第33話・「みんな~~~っ」
「「「突撃~~~っ」」」
3人の号令を合図に、雲の上に待機していた飛竜兵や悪魔族の兵士達が、直下に広がる超巨大な縦穴=グランド・シャフト目掛けて一斉に急降下を開始した。
飛竜兵やダンテなどの空を飛べる者達を除く悪魔族やミセリらは、『飛翔石』と呼ばれる魔石を甲冑の胸に装着し、その力で飛んでいた。
飛翔石はドラゴンドロップと同じぐらい稀少で高価なものなのだが、それを、たった1日でこれだけの数揃えられたのは元法相のおかげだった。
彼は、『悪魔姫がいなくなると、3国同盟が崩壊して商売が出来なくなる』と言って私財を投げ出し、飛翔石やそれを甲冑に埋め込む職人達まで雇ったのだった。
“ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ~~~~~~っ”
皆が降下を始めると、穴の周りに潜んでいたモンスター達が次々に姿をあらわした。頭部のドリルが傘のように開くと、遥か頭上に向けて一斉に吼えていた。
「見えた」
穴をぐるりと囲む山々の一つの頂きからその様子を確認したシュバリエが、
「よし、放てぇ~~~~っ」
そう叫んだのを合図に山中に潜んでいた兵士達が穴目掛けて一斉に矢を放った。
「ミカヅキ様っ」
「まかせて。魔導士隊、放て~~~~っ」
ミカヅキの号令一下、山中に潜む魔導士達から一斉に放たれた光が天空から降り注ぐ矢に当たり、その先端で鋭く尖る穂先を真っ赤に輝かせたかと思うと、それらは傘を閉じたモンスター達のドリルを次々に刺し貫いていた。
“ギャギャギャギャギャギャギャギャ~~~~~~~~~っ”
モンスター達矢から逃げようとパニックになって穴に落ちたり、慌ててドリルを回転させ地中に逃げようとする。
「逃がさん。かかれ、アラストール共」
その様子を見ていたダンテの号令に、穴の周りに待機していたアラストール達が逃げ惑うモンスター達に一斉に襲い掛かる。
結果、魔法の矢とアラストールの波状攻撃によってモンスター達が穴の入り口に釘付けにされ、それによって穴の中心部に出現した、まるで台風の目ような空間を、ダンテや飛竜兵達は脇目も振らず、仲間の兵達が敵に喰われようがお構いなしに、ただ全速力ですり抜けていく。
すると下方から、なにかの大群が上昇してくるのが見えた。
「あれは?」
それは見たこともないモンスターだった。
銛や刀や投網を手に持ち、海賊のようなコスチュームに身を包むその者達の上半身は人族の女性そのものなのだが、下半身は脚の付け根から、タコのような触腕状の足がそれぞれ6本、つまり両足で計12本の足が伸びていて、まるで水中を進むかのように空中を泳いで上昇してくるのだ。
その姿にみせりは思わず刀の握りに手を掛けていた。
「ダンテ様。あれはなんですか?」
「分かりません。外見的には知性がありそうです。話が通じる相手ならよいのですが・・・」
だが、彼がそう言い終えるより早く、
「かかれ~~っ」
彼女らは武器を構え飛竜兵の先陣と激突した。
が、
「お前ら、なに好き勝手やっとんじゃ~~っ」
「貴様ら~~っ、グランモウルは私達の獲物だぞ。勝手に手を出して只で済むと思ってるのか~~っ」
彼女らは口々にそう叫びながら、
「邪魔だ。どけ~~っ」
飛竜兵や悪魔兵を攻撃するというよりは、ドリルのモンスターを彼らやアラストールから奪い返すように襲い掛かかって来た。
そして完全な混戦状態に陥った最中、彼女らの1人が突き出した銛の先端が悪魔兵の鉄兜に引っ掛かり、対する彼も反射的に頭を下げた為に兜が脱げ、顔が晒されてしまっていた。
「!?」
その瞬間、彼女らは時間が止まったかのように、一斉に彼の顔を見た。
「・・・えっ!?」
「いや待て。そんなバカなことがあるはずがない」
「しかしあの顔は・・・」
「ま、まさか!?・・・そんな??」
彼女らは動揺を抑えきれない様子だった。
そして、
「貴様、戦いの最中に余所見とは、どういうつもりだ・・・」
そう言って斬りかかったミセリに、
「お、おい。まさかあれは男か!?」
素顔を晒す男性兵士を指差しながらそう問い掛けていた。
「えっ!?」
あまりに突然過ぎる、しかもあまりに場違いな質問に、彼女が狐につままれたような顔をしていると、
「こ、答えろ。あれは男なのかと聞いている?」
彼女は、いや、彼女だけではない。
周りにいた半モンスターの女性達もミセリの周りに集まってきて、彼女に詰め寄っていた。
「あ、ああ。確かに彼は男だが、それがどうかしたのか?」
「・・・お、男?」
「ああ」
「本当か?ウソだったら承知せんぞ」
鬼気迫る表情でそう迫る半モンスターの女性達に、
「ウソではない。周りを確かめてみろ。彼以外にも男はたくさんいる」
ミセリがそう言い放った瞬間、
「えぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
階層を揺るがす程のどよめきが起きたかと思うと、彼女らは触腕を使って飛竜兵や悪魔兵達の兜を、いや兜だけではない。彼らが身に纏う鎧や甲冑までもを次々に剥ぎ取り始めた。
・・・そして、彼らが本物の男だと理解した瞬間、彼女達の感情が大爆発していた。
「お、お、男だぁ~~~~~~~~~~~~っ」
半モンスターの女性達は口々にそう叫びながら男達に襲い掛かっていた。
そして、目を着けた男を触腕でぐるぐる巻きにすると、そのまま何処かに連れ去り始めた。
「き、貴様ら。どうゆうつもりだ?」
その様子に、ミセリは呆然となっていた。
一刻も早くヘルの元に駆け付けなければならないのに、周りは大混乱でどうすることも出来ない。
「くそ、早くしないとヘル様が、・・・でも、どうすれば・・・」
その時、偶然目の前を通り過ぎようとした半モンスターの少女の肩を、ミセリは掴んで引き留めていた。
「おい、これは一体?・・・」
すると、呼び止められた半モンスターの、眼鏡っ娘の少女は、その剣幕に驚いたのか、
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
と謝っていた。
それを見たミセリは慌てて手を離すと、
「こちらこそ手荒な真似をしてすまない。それより教えて欲しい。彼女らは男を連れ去ってどうするつもりだ?まさか食べるつもりではないだろうな?」
そう言うと、対する彼女は頬を真っ赤に染めながら、
「い、いえ。違います。皆の目的は、あの、その、こ、子作りだと思います」
恥ずかしそうにそう呟いていた。
「な、なに~~~っ。子作り?」
「は、はい。この世界は元々階層間の交流がない上に、出口に蓋をされてからは外界への行き来もできなくなり、もう数十億年もの間、女性だけで子孫を残してきたんです」
「女性だけで子孫を?どうやって?」
「そ、そんな恥ずかしいこと、ここでは言えません」
彼女は耳まで真っ赤になっていた。
「つまり、生まれて初めて男を見て、理性が性欲に負けたということか?」
「ま、まぁ、そうですね」
恥ずかしそうに“モジモジ”しながらそう言う少女の話を聞いていると、そこにダンテが飛来した。
「ミセリ殿、これは一体?」
状況を飲み込めずそう訊ねる彼の顔を見た瞬間、彼女の頭の中であるアイデアが閃いた。
「ダンテ様、ヘル様を助ける為に一肌脱いではもらえませんか?」
「えっ!?」
「お願いします」
必死の形相でそうお願いされたら断れるはずもない。
「分かりました。それで私は何をすれば・・・」
「ありがとうございます」
ミセリはダンテの言葉を遮るように彼の手を握ると、そのまま上昇していた。
そして全てを見下ろしながら、彼女はダンテの兜を取った。
すると、超イケメンなダンテに気付いた半モンスターの女性達が、黄色い声をあげながら一斉に彼目掛けて押し寄せて来た。
「皆のもの控えよっ」
その刹那、大気を震わせるように、階層内に響き渡るミセリの声に、女性達の動きが“ピタっ”と止まった。
「ここにおわす御方は悪魔国第一王子ダンテ様である。皆の者、頭を下げよ」
彼女がドスの効いた声でそう啖呵を切ると、半モンスターの女性達はその場で頭を下げていた。
するとミセリは、
「ダンテ様は姉上であるヘル様を捜しておられる。ヘル様はダンテ様と同じく薄紫の美しい肌の持ち主で頭には2つのツノがあり、お尻の付け根からはまさに悪魔と呼ぶに相応しい尻尾が伸びていて、そして背中には見事な翼を持っておられる、まさに容姿端麗な女神のような御方だ」
そう言って1枚の紙切れを取り出すと、折り畳まれたそれを皆の前で広げていた。
それは、以前ツカサが賞金首の手配書の裏に描いたヘルの自画像だった。
「彼女がヘル様だ。
見ての通りとても可愛らしい御顔をしておられる。だがそれだけではない。お肌も“すべすべ”で、胸も大きくて形もキレイで、張りも弾力も申し分ない。
なにより可憐な乳輪の真ん中で“つん”と自己主張する乳首が可愛くて、感度もスゴく良さそうで、あの豊潤な膨らみを揉みしだきながら、あのちっちゃな蕾をキスしたり舐め回したり甘噛みしたいと思ったことは一度や二度ではない」
「・・・あ、あの、ミセリさん」
それを聞いたリツカが慌てて耳元で囁くが、
「それにおへそも可愛くて思わずキスしたくなるし、何よりキスしたくなると言えば、ヘル様の“つるつる”で“ぷにぷに”の恥丘だ。
あの可愛らしいスリットを見ているだけで思わずしゃぶりつきたくなる。その衝動を抑えるために私は、自らの脚に何度小刀を突き立てたことか・・・」
「み、ミセリさん。さっきから何をおっしゃっているのですか?心の声が口から全部溢れ出てますよ」
「えっ!?」
リツカに耳元でそう窘められ、ミセリは“ハっ”と我に返った。
そして、
「と、とにかくだ。見事ヘル様を見つけ出した者には、ダンテ様から直々に、望むままの褒美が与えられると思ってもらいたい」
と宣言していた。
が、その言葉に1番驚いたのは、他ならぬダンテ本人だった。
「み、ミセリ殿、何をおっしゃっているのですか?」
しかし、ダンテが思わず漏らした言葉は、半モンスターの女性達からの地響きのようなどよめきに飲み込まれていた。
「の、望むままの褒美とは、どのようなものですか?」
半モンスターの女性達のリーダーらしき人物が前に出てミセリとダンテに話し掛けた。
「私はクラーケン族の族長でルフスと申します。望むままとは如何なる意味でしょうか?」
「そ、それは・・・」
さすがに口ごもるダンテの言葉を遮るように、
「だから望むままだ。しかもそれは1人ではない。ヘル様を見つけ出した者全員の望みを叶えるとダンテ様はおっしゃっている」
ミセリはそうキッパリと断言していた。
「ミセリ殿、待ってください」
だが、それを聞いた瞬間、ルフスは頬を赤く染めながら、
「そ、それは、・・・その、あの、・・・い、一夜の契りでもよいのでしょうか?」
と“もじもじ”しながら聞き返していた。
「もちろんだ」
「み、ミセリ殿、さすがにそのようなことは・・・」
「ダンテ様は、ヘル様を見つけ出した者全員のお相手をしてさしあげようとおっしゃっている」
「ミセリ殿っ」
ダンテは慌てて彼女の言葉を遮ろうとするが、
「その言葉が偽りではないという保証はあるのか?」
そう叫ぶクラーケンの怒号に飲み込まれていた。
しかもそれに呼応するかのように、
「そうだそうだ」
「そのヘルとかいう者を見つけさせて逃げるつもりではないのか?」
「なにか証拠を見せろ」
と、クラーケン達から次々に怒号が沸き起こり、彼の言葉は完全に掻き消されてしまっていた。
が、それに対してミセリは、
「もし私の言葉に偽りがあった時は、皆でダンテ様を好きにすればいい。それならどうだ?」
と、自信満々に言い放っていた。
その瞬間、辺りは水を打ったように“し~ん”と静まり返った。
そして、
「ミセリ殿、私はまだ何も言ってませんよ・・・」
と否定しようとするダンテの言葉を遮るように、
「わかった。そのヘル様と言う名の女を捜し出せばいいのだな?」
ルフスは興奮気味にそう言っていた。
「そうだ。2日はど前に天井の岩盤が砕けて落ちて来ただろう?その時ヘル様も一緒に落ちてきたはずだ?誰かヘル様の消息を知っているものはいないのか?」
ミセリは集まって来たクラーケン達を見渡しそう訊ねたが、
「ああ、あれは凄かった。巨大な岩が雨のように降ってきて、皆、安全な場所に隠れてやり過ごすので精一杯だった」
「信じられない数のグラン・モウルも一緒に落ちて来たのに見ていることしか出来なくて、もう悔しくて悔しくて・・・」
皆、口々にそう話すがヘルの消息を知る者は1人としていなかった。
「と、言うことは、そのヘル様は岩と一緒に下層へ落ちて行かれたということか?」
ミセリがそう訊ねると、
「そういうこと。つまり、一番早く下層にたどり着いた者がダンテ様と・・・・・・。
うおお~~~~~~~~~っ、ダンテ様は私のモノだ~~~~~~~~~~~~~っ」
ルフスがそう呟いて急降下を開始したのを皮切りに、
「ぞ、族長ずるい~~~~~~~~~~~~っ」
「抜け駆けとは、それが族長のやることか~~~~~~~~~~~~~~~っ」
「そのようなことが許されると思っているのか~~~~~~~~~~~~~~~っ」
と、急降下して見る見る小さくなる姿にクラーケン達が声を掛けたが、
「うるさい。男と契るのに親も兄弟も族長も関係あるか~~~~~~~~~~~~~~っ」
その、ルフスが叫んだ捨て台詞を聞いた瞬間、クラーケン族の女性達は捕まえた兵士達を次々に放り出しながら、
「うおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
「どけどけどけ~~~~~~~~~~っ」
「邪魔するな~~~~っ。ダンテ様と契るのは私だ~~~~~~~~~~~~~っ」
と、階層内の大気を震わせるほどの雄叫びをあげながら、怒涛の勢いで一斉に急降下を始めていた。
「み、ミセリ殿、何故勝手にあのような約束を?」
その様子を呆然と見下ろしながら、ダンテはミセリに問いかけた。
「ヘル様をお救いする為です。言いましたよね?一肌脱いでもらうと」
「そ、それは・・・それは『一肌脱ぐ』の意味が違うのでは?」
「心配することはありません」
「えっ!?」
「私達が彼女らより先にヘル様を見つければよいのです。さぁ、行きましょう」
ミセリがそう言ってダンテの手を握ると、彼女に引っ張られるように2人は第二階層に向かって降下していった。
“ぽたっ。ぽたっ”
一定のリズムを刻むように頬に当たる冷たい感触に、ツカサはようやく目を覚ました。
どこか真っ暗な場所、あえて言うなら洞窟の奥底のような場所に彼女は倒れていて、その頬に水滴が落ちていたのだ。
「・・・う、ぅん。・・・!?」
見上げる視線の先には、本来ならあるはずの鍾乳洞か洞窟の天井が無く、直径が数㎞はあろうかという、超巨大な縦穴が遥か先まで伸びていた。
そして、それを眺めているうちに自分が置かれていた状況を思い出し、彼女は慌てて飛び起きた。
「リツカ、みんなっ!?」
だが、飛び起きたその全身には“ぬるぬる”するムチのようなものが巻き付いていて、しかも身体に何か粘着質のものが“べっとり”飛び起きてこびりついていた。
「!?」
彼女は状況を理解すべく辺りを見渡した。
するとその目に写ったのは“ぐしゃぐしゃ”に叩き潰されて内蔵をぶちまけ、辺り一面を血の海に染めるモンスター達の死骸の山と、その中に血まみれで埋もれる自分の姿だった。
「ぎゃ~~~~~~~~~っ」
ツカサは、全身に巻き付く舌をメチャクチャに引き千切りながら、その場から逃げるように、遮るものを全て蹴散らしながら、
「ミセリ~~っ、アイリ~~っ、ダンテ~~っ、シュバリエ様~~っ、クリス~~っ、リツカ~~っ、お母様~~っ、みんな~~~っ」
もう脇目も振らず一目散に駆け出していた。
〈つづく〉




