第30話 夢
牛を連れた兄妹を見送ると俺は木の上に登った。
この辺りにはキラージャッカルがまだいるかもしれないので、念のため木の上で夜を明かすことにする。
まだ就寝には少し早い気もしたが、歩き通しだった俺はうとうととしているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。
☆ ☆ ☆
久しぶりに夢を見た。
夢の中には俺の両親が出てきていた。
「善、やっぱり父さんたちも入学式に出た方がいいんじゃないか?」
「そうよ。それに私も善の入学式の姿、録画しておきたいし」
父さんと母さんが玄関先で俺を呼び止めそんなことを言い出す。
「いいよ、来なくて。普通は親は子どもの大学の入学式なんて来ないから」
「そうなの?」
中には親だけでなく兄弟までくる家庭もあるらしいが俺はそんなのご免だ。
家族に外での俺を見られたくはないからな。
「うん。親が来てたりなんかしたら恥ずかしいから、来ないでくれよ」
「そうなのか? じゃあ、せめて父さんが空港まで送っていこう。それくらいはいいだろ」
「そうね、それがいいわ」
「いいって。一人で電車で行くよ」
俺は革靴を履きつつ二人を見やった。
「うーん、そうか。じゃあ気を付けるんだぞ」
「体壊さないようにね」
と心配そうに俺をみつめる二人。
やはり俺の両親は心配性な性格をしている。
俺が相手の顔色を変に窺うようになったのも両親の影響なんじゃないだろうか。
「じゃあ、行ってくるから」
俺は返事を待つことなく玄関のドアを閉めて家をあとにした。
その翌日、俺は東京のビジネスホテルを出てから神里大学のキャンパスに到着。
入学式の時間まではまだ余裕がある。
俺は知り合いなど一人もいないので、適当にキャンパス内をうろつくことにした。
さすが東京の大学生、みんな洗練されていて俺とは何から何まで違う。
場違いなのではないか、大学選びを誤ったか、などと若干気落ちしていた俺に、
「やあ、もしかして新入生かい?」
気さくに話しかけてくる者がいた。
振り向いてびっくり、まるでどこぞのモデルのようなスタイルの超絶イケメンだった。
「あ、う、うん、そうだけど……」
「初めまして、僕は二年の米村大地。今日の入学式で在学生代表として挨拶するんだ」
「あっ、そ、そうなんですか」
先輩だったのか。
タメ口で話してしまった。
「入学式に参加する二年生は僕だけだから緊張するよ」
言って胸を押さえる。
そんな仕草が映画のワンシーンのように画になる。
「きみ名前は?」
「えっと、柴木です。柴木善」
「善くんか、いい名前だね。善……うん、かっこいい名前だ」
「は、はあ、どうも」
なぜこの米村という先輩は俺に話しかけてきたのだろう。
周りにはもっと社交的な美男美女がわんさといるというのに。
俺が訝しんでいると大学のチャイムが鳴り、
『米村大地くん、至急学長室まで来てください。米村大地くん、至急学長室まで来てください』
アナウンスがキャンパス中に響き渡った。
「おっと、呼ばれちゃった。じゃあ善くん、またあとでっ」
「は、はい」
爽やかな笑みと石鹸のいい匂いを残して米村さんは走り去っていった。
「……はぁ~……疲れた」
☆ ☆ ☆
過去に体験した現実とほぼほぼ一緒の夢はここまでで終わっていた。
あのあとに俺を含めた入学式の参加者たち全員が【魔物島】でのサバイバル生活を強いられることになったわけである。