第26話 怒りの感情
すると俺の心の中を読んだかのようにタイミングよく高梨が、
「でもあれは自業自得ってやつだよね~」
とけらけら笑いながら口にした。
「自業自得?」
「うんそう。深町くんがかなみんにキスしようとしたの。そしたらビンタされてね、かなみんは走っていっちゃった~」
「あ、お前べらべら喋んなよっ」
「えへへ、ごめ~ん」
高梨は深町に注意され可愛らしく舌をペロッと出す。
その姿は全然反省しているようには見えない。
いや、今はそんなことよりも――
「それでそのあと北原はっ?」
「知らな~い」
「おれが知るかよっ」
「さあね」
「おれももちろん知らないぞ。勝手にいなくなった奴のことなんていちいち気にしてらんないしな」
四者四様の答えが返ってくるが、そのどれもが無責任なものだった。
「ってわけだ、もういいだろ。ほかに用がないならおれたちは行くぞ」
リーダーの風格漂う梶谷がきびすを返すとほかの三人もそれに続こうとする。
だがその時、俺は深町の手に見覚えのあるものが握られているのを見た。
そういえばさっき……。
「な、なあ、その薬草はどうしたんだ?」
「はぁ? なんだよ、いい加減にしろよっ」
「さっきスライムがどうとか言ってたよな。もしかしてその薬草って、スライムから奪ったのか……?」
「だったらなんだよ、うっせえなっ」
深町は顔の血管を浮き立たせ不快感をあらわにする。
しかしこの時の俺はどういうわけか感情的になっていたので追及はとまらない。
「その薬草を持ってたスライム、まさか倒したのか……?」
「文句あんのかっ。殺したに決まってんだろ、あんな雑魚っ。生きてても価値のねぇ奴なんざ、おれ様の養分になってりゃいいんだっ」
深町のこのセリフに俺は頭に血が上るのを感じた。
今までさんざんモンスターを倒してきた俺にそんな資格はないのだろうが、北原に対しての言動とスライムに対する仕打ちを思い、自分でもわけがわからないが無性に腹が立っていた。
「その薬草、返してくれ」
「はぁっ? 何言ってんだてめぇ」
「俺がスライムにあげたやつなんだ、それ。だから返してくれ」
「頭おかしいんじゃねぇのかっ。キモいんだよてめぇはっ」
深町に胸をどつかれる。
「会った時からずっと思ってたぜ、キモイんだよ根暗野郎がっ。みんなそう思ってるぜっ」
「たしか柴木だったよな、お前。これ以上絡んでくるならおれが相手になるぞ」
俺と深町のやり取りを眺めていた梶谷が一歩前に出てきた。
こいつもまた背が高いので威圧感がある。
「別に絡んでなんかないさ。俺の薬草を返してくれって言ってるだけだ」
「はぁー、話の通じない奴だなお前。いいか、教えておくがおれのレベルは83だ、多分この島で一番強い。痛い目見たくなかったらとっとと失せろ」
落ち着いた口調だが深町よりも迫力を感じた。
梶谷は自分に絶対の自信があるようだった。
「お前だって怪我したくはないだ――」
ドゴオオォォォーーーン!!
梶谷の言葉を遮って俺は岩肌がむき出しになっていた岩壁を思いっきり殴りつける。
無数のつぶてが勢いよく飛び散り、梶谷たちを襲った。
「うわっ……!」
「いてっ!」
「いたぁっ……!」
「きゃっ……」
もちろん俺にも当たったが俺にダメージはない。
そして砂煙が晴れていくと、そこにはさっきまであったはずの岩壁がごっそりとなくなっていて、三十メートル先まで何もない更地になっていたのだった。