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#2 変化

#2 変化


雨が降る帰り道二人は肩を並べて歩いている


「そういえばさ、バイトの事先生応援してくれたよ」


「じゃあ..!」


「私バイトする!」


「やった!」


紗奈が喜ぶ顔を見て深結も思わず微笑んだ。



次の日


昨日の雨が嘘に思えるほどの快晴だ。


「ふぁー、眠い眠い」


いつもみたいに紗奈はまだ寝ぼけている


「面接、頑張ってね」


「うん」


昨日の帰り道、早速面接の日を決めた。というのも事前に紗奈が店長に話をしていてくれたおかげで、話は早く明日面接をしようということになった。


「一つだけ相談なんだけど..」


さっきまでは明るかった顔に少し曇りがかかった


「病気のことでしょ?」


深結が言うと


「うん...店長には伝えておいた方が良いんじゃないかなって、もし何かあった時もその方が...でも、深結が嫌なら言わなくて良いし、言うにしても、自分から言うのがしんどかったら私から言っても良いから」


「大丈夫、私からちゃんと伝える」


「分かった、無理はしないようにね」


「うん、分かってる..」



朝のチャイムが鳴って、空が夕焼け色になる頃に二人は下校する。


「面接か、緊張するなぁ」


「大丈夫!私も裏から見守ってるから!」


「ありがとう、頑張る」



「すみません、今日面接に伺いに来た小山深結です」


「あー!君が深結ちゃんか!待ってたよ、じゃあ早速面接始めよっか」


「はい!」


正方形のテーブルを挟んで向かい合わせに座る


「改めまして、店長の宮崎健(みやざきけん)です。宜しくね。まあ面接って言っても、ほとんど紗奈ちゃんから聞いちゃったからこれといって訊くこともないんだけど...なんか質問とか事前に言っておきたいこととかあれば何でも言って」


笑いながら言う姿を見て、店長さんの人柄の良さを感じた


「えっと..その...私、精神系の病気を持っていて..」


「分かった、じゃあ何かあったらいつでも早退とか休んだりして良いから。くれぐれも無理はしないでね」


「はい、ありがとうございます」


「じゃあ採用!これから宜しくね!」


「はい!」


元気良く返事をした。


その後はシフトの相談をして終わった。


今は19時半。紗奈は20時までのシフトなので、一人で帰っても良かったが今はなんとなく紗奈と話したかった。だから30分間近くのカフェで時間を潰すことにした。



窓際の一人席。いつも紗奈と行くカフェとは違った内装を新鮮に感じながら夏の暑さで火照った体を甘さ控えめのカフェラテで冷やした


少しの時間でも深結は机に参考書とルーズリーフを広げた。何はともあれ7月の中旬頃に一学期期末試験がある。猶予はあと三週間だ。このタイミングでバイトを始めるのもどうかと思うが、それは良いとして今日は上手く集中できない。考えても何が原因なのかは分からなかった。


"19時57分"


深結はカフェを出てお店の前に向かう


「紗奈ー!」


ちょうど紗奈が仕事が終わってお店から出てきたところで深結は手を振った。


「待ってたの?!」


「そうだよ」


「ありがとう」


二人は微笑み合ってから肩を並べて歩き始めた。


帰り道の長めの坂に差し掛かった頃


「どうして待っててくれたの?」


「なんかね、紗奈と話したくって」


「そっかじゃあこっち来て!」


紗奈は深結の手首を握って走り出した。足を止めたのは坂の途中にある小さな公園だった。そこのブランコに紗奈は座って


「深結もこっちおいで」


言葉に流されるまま隣のブランコに座った


「話してごらん」


優しく掛けられた言葉に思わず下を向いた


「昨日の面談の時なんかあったんでしょ?」


何も言わなかった。違う、言えなかった。図星だったからだ


「誰にも言わないからさ」


固く結んだ口元が緩んでいくのを感じた


「あのね..今度先生と親と私で三者面談をしようって言われて。いつもは親と先生だけでやってたから。私も頑張らなきゃって思って......」


「そっか。ありがとう、話してくれて」


頑張って話した割には素っ気ない返事にも聴こえたけど、変に詮索されるより良かった。きっと紗奈もそれをわかってそういう返し方をしたんだ


「辛くなったら、逃げても良いんだよ」


「大丈夫」


「なら安心した!じゃあ帰ろっか!」


紗奈は勢いよくブランコから立ち上がって手を一回パチンと叩いた。



帰宅後


「お母さん....」


普段自分から声を掛けることはほとんどない。どうしたら良いのか分からなくて顔を見なくてすむように後ろから声を掛けた


「...今度のお母さんとの面談、私も来てほしいって先生が..」


言った。言えた。でもお母さんは何も言わなかった


「それだけだから..邪魔しちゃってごめんなさい」


その場を去ろうとしたとき


「深結」


後ろからお母さんに抱きしめられた。優しかった。温かった。でも溢れた言葉に自分でも驚いた


「離して」


冷め切った声で確かにそう言った。


どうしたら良いか分からずにその場を逃げるように去った。


バタン!勢いよく自分の部屋のドアを閉めてそのまま寄り掛かった


はぁ..はぁ...と切れた息を深呼吸で落ち着かせてから椅子に座って机に突っ伏した


「なんであんなこと言っちゃったんだろう」


考えたって分かりっこないのに頭から離れない


「ごめんなさい」


それを言うことしかできなかった。本当なら本人にちゃんと伝えるべきなことはわかってる。でもそれができないからこうして机に突っ伏しているのだ。


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