第2話 入学式(三ヶ月前)
――三ヶ月前、季節は春。
俺は新調したスーツを着て都内の神里大学の入学式に出席していた。
沖縄から上京したばかりの俺には当然知り合いなど一人もいなかったので、大講堂の端の方の席でおとなしく式の進行を見守っていた。
新入生代表の挨拶や学長の話などがつつがなく進み、式も中盤に差しかかった頃だった。地元選出の区議会議員が祝辞を述べていると、突如として大講堂全体が大きく揺れた。
体感では震度3か4程度だっただろうか、地震大国日本ではさして珍しくもないことだったので、俺を含め学生たちも教師たちもみんな落ち着き払って揺れが収まるのを待った。
だがいくら待っても一向に揺れが収まる気配はなく、それどころか徐々に揺れは激しさを増していった。
俺の隣の席に座っていた女子学生がスマホを確認し、
「ねぇ変だよ、地震情報が全然出てないんだけど」
俺に顔を向けてきた。
「もう二分近く揺れてるよね、おかしくないっ?」
「え、あ、ああ。そうだな」
コミュニケーション能力に難のある俺は、いきなり初対面の女子学生に話しかけられたことにテンパり生返事をした。
「なんかヤバいって、これっ」
「おい、どうなってんだよっ」
「どんどんでかくなってるぜっ」
「やだ、怖いっ!」
「みんな、落ち着けって!」
さすがにこの事態を異常だと感じ始めたのか、声を上げ出す学生たち。
そこかしこで女子学生の悲鳴と男子学生の怒号が飛び交った。
「みなさん、冷静に! すぐに揺れは止まるはずですから、慌てないで!」
学長がマイクを通して呼びかけるも、学生たちの耳には届かない。
この頃になると震度は6か7近くまで達していたように思う。
大講堂内はパニック状態だった。
普段から感情の起伏が乏しい俺でさえ「大丈夫かよ、これ……」と不安な気持ちを口に出していたほどだ。
そして揺れを感じてから三分弱、それは突然訪れた。
ドゴォォーーン!!
ここまでで一番大きな縦揺れが襲ってきたのだ。
そしてその瞬間、俺はまるで逆バンジーのような強い衝撃を全身に受け――
――そこからの記憶はまったくない。