第21話 別離
「それでここから二十キロくらいかな? 行ったところが俺と北原が出会った場所だから。とりあえずもし北原に会えたらそこに向かうように言っておくよ」
「……は、はい。ありがとうございます……」
食事を終えた俺は北原すみれに遠くを指差し待ち合わせ場所の説明をする。
こうしておけば時間はかかってもいつかは姉妹が再び出会える日が来るだろう。
ちなみに北原すみれが自らにかけた認識阻害呪文の効果は今しがた消えたところなので、俺は北原すみれの姿を直接確認しながら喋れている。
「一応訊くけど、一人で大丈夫なんだよな?」
俺の問いに、
「……は、はい。だ、大丈夫です、こ、これまでも一人でしたから……はい……」
北原すみれはうなずき、俺の目を見返してそう答えた。
出会った時よりは幾分か視線が合うようになっている。
「ならいいんだ」
「……わ、私はこれから、し、柴木さんに教えてもらった場所に向かってみようと思います……」
「わかった。それなら俺は反対の方向に行くから」
「……あ、あの……」
北原すみれは一度足元に目線を落としてから、意を決したように俺を見上げ、
「し、柴木さんっ。い、いろいろとありがとうございましたっ。あ、あとそれから、姉のことよろしくお願いしますっ」
びっくりするくらいの大きな声を発した。
俺は離れていく北原すみれの背中をずっと眺める。
そしてその姿が見えなくなると、
「じゃあ、俺も行くかな」
一人きりの【魔物島】探索を再開した。
☆ ☆ ☆
北原を探すという新たな目的も出来たが、俺の目下の最優先事項はこれまでと変わらず、やはりこの【魔物島】を抜け出て自宅に帰ることだ。
俺が無事家に帰る方法をみつければ、北原たちもそしてほかの学生たちも全員家に帰ることが出来る。
そのためにもやはり俺はこの島を探索しなくてはならない。
この島は大きい。
三ヶ月間歩き続けているというのに、いまだに全容が把握できていない。
もちろん毎日歩きっぱなしというわけではない。
レベル上げに熱中する日もあれば、アイテム集めにいそしむ日もある。
とはいえ、この【魔物島】がかなり大きな島であることはまず間違いない。
俺たちがいなくなったことで外の世界がどうなっているのか、俺はそれがとても気になっている。
俺の両親は心配性な性格でもあるので、今ごろパニックになっているのではないだろうかと不安なのだ。
俺はまったくもって無事なんだと知らせてやりたいが、その手段は今の俺にはない。
ここが海に囲まれた島である以上、いかだなどを作って脱出するという手もなくはない。
そういう考えも一度は頭をよぎった。だがそれはさすがに無謀というものだろう。
現在地がわからない上に素人の作ったいかだ程度では、大海原を無事に渡り切れるとは到底思えない。
良くて遭難、悪くて死が待っているはずだ。
それならば呪文に頼ってみてはどうか。
仮に瞬間移動できる呪文や空を飛ぶ呪文、遠くの人間と連絡が取れる呪文などを覚えることが出来れば、家に帰れるのも時間の問題ではないだろうか。
俺はそのように考え、一人レベルを上げ続けていたのだった。




