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腐女子OL、悪魔姫に転生す  作者: 木天蓼亘介
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第8話・「もう帰れない」

 


「見られた~、また見られた~」

 ヘルはお城の裏手に広がる広大な森の奥で、大木の切り株に突っ伏して号泣していた。



 なぜこんなことになったのか?

 アイリのことが心配だった彼女は、悪魔城を飛び立つと脇目も振らずに物凄いスピードで飛行し、城下町の上を通ってフェアデリア城へと帰ってきていた。

 一刻も早くアイリに会い彼女だったが、ぐんぐん近付いてくるお城を見ながらある事実に気付いていた。

 お城のどこにアイリがいて、どうしたら会いにいけるのかが分からない。

 それ以前にお城の入り口がどこにあるのかさえ彼女は知らなかった。

 なぜなら、昨日は号泣しながら幼い女の子2人に手を引かれて入城したため、どこから入城し、どこをどう歩いたかさえ全く記憶になかった。

「どうしよう?」

 困り果てながらお城の上まで来た彼女は、農園の上に出ていた。

「すごい、お城にこんな広い農園があるんだ」

 そして()()で農作業に励む女性達を見つけた。

「よかった。あの人たちに聞いてみよっと」

 ツカサはゆっくりと降下していった。

 いや、そのつもりだったが、ゆっくり飛ぶのが苦手な彼女は又もやあっけなくバランスを崩し、農園に墜落していた。

 “どっごぉぉ~~~んっ”

 畑の真ん中に突然鳴り響いた轟音に驚いた女性たちが振り向くと、彼女たちの目の前で土煙があがり、しかもその中で、いかにも悪魔らしい黒い巨大な翼が蠢いているのが見えた。

「きゃ~~~っ」

 その、禍々(まがまが)しく動く翼に、女性たちが恐怖の雄叫びをあげながら(くわ)を振り上げた瞬間、

「げほっ、げほっ、もう、どこかに着地の仕方を教えてくれる教習所とかないの~」

 そう言いながらヘルが立ち上がっていた。

「えっ!!へ、ヘル様!?」

「ヘル様あぶない」

「よけて~~~っ」

 そう、一度振り下ろした鍬を途中で止めることなど出来るはずもなく、3つの鍬が彼女の頭めがけて振り下ろされていた。

「えっ!?」

 と、声をあげた瞬間、ツカサは2本の鍬を両手で、そして残る一つを歯で“がしっ”と受け止めていた。

「へ、ヘル様ぁ~」

 それを見た女性たちは、腰が抜けるように膝から崩れ落ち、その場にへたり込んでいた。

「ほへほへほへほへほへ」

 ヘルは両手に掴んだ鍬の柄をへし折り、口に咥え噛んだままの鍬を噛み砕きながら何やら話したが、()()をすぐに吐き出し、

「ねぇ、アイリは無事なの?教えて?」

 そう言いながら女性たちに詰め寄っていた。

「ひぃぃ~~~っ」

 腰が抜けて動けないところに、鼻の頭同士がくっつくぐらいの距離で鬼気迫る表情のヘルの顔をドアップで見させられ、3人は気絶していた。

「わ!?わ!?どうしよう?お願い、目を覚まして」

 そう言いながら、気絶した一人の肩を掴み“ぶんぶん”と前後に揺らす。

「う、う~ん」

 彼女はなんとか目を覚ましたが、目の前の悪魔姫の必死の形相に、

「いや~~~っ」

 と、泣き叫びながら逃げ出していた。

「ちょ、ちょっと待ってぇ~~~っ」

 その後ろ姿にツカサは叫んでいた。

「ねぇ、アイリは、アイリは無事なの?」

「えっ!!アイリ?」

 アイリの名前を聞いて女性は“ピタっ”と止まった。

「そう、彼女はいまどこにいるの?ケガとかしてない?」

 そう必死に訴える彼女の言葉に、女性は恐る恐るこちらを見た。

「アンリは、ケガとかはありませんでしたが、お妃様の御命令で医務院に連れていかれたと聞きました」

「そう、ケガはなかったんだ。よかった」

 “ほっ”と胸を撫で下ろしたヘルに、女性が恐る恐る話し掛けた。

「あ、あの、ヘル様。その格好でここまで飛んで来たんですか?」

「えっ!?」

 そう指摘され、ツカサは初めて自分の身体を見た。

 すると彼女が身に着けていたのは、アイリが作ってくれたブラと、肝心なところを極小の布で隠す以外は“スケスケ”で“ヒラヒラ”の超セクシーなパンツだけだった。

 それからのことはよく覚えていない。

 気が付くと彼女は森の奥で、木の切り株に突っ伏して号泣していた。

「見られた~っ」

いつからかは定かでないが、大群衆の前でアイリを助けた時には既に()()()()だったことはほぼ間違いない。

 昨日は近衛の人たちに()()()()()()姿()を見られ、今日は町中の人にこんなエロい下着姿を見られるとは・・・。

「これじゃ、ただの露出狂じゃん」

 そう泣き崩れる彼女の耳に、微かな音が聞こえた。

「なに、この音?、ヘルイヤー」

 彼女はそう言いながら、戦隊ヒーローみたいにポーズを決めて耳をすませた。

 それは、人間には絶対聞こえない、遥か遠くにいる人の声だった。

「ヘル~っ、どこ?」

「ヘル~っ、どこにいるの~っ」

「ヘル様~っ、どこにいるんですか~っ」

「ヘル様~っ、返事してくださ~い」

 それは、自分を呼ぶメアリやアイリやミセリ、それにサクラやメイド達の声だった。

 ツカサはその声を走馬灯のように聞いていた。

「私がいると皆に迷惑がかかるし、アイリには会わせる顔がない。・・・もうこれでお城には帰れない。さすらいの旅に出よう」

 彼女はそう言って翼を広げ飛び立とうとした。

「!?」

 その時、彼女はある気配を感じとっていた。

 ()()は、王室の近衛隊長であるミセリでさえその存在に気付かないほど完全に気配を消していた。

 そして次の瞬間。その凄まじいまでの殺気が、アイリに襲い掛かっていた。

「アイリ、あぶないっ」

 何が起きたのかは彼女自身にも分からなかった。

 ヘルは一瞬にして数㎞の距離を移動し、アイリを(かば)うように抱きついていた。

 そしてその背中を、巨大な鋭い爪が切り裂いていた。

「ヘルっ」

「ヘル様っ」

「ヘル様っ」

 ヘルを捜していて、その光景を()の当たりにした3人とサクラ、それにメイド達、そしてリンゴ園で働く人々から悲鳴があがる。

 彼女の背中を切り裂いたのは全長が3メートルはあろうかという巨大な獣、巨獣だった。

 アイリたちは、ヘルが森の奥へ逃げるように走っていったと報告を受け、彼女を捜していた。

 それに話を聞いたリンゴ園の人達も加わり、皆で彼女を捜していた。

 そしてミセリが一緒にいるという安心感から、リンゴ園のを外れた森の奥まで来てしまっていたのだ。

「ヘル様」

「アイリ、私の後ろに隠れて」

 ツカサはそう言うと、彼女を庇うように、巨獣の前に立ちはだかった。

 その背中は、巨大な鋭い爪でつけられたはずの傷はなく、ただ、彼女が身に着けていた下着が無惨に切り裂かれ、背中とお尻が丸見えになっていた。

 そこに、巨獣の第2撃が振り下ろされた。

 “がしっ”

 ツカサは()()を片手で受け止めていた。

「!?」

 それに驚いた巨獣が彼女の手を振り払おうとする。

 が、手は“ぴくり”とも動かすことが出来なかった。

 巨獣が慌ててもう片方の手を振り上げた瞬間、ヘルが放つ空気がガラリと変わった。

 額から生える2本のツノが鋭く尖り、犬歯も牙のようになり、爪も鋭く伸びて獣人の拳に食い込んでいた。

 そして、禍々しい翼を広げた。

「やめなさい」

 再び翼を広げた衝撃で前半分しか残っていなかった下着が剥がれ落ちたことにも気付かない様子の彼女が、怒りに満ちた赤い瞳で睨みつながらそう言った刹那、巨獣は失禁しながら物凄い勢いで森の奥へと逃げていった。

 そしてその場には、仁王立ちで立ち尽くすヘルだけが残されていた。

 だが、彼女は立ち尽くしたままピクリとも動かなかった。

「あの、ヘル様?」

 その背中にアイリが声をかけた瞬間、彼女は膝から崩れ落ちるように、その場にへたり込んでいた。

「へ、ヘル様?」

 それを見たアイリが慌てて彼女の前に回り込むと、そこには半ば放心状態で座り込むヘルの顔があった。

「ヘル様?大丈夫ですか?」

「アイリ、ケガはない?」

「えっ!?はい。私は大丈夫です。ヘル様が庇ってくれたから。ヘル様はケガはないですか?どこか痛いところとか?」

「立てない」

「えっ!?」

「腰が抜けちゃったみたい」

 ヘルはバツが悪そうに笑っていた。

「ヘル様~っ」

 そんな彼女に、アイリが泣きながら抱きついていた。

「ヘル様、ありがとうございます」

「えっ!?」

 ギロチン台に固定されたときに必死に抵抗したのだろう。

 少女の首と手首には(かせ)の生々しい傷跡が残っていた。

 そんな、自分のせいで政争に巻き込まれ、処刑されそうになった少女からお礼を言われ、ツカサには戸惑しかなった。

「なに言ってるの?私のせいで、無実の罪で殺されそうになったんだよ?今だって私を捜しに森に入ったから巨獣に・・・」

「でも、ヘル様は私を助けてくださいました。

 昨日のこともお姉ちゃんから聞きました。ヘル様が下着姿で外に出ることを少しでも躊躇(ちゅうちょ)されていたら、ギロチンの刃を素手で受け止めてくださらなかったら、私は死んでいました。ヘル様はギロチンを素手で受け止められることを知っていたのですか?」

「ううん、知らなかった。でも、とにかくアイリを助けたくて。気がついたら受け止めてたの」

「指が全部なくなるかもしれないのに?」

 贖罪(しょくざい)に満ちた目を真っ赤に泣き濡らしながはら見つめる少女に、

「私って、昔から身体が先に動いちゃうタイプだから。それよりアイリが無事で本当に良かった」

 ヘルは照れくさそうに微笑みながらそう返していた。

「ヘル様~~~っ」

 アイリはヘルに抱きついたまま号泣していた。

「あ、あの、ヘル様」

 そこで、一人のメイドがヘルに話し掛けた。

「なに?」

「あの、その、お召し物が・・・」

 気まずそうに彼女が差し出した手に握られていたのは、さっきまでヘルが身に着けていた、今はボロ布と化したブラとパンツだった。

「!?」

 そこで彼女は、自分が全裸なことにようやく気付いた。

「だめ~、みんな見ないで~~~っ」

 ヘルは慌ててアイリを抱きしめていた。

「ヘル様!?」

 突然抱きしめられアイリが戸惑いの声をあげる。

「アイリ、離さないで。アイリが離れたら私、丸見えになっちゃうから」

 そう懇願するヘルに、

「わ、分かりました」

 アイリもそう返して彼女を“ぎゅっ”と抱きしめていた。

「あの、ヘル様。よろしいですか?」

 下着を差し出したメイドが、もう片方の手も差し出す。

「ブラと一緒に()()()()()()()も落ちていたのですが、()()もヘル様のものですか?」

「えっ!?」

 そう問われ、目の前に差し出されたメイドの手のひらを見ると、()()には小さな何かの種らしきものが乗っていた。

「あ!!熊避けの実の種」

「えっ!?熊避けの実?」

 ヘルが放った一言に、皆が驚きの声をあげた。

「そう、この種が成長して花が咲くと獣人が寄り付かなくなるんだって」

「そんな花があるんですか?」

 アイリが驚きの声をあげる。

「え?えぇ。そうらしいんだけど、実は私も実物を見たことがなくて」

「えっ!?」

「でもでも、弟がそう言うんだから間違いない。と思う。多分」

「多分って、どうして花が咲くと獣人が寄り付かなくなるのかは聞いてないんですか?」

 ミセリが半信半疑な表情でそう聞いてくる。

「いや、あの、それを聞くヒマもないくらい向こうでいろいろあって・・・。でもでも、花が咲くと来なくなるってことは、花がスッゴく臭い匂いを出すんじゃない?と思う。多分」

「でも、種が一粒しかないのでは・・・」

 そう悲しそうに呟くメイドに、

「大丈夫、いっぱいあるから」

 と、ヘルが自慢気に言っていた。

「ヘル様、どこにいっぱいあるのですか?」

 そう怪訝(けげん)そうに訊ねるアイリに、

()()よ」

 そう言いながら彼女は、(あらわ)になった自分の、若々しい張りと弾力を保つ、豊潤に実る果実のように“たわわ”に揺れる、自らの胸の膨らみの谷間に指を突っ込んで引き抜いていた。

「ヘル様!?」

 驚きの声をあげる皆の前に差し出した拳を広げると、手のひらの上に無数の種が乗っていた。

「まだこんなにあるから、みんなでリンゴ園の周りに埋めましょう」

「へ、ヘル様、そんなところに種を忍ばせるなんて・・・」

 それを見たミセリが呆れたように言う。

「だって、飛んでる最中に落としたら大変だし、それに、胸の谷間がダメだと、あと隠せるのパンツの中しかないし」

「ヘル様、自分が何をおっしゃってるのか分かってます?」

 そう言いながら、ミセリが“ぷっ”と吹き出すように笑った。

「なに?私、何かおかしなこと言った?」

 突然笑いだしたミセリにヘルは“きょとん”とした顔でそう聞き返した。

「いえ、ヘル様が()()()()()()で本当に良かったと思いまして」

「えっ!?私、どこか変?」

「いえ、その逆です。大変失礼なお話をしますが、悪魔姫がお嫁入りしてくると聞いた時、私はこう思いました。

 その御方はきっと容姿は美しいだろう。けれど、心は氷のように冷たくて、我々人間を害虫以下の存在ぐらいにしか思ってないのではないかと。人を食べないのも、見るのもイヤなぐらい(けが)らわしいと思っているからに違いないと」

「まぁ、悪魔のイメージってそうよね?実際私もそう思ってたし」

「でも実際は、ヘル様は私たちよりも人間らしい心を持った御方でした。

 それに対して我々の世界にも、元法相のような人の皮を被った悪魔そのものの者もおります。

 まだお会いしてもいないのに、悪魔姫という肩書きだけでヘル様のことを決め付けていた自分を本当に恥ずかしく思っています。申し訳ありませんでした」

 ミセリはそう言いながら頭を下げていた。

「ミセリさん謝らないで。そ、それに、いくらなんでも買い被り過ぎ。私、そんな立派な人間じゃないから」

 あまりに突然の出来事に、ツカサは戸惑いを隠せない。

「なに言ってるの?ヘルは人間じゃなくて悪魔でしょ?」

「あ!?そうか!!ごめん」

 マリアに言い間違いを突っ込れ思わず謝るヘルにマリアが笑い、それに釣られるように皆が笑っていた。

 その時、

 “ぐぐ~~~~~っ”

 と、ヘルのお腹が鳴っていた。

 それを聞いて彼女は、自分がこちらに転生してから何も口にしていないことに気付いた。

「ヘル様、種を埋めて帰りましょう。すぐにお食事を準備させます」

 それはアイリだった。

「じゃあ、私がお城に戻って何かお召し物を持ってきます」

 それを聞いたメイドの一人がそう言って立ち去ろうとする。

「だめよ」

 それをヘルは止めていた。

「えっ!?」

「そんなことをして巨獣に襲われたらどうするの?別行動は絶対ダメ」

「でも、どうすれば?」

 困り顔でそう問いかけてくるアイリにヘルは、

「アイリ、アイリのエプロンを貸して」

 と言っていた。

「えっ!?エプロンですか?」

「うん。アイリは動かないで。私がやるから」

 彼女はそう言うと、自分を“ぎゅっ”と抱きしめるアイリが黒いメイド服の上に着ている白いエプロンの首と腰に掛かる紐を背中に回した指でほどいていた。

 そして、それぞれの紐を自分の首と腰に回して後ろで結び、エプロンを前後ろ逆に身に着けていた。

「これでよし。アイリ、ありがとう」

「!!」

 鼻の頭同士がくっつくぐらいの至近距離で、破壊力抜群のくしゃっと笑顔でそうお礼を言われ、そのあまりの美しさと可愛さにアイリは言葉を失っていた。

「じゃあ、帰ろう」

「えっ!?は、はい」

 そう言って立ち上がるヘルに合わせてアイリも立ち上がった。

「!?」

 その瞬間、彼女の目に飛び込んできたのは驚きの光景だった。

 メイド服のエプロンは実用性よりも見映えを重視したものだったらしく、胸を覆う部分の布面積が思ったより小さかったようで、彼女の若々しい張りと弾力を見せる、豊潤に実る果実のような2つの大きな膨らみが、前面を申し訳程度に隠している白い生地からこぼれるようにはみ出て、その頂点で“つん”と尖るちっちゃな蕾までもが丸見えになっていた。

「ヘル様、大きい」

 思わず驚嘆の声を漏らしたアイリの視線を追い掛けて目線を下げたヘル目に飛び込んできたのは、胸元のエプロンを押し上げるようにはみ出る自分の大きな2つの胸の膨らみと、その頂点で自己主張するかのように“つん”と上向くちっちゃな蕾だった。

「え!?えっ!?えぇぇ~~~っ」

 ヘルは慌てて胸元を隠した。

 が、

「あの、ヘル様。その、下も見えてます」

「えっ?」

 別のメイドに指摘され更に下を見ると、エプロンの(すそ)は彼女の恥骨の辺りまでしかなく、その下の、“つるつる”で“ぷにぷに”の双丘や、その真ん中を艶かしく縦に走るスリットの切れ込みまでもが惜しげもなく晒されていた。

 アイリの身長がヘルより頭一つ低く小柄だったため、エプロンのサイズも彼女には小さく丈も短かったのだ。

「きゃ~~~っ」

 ヘルは()()()も大慌てで手で隠していた。

「すごいねヘル、本当に悪魔だったんだね」

 そんな彼女に、サクラが驚嘆した様子で話し掛けた。

「えっ!?」

「ね、本当にお尻から先っぽがハートマークになった尻尾が生えてるでしょ」

 そんなサクラにメアリがドヤ顔でそう言っていた。

 メアリはヘルと初めて会ったお風呂やデスブリッジで彼女の尻尾を見ていたが、実際に見たことのないサクラはメアリからその話を聞いても半信半疑だったのだ。

「えっ!?」

 その言葉にお尻を見たヘルは、エプロンが前しかなく、背中は首と腰の紐があるだけで、後ろから見ると自分が、お尻の付け根辺りから伸びる細い尻尾が“ゆらゆら”揺れているだけの、ほぼ裸状態なことに気付いた。

「だめ~~~っ、そっちも見ないで~~~っ」

 彼女は慌てふためきながら近くの大木に背中をくっつけて立ち、胸と大事なところを手で隠していた。

「ヘル様、やはりお城に帰りましょう」

 そんな彼女の様子を見かねたミセリがそう進言したが、

「ダメよ。いつまた巨獣があらわれるかもわからないし。今のうちに種を埋めに行きましょう」

「でも、ヘル様」

「大丈夫よ。よくよく考えたら()()には同姓しかいないんだから見られても平気。それに、さっきの巨獣が仲間を連れて戻ってきたりしたら、私がいた方がいいでしょ?だから、ね?」

 と、両手を合わせ“お願い”のポーズをする。

「分かりました。みんな、絶対に離れるなよ」

「はい」

 皆はミセリを先頭にリンゴ園に向かって歩き始めた。

 が、その表情は恐怖にこわばり、マリアとサクラに至ってはヘルの側を片時も離れず、彼女のエプロンを“ぎゅっ”と握りしめていた。

 が、そんな2人の関心事は、すぐにヘルの尻尾に移っていた。

 2人は目の前で〝ゆらゆら″揺れる()()を、〝触りたい″といった物欲しそうな表情で見つめていた。

 だが、肝心のヘルはそれどころではなかった。

(こんな小さな裸エプロン姿で、しかもこんな多くの人に見られながら外を歩くって、これなに?露出プレイ?羞恥プレイ?それとも遠回しの放置プレイとか?)

 その、あまりに有り得ない状況の波状攻撃に、ツカサはもうワケが分からなくなりそうだった。




                                          〈つづく〉





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