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腐女子OL、悪魔姫に転生す  作者: 木天蓼亘介
9/40

第9話・「ぎゃ~~~~~~~~~~っ」

「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 ツカサは天も引き裂かんばかりの絶叫をあげていた。



 なぜこんなことになったのか?



 肝心なところが見えまくりの、小さめな裸エプロン姿でアイリたちと森を抜けたヘルは、駆け付けた近衛隊にドーナツ状にぐるりと囲まれ、彼女たちが構えた盾に守られてお城に無事帰還していた。

 そして、そのまま謁見の間に通されていた。

 なぜ謁見の間なのかというと、これだけの人数が一塊になって通れる扉が他になかったからだ。

 そして、アイリが持ってきてくれたドレスに着替させてもらったツカサは、姿見に映る自分に驚きの表情を見せていた。

 なぜなら、彼女自身、こうやって自分を見るのは初めてだった。

 確かに肌は紫色で耳も尖り、頭にはツノも生えていて八重歯も牙のようだったが、女子中学生ぐらいの幼い顔立ちで鏡に映る自分は、それがチャームポイントになるぐらいの美少女だった。

 それだけではない。

 顔立ちと同じく小柄な体型であるにもかかわらず、彼女はドレスの上からでもハッキリ分かるぐらいボン、キュっ、ボン、なグラマラスボディの持ち主だったのだ。

「異世界転生、恐るべし」

 ツカサは思わずドレスを踏まぬよう少し持ち上げ、その場で“くるっ”と回転していた。

 その身体に少し遅れて、更々の髪とドレスの裾が“ふわっ”と舞い上がりながら回るのが見える。

 ()()を見ていたコルデ3姉妹や、近衛たちから感慨の声が漏れた。

「ヘル、素敵」

 マリアにそう言われ、

「そ、そお?」

 思わず照れるヘルに、

「はい、とってもお綺麗です」

 と、アイリも目を輝かせていた。

「まぁ、そのドレス、すごく似合ってるわね」

 その時、扉の方から聞こえてきた、聞き覚えのある声に皆が振り向くと、()()にはお妃が立っていた。

「お妃様」

 皆が慌ててその場に膝を着き、

「お母様~っ」

 マリアは嬉しそうに母に駆け寄っていた。

 が、慌ててしゃがもうとしたツカサはドレスの裾を踏み、その場で豪快に転んでいた。

「へ、ヘル様っ大丈夫ですか?」

 アイリが慌てて駆け寄り抱き起こすと、

「痛った~っ、は、鼻打ったぁ~」

 そう言って、真っ赤になった鼻をさすっていた。

「ヘル様、今お薬をお持ちしますから」

 それを見たアイリが立ち上がろうとした瞬間、

 “ぐぐ~~~っ”

 と、ヘルのお腹が鳴り、彼女は顔を真っ赤にして鼻を押さえながら、

「ご、こめんアイリ。薬よりも何か食べたいんだけど、いい?」

 照れくさそうにそう言っていた。

「は、はい。では、今すぐ用意させます」

 が、なぜかアイリの表情は固かった。

「!?」

「それなら、私と一緒に食べましょうか?」

 そんなアイリに違和感を感じるツカサに声をかけたのはお妃だった。

「もうすぐ3時。これから午後の紅茶を楽しもうと思っていたの。ヘルもお食事を兼ねて付き合ってくれると嬉しいわ」

「は、はい。喜んで」

(お妃様と一緒に食事って、どんな豪華なランチだよ)

 ツカサは握りしめた拳で小さくガッツポーズをしていた。

 そして3階にある食事の間に通された彼女は、やはりアニメや映画でしか見たことがない豪華過ぎるテーブルを前にして豪華過ぎるイスに座り食事が運ばれて来るのを待っていた。

 が、テーブルに並ぶナイフやフォークを見てツカサは愕然としていた。

 何故なら、彼女はこういう時のテーブルマナーを全く知らなかったのだ。

「どうかしたのですか?顔色が悪いですよ」

 さすがと言うべきか、それに気付いた妃が気を遣うように話し掛けてきた。

「あ、あの、お妃様。私、テーブルマナーを全く知らなくて・・・」

 お妃の助け船に、ツカサは正直にその事を話した。

「それは仕方ないわ。今まで暮らしてきた文化やしきたりが全く違うのだから。あなたが思うように食べなさい。大丈夫。ここには私たちしかいないんだから」

 お妃はそう言いながらウインクしていた。

「あ、ありがとうごさいます」

 すると、クロシュと呼ばれる銀の半球状のドームカバーが乗ったお皿が2つ、車輪付きのトレイに乗って運ばれてきた。

 ()()を見てツカサは驚きを隠せなかった。

 1つのクロシュはドラマや映画でもよく見るサイズだったのだが、もう1つは高さが1メートルはあろうかという、信じられないほど大きかなものだった。

(な、なにこれ?)

 クロシュの下に隠されているであろう豪華絢爛な御馳走の数々を想像し(よだれ)が止まらないツカサは、アイリやミセリたちの顔色が異常に悪く、メアリやマリアは椅子の後ろに隠れ、お妃にいたってはティーカップを持つ手が小刻みに震え、“カチャカチャカチャカチャ”と音が響いていることにさえ気づいていなかった。

 そしてアイリが、目を逸らしながらクロシュを持ち上げた瞬間姿をあらわしたのは、体育座りにされ、頭蓋骨を外されて脳ミソが剥き出しになった猿獣と、仰向けのまま活け作りにされて、“ゲコゲコ”鳴く巨大なカエルだった。

「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 その刹那、ヘルは天も引き裂かんばかりの絶叫をあげて、口から泡を吹きながら椅子ごと後ろに卒倒していた。

「ヘルっ」

「ヘル様っ」

「ヘル様っ」

「ヘル様っ」

 メイドや近衛たちが慌てて駆け寄り彼女を抱き起こした。

「ヘル様、大丈夫ですか?」

 アイリが心配そうに顔を覗き込みながら、水が注がれたグラスをヘルの口元に運んでいた。

「ヘル様、お水です」

 ヘルは()()を手に取ると、一気に飲み干していた。

「な、な、なんなの()()~っ」

 そして、絞り出すような声でそう訴えていた。

「なにって、ヘル様のお食事です」

「しょ、食事ぃ!?」

 あきらかに動揺を隠せないヘルに、

「はい。あ、あの、古い文献を読んでヘル様に喜んで頂けそうなものを御用意したのですが・・・」

 アイリも困惑を隠せない。

 それに気付いたツカサは、

「えっと、ありがとうアイリ。でも私、()()()()()が苦手で、その、普通のご飯がいいの。せっかく用意してくれたのにごめんなさい」

 そう謝罪していた。

「い、いえ。謝らないでください。そうですよね、ヘル様は人を食べないのですから、()()()()()は苦手かもと考えるべきでした。あの、ヘル様はどのようなお食事をお望みですか?」

 反省しきりの表情のアイリにそう訊ねられ、

「そ、そうね、とりあえずその前に水をもう一杯貰える?」

 そう返すとアイリは、

「分かりました。今すぐおかわりをお持ちします」

 そう言って彼女の手からグラスを受け取り、部屋を出て行ってしまった。

「えっ!?」

 それを見て、ツカサは不思議に思った。

 今まで見てきた異世界転生モノのアニメだと、こういう場面では、ガラスや陶器で出来たピッチャーを持ったメイドが側にいて、グラスに水を注いでくれるはずなのに?

 そう思い周りを見渡した彼女は、お妃様の側にさえピッチャーを持つ者がいないことに気付いた。

「なんで?」

 “バタンっ”

 その時、扉が勢いよく開いた。

 ()()に立っていたのは、いかにも商人といった風情の老人だった。

「お妃様。なんとかしてください。このままでは私の、いえ、この国の全て工房は潰れてしまいます」

 そう言いながら近付いてきた老人は、床に座り込んでいるのがヘルだと気付くと、

「あなたがヘル様か?」

 と鋭い眼孔で睨み付けていた。

「は、はい。一応そういうことになっておりますが・・・」

 そして、状況が飲み込めず“ぽかん”としているヘルに、

「あんたのせいだぞ。どう責任を取るつもりだ」

 と、どやしつけていた。

「は!?どうゆうこと?」

 けれど、話が噛み合わない彼女に、老人は怒りを爆発させるように、

「窓の外を見ろ~っ」

 と叫んでいた。

「えっ!?」

 ヘルは言われるままに窓を開けて外を見た。

 すると、3階にいる彼女に届くぐらい壺やピッチャーが山積みにされていた。

 いや、この瞬間にもメイドたちが次々に壺などをを運んできて捨て続けており、ヘルの目の前の陶器の山は未だに大きくなり続けていた

「えぇっ!?なにこれ?どうゆうこと?」

 訳がわからすヘルが振り返ると、

「あ、あんたのせいだ~」

 そう言って、さっきの老人が泣き崩れていた。

「あんたが壺族がいるなんて言うから。あの騒ぎから陶器が全く売れなくなって。それどころか皆が疑心暗鬼になって家中の壺を捨て始めて、このままじゃ我々だけでなく陶器を造る職人や窯元まで皆が失業しちまう。この責任をどう取ってくれるんだ~っ」

「えっ!?そんなことになってるの?」

 と、驚いているところに、さっきリンゴ園で見た少女が駆け込んできた。

「へ、ヘル様大変です。巨獣が・・・」

 ここまで必死に走ってきたのだろう。

 彼女は行きも絶えだえでその場にへたり込んでしまい、そう伝えるので精一杯だった。

「えっ!?巨獣。もしかしてまた誰か襲われてるの?」

 巨獣と聞いた瞬間、ツカサの脳裏に、さっきの巨獣がリンゴ園で働く人たちに襲い掛かる姿が浮かんだ。

「大変、助けなきゃ」

 彼女は、ドレスが破れるのもお構いなしに背中の翼を広げると、リンゴ園に向かって飛び立っていた。




                                          〈つづく〉

























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