第34話 宣言
意識を失う前に博士さんから少しだけ話が聞けた。
それによると昨日の夜遅く、キラージャッカルの群れが突然村を襲ったのだそうだ。
戦える人たちでなんとか抵抗を続けたが徐々におされていき、最終的には村のほぼ全員が噛まれて毒に侵されてしまったという。
さらにキラージャッカルたちは動けなくなったその人たちを自分たちの巣へ一人残らず連れ去ったらしい。
博士さん曰く、どうやら食糧として巣に保存しておくつもりなのだろうということだ。
☆ ☆ ☆
「じゃ、じゃあお母さんたちもそのモンスターの巣に連れていかれたってことっ?」
「ああ、そうだろうな」
「ど、どうしよう。お母さんたちが食べられちゃう……」
今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げるみくちゃん。
みくちゃんの心の中は推察することしか出来ないが、きっと胸がはち切れそうなほどつらいに違いない。
乗り掛かった舟だ。
ここでみくちゃんを見捨てたら、俺は自分のことが今以上に嫌いになってしまうだろう。
だから――
「心配しなくていいよ。俺がみんなを連れ戻すから」
俺はガラにもなく男らしいセリフを吐いていた。
「ほんとっ? しばきんぐっ」
「ああ。でもさっきも言ったけど俺は回復呪文で傷を癒したり、キラージャッカルを倒すことは出来るけど、毒はどうしようも出来ないんだ。そこでみくちゃんに頼みがある」
☆ ☆ ☆
俺はみくちゃんを置いて村を出た。
もちろんキラージャッカルの巣に向かい、そこにいるであろう村のみんなを助けるためだ。
その間みくちゃんには村に残って俺の手伝いをしてもらうことにした。
俺はみくちゃんに二つのアイテムを渡しておいた。
一つは魔物島の天然水で、もう一つは<ライフシード>というアイテムだった。
ライフシードは緑色をした大きめの種で、この種を地面に蒔いて十分おきに水をあげ続けるとわずか一時間で大木に成長するというものだ。
そしてその大木には薬草や魔力草、毒消し草などのハーブ類が大量に生い茂るのだ。
毒消し草があれば村のみんなの毒を中和できる。
だから俺はその大事な役目をみくちゃんに託してきたというわけだった。
「さて、この中か」
とある洞窟にたどり着いた俺は呼吸を整える。
博士さんはその名の通り頭が切れるようで、キラージャッカルの一匹に<位置情報シール>というアイテムを貼っておいたのだそうだ。
そのアイテムにはGPSのように位置情報を常に知ることの出来る効果があるらしく、そのおかげで俺はキラージャッカルの巣まで迷わずに来れたというわけだ。
「みんな無事だといいけど」
俺は洞窟の中を見据えながら、みくちゃんのためにもそうであってほしいと、一人つぶやいた。




