならない方がいいよ。ここがどんな場所かわかってないんだから」
と俺のことを心配するようなセリフでもって異を唱える。
会ったばかりの俺を気遣ってくれることに関してはとても嬉しい。
嬉しいのだが、ただでさえ俺はコミュ障をこじらせているというのに、五人中四人が俺の存在を認めていないグループに居続けるのは精神的にかなりしんどい。
無理して居続けたりしたらいつか爆発するかもしれない。
――などと言えるはずもなく。
「大丈夫だよ。俺、こう見えても脚力には自信があるから、何かあったら逃げればいいんだし。むしろ一人の方が自由に動ける」
「でも……」
「それに二手に分かれた方が効率的だろ」
それらしいことを言ってみる。
「うーん、でもやっぱり心配――」
「一人になりたいって言ってんだからそうさせてやろうぜっ。なっ」
食らいつく北原の言葉を遮って深町が一歩前に出た。
北原の肩に手を置き、
「こいつの言うことももっともだぜ」
と北原の説得を試みる。
さらに佐藤と高梨も北原に寄り添い、
「本人がだいじょぶって言ってるんだから平気だよ」
「あたしたちが足手まといになるかもしれないんだしさ~」
追随する。
そして最後に梶谷が、
「おれたちは海沿いをあっちに進んで、こいつは海沿いを逆向きに進んでいけばいいんじゃないか。そうすりゃいつかまた必ず会えるんだ、問題ないだろ」
北原に爽やかな笑みを見せた。
なまじ顔がいいので男の俺でさえ一瞬目を奪われそうになってしまった。
「うーん……わかった」
渋々承諾した様子の北原は俺に顔を向けて「柴木くん。じゃあ本当に気をつけてね」と念押しする。
「ああ、ありがとう……じゃあ、とりあえずみんなとはここでお別れだ」
俺は北原から順番にそこにいた全員の顔を流し見してからくるりと向きを変えると、その場を離れ来た道を歩いて戻るのだった。
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