第4話・「見ないで」
「ではヘル様、いってらっしゃいませ」
「は、はい、行ってきます」
メイド長以下侍従達から送り出されたツカサは振り返り橋を見た。
すると、レッドカーペットを挟んで全裸の女性騎士たちがずらりと整列していた。
「や、やってまった」
ツカサは思わずそう呟いていた。
騎士たちは皆、鍛え抜かれた身体を惜し気もなく晒していた。
しかも皆、可愛い娘ばかりだった。
見た目から察するに全員10代半ばだろう。
そんなうら若き乙女達が、いくら周りに女性しかいないとはいえ、白昼堂々青空の下で、しかも一糸纏わぬ姿で屋外に並ばされているのだ。
彼女達は毅然とした態度で立っていたが、実際には立っているのがやっとで、顔を耳まで真っ赤に染めながらうつ向む者もいれば、明らかに動揺している者もいて、中には泣き出してしまっている者までいた。
「ご、ごめんなさい」
それらを見たツカサは騎士たちに向かって深々と頭を下げていた。
「ひ、姫様、何を!?」
だが、そんなメイド長の声も彼女の耳には届いていなかった。
ツカサはこの時になってようやく、姫である自分の発言がいかに重く、いかに力を持っているかを思い知らされていた。
「姫様、頭をお上げください」
すぐ横に立つミセリにそう促され彼女は頭を上げた。
「ミセリさん、ごめんなさい。私、なんてひどいことを・・・」
「いえ、先に無礼な要求をしたのはこちらです」
「で、でも」
「私自身裸になって、一国の姫君にいかに失礼な要求をしていたのかを思い知らされました。
そして、いくら命令とは言え私はそれを平然と口にしていました。
妹を拐われたとはいえ、そんなことも分からなくなるぐらい冷静さを失っていたのかと猛省しております。
数々の非礼を許していただけますか?」
「も、もちろんです。だから皆さんに早く服を、鎧を着るよう言ってあげてください」
そんな彼女にミセリは、
「手をよろしいか」
そう言っていた。
「えっ!?手を?」
言われるままに差し出した彼女の手をミセリがエスコートするように握った。
「あ、あの、何を!?」
訳が分からず戸惑うヘルにミセリは“にこっ”と微笑みながら、
「私がエスコートいたします。」
そう言っていた。
「えっ!?でも・・・」
「早く渡らないとカゼをひいてしまいますよ。
もしそんなことになったら、ここにいる全員が責任を取らされ罰せられてしまいます」
「そ、そうなんですか!?」
確かに有り得ない話ではない。
「ですから、ね」
「は、はい」
青い瞳にプラチナブロンドのイケメン女性騎士にそう言われ、ヘルは彼女に手を引かれてレッドカーペットの上を歩き始めた。
が、それはあまりにシュールな光景だった。
うら若き乙女達が裸でずらりと並ぶ、言わば全裸の回廊の中を、イケメンの女性騎士にエスコートされレッドカーペットの上を歩いていく。
しかも橋の上は風が強く、極度の緊張から熱く火照る身体の、普段は絶対に隠れているはずのないのに、今は露になって惜し気もなく晒されている、歩く度に“ぷるん、ぷるん”と弾む、若々しい張りと弾力を見せる2つの膨らみや、その頂点で自己主張するかのように“つん”と尖る可愛いらしいちっちゃな蕾、鍛え抜かれた腹筋におへそ、そして下腹部から更にその下の“つるつる”で“ぷにぷに”の双丘や引き締まったお尻の奥で“きゅっ”と閉じるすぼみ、更にはお尻の付け根から生え伸びる、先がハート型に尖った尻尾にまで風が当たる感覚に、ツカサは目眩がしていた。
「し、尻尾だ!!」
「あれ、尻尾よね!?」
「ホントに生えてるんだ」
ヘルが歩く度に〝ゆらゆら″揺れる、彼女のお尻の付け根から伸びるそれに、騎士達の視線は釘付けになっていた。
悪魔に尻尾が生えているのは知識としては知っていたが、こうして目の当たりにするのは生まれて初めてだった。
そう、彼女にはツノだけでなく可愛らしい尻尾も生えていた。
その事実にツカサ自身も一度は大喜びした。
けれど、蚊とかハエが出たらハエ叩きの代わりに使うぐらいしかその用途を思いつかないでいた。
それに、今のツカサはそれどころではなかった。
(お、おっぱいやお尻や、あ、あそこにも風が当たって“ス~ス~”する。な、なにこれ?露出プレイ?それとも羞恥プレイ?あ、もしかして遠回しの放置プレイとか???)
けれどその、コスプレで注目を浴びることもを遥かに凌駕する、あまりに有り得ない状況に彼女は信じられないほど高揚していた。
ツカサは1秒が永遠に感じられるほどの時間の中、熱で頭が“くらくら”するかのような目眩に冒されたかのように、手を引かれ橋の上を歩いていく。
そして、もう少しで橋の袂にたどり着くところまで来た時、ツカサはこちらを“じっ”と見つめる視線を感じた。
人間では絶対に感じとることの出来ない、こちらを射ぬくように見つめる視線の先にいたのは、彼女が乗るであろう豪華な装飾が施された馬車の影に隠れるように立つ一人の少女だった。
だが、射ぬくような視線の源は彼女ではなかった。
射ぬくような鋭い視線が見つめていたのが彼女だったのだ。
次の瞬間、少女の背後の空間から滲み出るように大きな影が姿をあらわしたかと思うと、彼女を抱きかえ飛翔していた。
それは竜人間だった。
「飛竜族だ」
「飛竜族が出たぞ~」
馬車の周りにだった女性兵士達が弓を構える。
が、
「止めろ打つな、あの御方に当たる」
隊長らしき女性の号令一過、兵士たちは弓を下ろしていた。
「だ、誰か助けて~」
その間も、女の子を拐った飛竜人はどんどん高く舞い上がっていく。
「近衛隊は全員着衣と鎧を装着、飛竜人を追跡し人質を救出する」
「はいっ」
「ミセリさん」
「すみませんヘル姫、私達はあの飛竜族を追わねばなりません。申し訳ありませんが、ここから先は御一人で渡って頂けますか?」
「ヘル」
その時、彼女を呼ぶ幼い声が聞こえた。
そちらを振り返るとそこにはメアリがいた。
そして、彼女は泣いていた。
「サクラを助けて」
「サクラ?あの子の名前?」
ツカサは空を、彼女を抱えて飛び去ろうとする飛竜人を見た。
「サクラは私の大切なお友達なの、お願い」
「で、でも私にはそんな力は・・・」
「ヘルは空を飛べるってみんな言ってるよ」
「え!?」
彼女は橋の向こうに立つ侍従達を見た。
するとメイド長を筆頭に皆が、
「ここにいる魔族の中で飛べるのは姫様だけです」
「あの子を助けられるのは姫様しかいません」
「今なら間に合います。早く飛んでください」
と叫んでいた。
「えっ!?飛ぶ?私飛べるの?」
「ヘル様、飛べるのですか?」
それを聞いたミセリは彼女の肩を掴むと、
「ヘル様、あの御方を助けてとか、そんな無茶をお願いするつもりはありません。後をつけてくださりませんか?救出は我々が行います」
そう懇願していた。
「ヘル様」
「ヘル様」
「ヘル様、お願いします」
それを聞いた騎士達も、服を着るのも忘れて2人の周りに続々集まって来る。
「そんなこと急に言われも、空を飛ぶってどうしたらいいの?」
ツカサはオタク脳をフル回転させた。
そしてCSで見た、普段は高校生に化けていてノーヘルでバイクを乗り回すアニキ肌の悪魔が主人公のアニメを思い出した。
「えっと、確かあの悪魔の大先輩は、・・・そう、叫んでた」
ツカサは空の彼方に飛び去ろうとする影を見つめながら叫んだ。
「へ、ヘル・ウィングっ」
その瞬間、彼女の背中から大きな、いかにも悪魔らしい翼が生え、ツカサは空へと飛翔していた。
「と、飛んだ!?ホントに飛んでる。永井先生ありがとう。先生はやっぱり偉大です」
そして、自分でも信じられない程の加速で飛竜人に追い付いていた。
「待ちなさい、その子を離して」
その声に振り返った飛竜人の頬に、
「ヘル、パァ~~~ンチっ」
そう叫びながら突き出した拳が見事なまでにヒットしていた。
“ドゴっ”
飛竜人の頭が花火みたいに爆ぜ、その手からも力が抜けた。
「!!」
ツカサは、そこから落ちたサクラを追って急降下していた。
そして、彼女を空中で抱きしめた時には、すでに2人は地上すれすれのところまで落ちていた。
「間に合わない」
彼女は咄嗟に、エアブレーキをかけるように翼を大きく広げてサクラを抱えたまま“くるり”と回転したが、そのままほぼ減速せず足から森に落ちていた。
「ヘル様~っ」
「ヘル~っ、サクラ~っ、返事して~」
遠くから聞こえる呼び声にツカサは”はっ“と我に返った。
そして自分が、サクラと呼ばれる女の子を抱きしめていることに気付き、しかも彼女が無傷で意識もあることに”ほっ“と胸をなでおろした。
けれど、その恐怖にひきつる表情に、彼女も自分を恐がっているのかと思った。
が、その視線がずっと下を見ているのに気付き、それを追って下を見た瞬間、ツカサは自分達が置かれている状況に絶句していた。
彼女はサクラを抱きしめたまま、樹齢が千年はあろうかという巨木の遥か上で、例えるなら、便座を上げたままなのに気づかず洋式便器に座ってしまった時のように、2本の木の枝の間にお尻からすっぽり収まってしまっていた。
「こ、これ、どうしたらいいの?」
「あっ!!メアリ」
そう言うサクラの視線の先で、巨木の根本に落ちたサクラの靴を見つけたメアリが駆けて来るのが見えた。
そして彼女はこちらを見上げ2人を見つけると、涙でぐしゃぐしゃになっていたその顔が、花が咲くように一気に笑顔になっていた。
「2人がいたよ~っ、みんな早く来て~っ」
そう言いながら駆けてくると、
「ヘル、サクラ、大丈夫~?」
こちらにそう呼び掛ける彼女と目が合った瞬間、
「!?」
ツカサは自分の膝が枝に引っ掛かり、脚がM字型に大きく開かれ、下から丸見えになっていることに気付いた。
しかも、肝心の翼は背中と木の枝の間に挟まり動かせず、お腹にサクラを抱きかかえているため身動きも取れなかった。
「いや、メアリ見ないで」
だが、
「ヘル様~っ」
「サクラ様~っ」
メアリの声を聞いた近衛達が次々に駆けつけ、全員が2人を見上げていた。
「だめぇ、見ないで~~~っ」
それを見たツカサは、サクラを抱きしめたまま絶叫していた。
〈つづく〉