第102話 リフィート
「西崎、お前の考えはわかった。でもな、俺はかなり強いぞ。レベルもステータスも文字通りお前とは桁違いだ。デコピン一発でもお前は死ぬぞ。そんな俺とやり合うのか?」
これは自慢などではなく、事実だった。
だからこそ考えをあらためてもらおうとして言ってみたのだが……効果はなかったようで、
「そんなことはわかっていますよ。ここに来るまでに師匠のレベルも一応調べておきましたからね」
西崎は笑顔を崩さない。
「その時がたしかレベル6000くらいだったので、今はレベル6500くらいなんじゃないですか? 当たってます?」
「さあな」
実際は8998だがもちろんそれを言うわけはない。
「そのレベルドレインっていうのは相手の同意がないとレベルを奪えないんだろ。だったら諦めろ、俺は絶対に同意なんかしないんだからな」
「やってみないとわからないですよ、師匠。筒井さんだって初めは似たようなことを言っていましたからね」
と笑顔の西崎。
何を企んでいるのか、表情がまったく読めない。
「師匠はとても強い。それは誰よりもボクが一番よく知っています。でもね、師匠。もし師匠がうんと小さくなってしまったらどうですか?」
「なに?」
「リフィート!」
西崎が突如俺を指差し声を上げた。
すると直後、俺の体がみるみるうちに縮んでいく。
「あはははっ。師匠、今のがボクの縮小呪文ですっ」
「なっ、なんだとっ!?」
と言っている間に俺の背丈は三センチほどに縮んでしまっていた。
西崎が縮小呪文というものを使えることは知っていたが、まさか自分以外の者に対しても使えるとは思っていなかった。
「こ、このっ、もとに戻せっ」
「はい? よく聞こえないですよ。もっと大きな声で喋ってください師匠」
「西崎、俺をもとの大きさに戻せっ!」
俺は言いながら西崎に殴りかかろうとジャンプしたのだが、全然高く跳ぶことが出来ない。
「無理ですってば師匠。その体ではボクに傷一つだってつけることは出来ませんよ。縮小呪文で小さくなるとステータスが激減するんです。前に言いませんでしたっけ?」
楽しそうに西崎が微笑んでいる。
「さてと、ではとりあえず師匠のレベルをボクに分けてもらいましょうか。師匠って今レベルいくつですか?」
「教えるわけないだろっ」
「師匠、強がらない方がいいですよ。その状態はあと一時間続くんですからね」
「なっ!?」
そ、そうだった。
西崎の縮小呪文の効果は一時間だと西崎自身が前に言っていた。
「ほらほらっ」
「くっ、や、やめろっ!」
西崎が俺を踏み潰そうと足を動かしてくる。
俺はそれをなんとかかわす。
「遅い襲い、遅いですよ師匠っ」
「ぐあっ……!」
まるでサッカーボールのように蹴られて吹っ飛んだ。
「くっ……」
西崎は立ち上がろうとする俺を右手で握って自分の目の前まで持ってくる。
「どんなに師匠が強くても、こうなっては手も足も出ませんよね」
「こ、このっ……」
西崎の言う通りだった。
西崎自身のレベルも相当高いのだろうが、それ以上に俺が弱くなりすぎているのだった。
これではリリースを使ったところでたかが知れている。
1を2倍にしても2になるだけだ。
何度もリリースを重ね掛けすればなんとかなるかもしれないが、それを西崎が見過ごしてくれるとは到底思えない。
そ、それでも――
「レ、レベルだけは、やらないからなっ……お、お前なんかに、や、やってたまるかっ……!」
現状維持を目的としている西崎に俺のレベルを分けてしまったら、この【魔物島】から誰も抜け出せなくなってしまう。
それだけはなんとしてでも避けなくては。
「はぁー、師匠はそう言うと思いましたよ。それでこそボクの尊敬する師匠ですからね」
俺の決意を目の当たりにしても西崎は落ち着いていた。
それもそのはず、西崎は俺の弱点を見抜いていたのだった。
「でも今はボクの言うことを聞いてほしいので、メタムンさんに協力してもらいましょうか」
そう言った西崎は一足飛びでメタムンの背後に移動すると、メタムンを思いきり踏みつけた。
『うぎゃっ……!』
そしてレベルドレインをメタムンの頭部に突きつけて、
「師匠、ボクにレベルをください。さもないとメタムンさんを刺し殺します」
怖いほどの満面の笑みでもって俺にささやくのだった。
ブクマや評価、感想ありがとうございます!
これからも応援よろしくお願いしますm(__)m




