第17話 認識阻害呪文
「……え? い、いいんですかっ……?」
「落ち合う場所を決めておいて、北原に会えたら伝えておくってことでいいかな」
「……は、はい、そ、それで構いません、けど……本当に、いいんですか……?」
「いいよ。それくらいなら」
「……ほ、本当に、ですか……?」
「ああ」
「……ほ、本当に、姉を探してくれるんですか……?」
北原すみれは信じられないといった表情でもって繰り返し問うてくる。
俺はそれに努めて明るく応じた。
「きみには危ないところを助けてもらったし、北原にも少なからず恩があるからね」
「……柴木さん……あ、ありがとうございますっ……」
「あ、でも俺これまでずっと一人で行動してたから、ほかの学生たちの情報とか接点とかほとんどないけどそれでもいい?」
「……あ、だ、大丈夫ですっ。わ、私も似たようなものなのでっ……」
と顔をこくこくと動かし北原すみれはそんなことを言う。
「似たようなって……まさかきみも一人で行動してたの?」
「……あ、は、はい……」
「この島でずっと一人で?」
「……そ、そうです……」
「マジでっ?」
俺はにわかには信じられずつい声が大きくなってしまう。
だがそれも仕方のないこと。
なぜならこの【魔物島】には大小、強弱さまざまなモンスターが棲みついていて、中には俺でさえそこそこ手こずる強力なモンスターも存在しているからだ。
そんな【魔物島】をか弱そうな女子学生がたった一人でおよそ三ヶ月もの間生き抜いてきたとは到底思えなかったのだ。
「きみ、レベルいくつ?」
虫も殺せないような雰囲気を漂わせているが、それでいて実はかなり高レベルの熟練者なのだろうか。
その可能性もなくはない、そう思い訊ねてみた。
「……わ、私のレベルですか? えっと……」
北原すみれはスカートのポケットからスマホを出してそれをちらっと確認。
「……わ、私はレベル11です……」
「えっ、レベル11なのっ?」
「……は、はい……」
予想していたよりも遥かに低いレベルに俺は驚きを隠せない。
スライムやツノウサギ、霧ガエルなどの低レベルの弱いモンスター相手ならどうとでもなるだろう。
しかし三ヶ月間も島を歩き回っていたら高レベルのモンスターに遭遇することもある。
それは俺自身が体験しているからよくわかるのだが、そんな時レベルが11程度では正直言ってかなり心もとない。
なので俺は、
「レベル11で今までどうやって生きてきたの?」
と率直な疑問をぶつけた。
その際につい失礼なもの言いになってしまったが、それに対して嫌な顔一つせずに北原すみれは「……わ、私、状態異常を治す呪文以外に、も、もう一つ呪文を覚えているんですけど……認識阻害呪文っていって……その呪文を使うと、私という存在を認識されなくなるんです……」と。
「存在を認識されなくなる?」
理解できず俺は馬鹿みたいにオウム返しをする。
「……た、試しに使ってみましょうか……?」
「いいのか? じゃあ頼む」
「……わ、わかりました……」
うなずくと北原すみれは「バニッシュ」と唱えた。
すると北原すみれの姿が俺の前から一瞬で消えてなくなった。




