第108話 集団転移
集合場所にたどり着くとそこには四百人くらいの学生たちが集まっていた。
中には学長や教授たちの姿もある。
みんな俺を見るなり、
「柴木、ありがとうーっ」
「柴木くんのおかげで帰れるわっ」
「本当にありがとうね、柴木くんっ」
「柴木、サンキュー!」
次々に感謝の意を口にしていった。
「あ、ああ……」
俺はなんと返していいかわからず、適当に相槌を打ちながらメタムンとともにただ歩を進める。
と、
「柴木くーん! こっちこっちーっ!」
大きな声で俺を呼ぶ者がいた。
そちらを振り向くとそこには見知った顔があった。
「北原っ」
俺が視界にとらえたのは北原奏美と北原すみれ。
それだけではなく、さらに梶谷と深町の姿だった。
『あ、あいつらっ』
メタムンが梶谷たちの顔を見て駆け出す。
そして二人に向かって体当たりを何度も浴びせた。
「お、おいっ、ちょっと、なんだよっ……」
「柴木っ、こいつどうにかしてくれよっ」
梶谷と深町は困惑した顔で俺に助けを求めてくる。
「メタムン、もういいんだ。その二人とは仲直りしたから。だからもうその辺で勘弁してやってくれ。なっ、メタムン」
俺の言葉に『むぅ……まあ、善がそう言うならいいけどさっ』とどこか物足りなさそうな顔をしつつ、メタムンは梶谷たちから離れた。
「ふぅー……まったく」
「助かったぜ、柴木」
安堵の表情を浮かべる梶谷と深町。
初めて会った頃に比べれば丸くなったような気がする。
そんな梶谷と深町をよそにメタムンは北原の胸元へとダイブした。
「メタムンちゃん、久しぶりっ」
「メ、メタムンさん、どうも……」
『奏美もすみれも元気だったっ?』
「うん、もっちろんっ」
相変わらず相手との距離を詰めるのが上手いメタムンと北原。
そして相変わらずか細い声で聞き取りづらい喋り方のすみれ。
「これで全員揃ってるのか?」
北原に顔を向けると、
「ええ。柴木くん待ちだったからねっ」
と北原が元気よくこれに応じる。
「そっか、悪かったな。じゃ、じゃあ早速、日本に帰るとするか」
「「「おおーっ!!」」」
俺の周りを取り囲んでいた学生たちが手を高く掲げながら大声を上げた。
それを受けメタムンが北原の腕の中から飛び下りる。
「あれっ? メタムンちゃん?」
『おいらはここまでだからねっ』
「えっ、そうなの、柴木くんっ?」
「ああ。メタムンとはここでお別れだ」
「それでいいの、二人とも」
『うん、もちろんさっ』
「ああ」
「そ、そう、なんですか……メ、メタムンさん、お、お元気で……」
『すみれもねっ』
笑顔のメタムン。
「そ、それじゃあ、みんな、俺の半径百メートル以内に集まってくださいっ! 転移装置を起動しますからっ!」
俺はそこにいる全員に聞こえるようにお腹の底から声を出した。
みんなが俺を中心にして集まってくる。
あっという間に満員電車のごとく、ぎゅうぎゅう詰めになった。
「じゃあ……スイッチオン!」
俺は転移装置を起動させた。
転移装置はきっかり一分後にその効果を発動する。
59、58、57……。
45、44、43……。
21、20、19……。
そして、残り十秒になると大声でカウントダウンが始まった。
「「「10、9、8、7、6、5、4……」」」
その時メタムンが俺の胸に飛び込んできた。
『善っ! おいら、善と出会えてよかったっ! 善と一緒にいた時間はおいらの一生の宝物だよっ!』
「お、俺だって、メタムンと出会えて本当によかったと思ってるさっ! この数ヶ月、本当に楽しかったっ!」
『善っ、やっぱりおいら、まだ善と離れたく――』
メタムンが目に大粒の涙を浮かべながらそう発した瞬間――無情にも転移装置の効力はメタムンには発動しなかったのだろう、メタムンを残して俺たち全員は【魔物島】から脱出したのだった。
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