第19話 石化した者たち
「……あっ、ちょっと待ってくださいっ……」
歩き出そうとすると北原すみれが俺を呼び止める。
「ん、何? どうかした?」
俺は北原すみれがいるであろう方向に声を飛ばした。
「……あ、あの、ここにある石像って、多分もとは人ですよね……?」
「ああ、うん。そうだと思うけど」
周囲には精巧に作られたような石像が複数置かれていた。
おそらくだがここにある石像はすべて、コカトリスの唾を受けてしまった人間たちの末路なのだろう。
「……わ、私の呪文でもとに戻してあげてもいいですか……?」
「あー、そっか。そういえば状態異常を治す呪文が使えるんだったな。いいんじゃないか」
「……わ、わかりました。じゃ、じゃあ、少しだけ待っていてもらえますか、すぐ済ませますので……」
「別に急がなくてもいいよ。肉は逃げたりしないからさ」
「……は、はい、ありがとうございます……」
☆ ☆ ☆
「いやあ、助かったー。ほんとにありがとうっ」
「助けてくれてサンキュー!」
「一生あのままかと思ったわ。ありがとねっ」
「この恩は一生忘れないぜっ」
石化が解けて見事もとの姿に戻れた者たちは、口々に感謝の弁を述べていく。
といってもそれは北原すみれに対してではなく俺に対してだった。
もちろん石化を解いたのは北原すみれなのだが、自身の呪文によって他者が存在を認識できない状態になっているので、不本意ながら仕方なく俺が石化を解いたということにしておいたのだ。
「本当にありがとうー!」
もとに戻った最後の一人の若い女性が大きく手を振り去っていく。
それを見届けてから俺は北原すみれに話しかけた。
「あれでよかったのか? みんな俺が石化を治してやったって思ってるぞ」
「……い、いいんです……みなさんがもとに戻ってよかった、です……」
「お人好しだな。そんな性格だと人生苦労するぞ」
自分のことは棚に上げて人の性格に意見する。
何様なんだ、俺は。
「さてと、じゃあ今度こそ食事にしようか。もう空腹で目が回りそうだからな」
「……は、はい……」
「鎧イノシシの肉は見た目は悪いけど味は保証するから、期待しててくれ」
「……た、楽しみです……」
「じゃ、行くか」
「……は、はいっ……」
森の中を意気揚々と歩き出す俺たち。
だが、火をおこした場所に戻ってみると――鎧イノシシの肉は真っ黒に焼け焦げていたのだった。