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腐女子OL、悪魔姫に転生す  作者: 木天蓼亘介
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第3話・「なにその破滅フラグ!!」

 



 そして次の日、ツカサ=ヘルが人族に嫁ぐ日がやって来た。

 さぞかしお祝いムードで送り出してくれるのかと思いきや、国中が喪に服しているかのような空気の中、彼女は真っ黒なウエディングドレスを着させられ、まるで国葬に向かう棺のように送り出されていた。

 だが、オルトロスに引かれる馬車の中で彼女はうたた寝していた。

「ヘル、大丈夫?」

 彼女と向かい合わせに座るメアリが心配そうに訊ねる。

「うん、大丈夫」

 ツカサはレースのフリルがあしらわれたドレスに身を包み嬉しそうなメアリを満足そうに見ていた。

 実は彼女が着ているドレスはツカサが徹夜で仕上げたものだった。

 昨夜お風呂から上がったあと、メアリの服が既に処分されていたことを知ったツカサは、彼女の身体にバスタオルを巻き自分の部屋に連れて帰ると、裁縫道具を持ってこさせ、クローゼットから取り出した自分の服や下着の糸をほどき始めた。

「どうするの?」

「私の服をリフォームしてあなたの下着と服を作るの」

「そんなことができるの?ヘル、お母さんみたい」

「そお?メアリにも作り方教えてあげようか?コスプレの基本だよ」

「こすぷれって何?」

「えぇっと何でもない。それより採寸させて、いい?」

「うん」

 そんな感じで彼女はいかにも高級そうな自分の、と言っても着た記憶はないのだが、下着やドレスを裁断し縫い合わせ、メアリの為の下着とドレスを徹夜で作りあげたのだった。

(さすがに眠い)

 下着とドレスが間に合わなければ、裸にバスタオルでメアリを親元に帰すことになる。

 さすがにそれは避けたいツカサは全身全霊をこめて下着とドレスを仕上げた。

 その、朝までになんとしても間に合わせなければという極限のプレッシャーから開放され、彼女は今、とてつもない睡魔に襲われていた。

「ヘル、眠いの?」

 メアリが心配そうに顔を覗き込んでくる。

「ううん、大丈夫」

「寝たかったら寝ていいよ。着いたら私が起こしてあげる」

「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」

 そう言いながらツカサは、馬車の心地よい揺れに速攻で寝落ちしていた。





「ヘル、ヘル、着いたよ。起きて」

 耳元で聞こえる大きな声と、小さな手に揺り起こされツカサは目を覚ました。

「えっ!?着いたってどこに?」

「なに寝ぼけてるの?デスブリッジに決まってるでしょ」

 寝ぼけ(まなこ)の彼女の質問に返ってきたのは、あまりにインパクトのある答えだった。

「で、ですぶりっじ!?」

 その時馬車のドアが開いた。

「ヘル様、お降りください」

 ドアを開けたのは、ヘル専属のメイド長だった。

 彼女が差し出した手を握り、ドレスの裾を踏まぬようにスカートを少し持ち上げてゆっくりと降りる。

 そんな彼女に続いて、メアリが元気一杯にドアから飛び降りていた。

「!?」

 そして視線を上げ、デスブリッジを見たツカサの目に飛び込んできたのは異様な光景だった。

 おそらく人間界と悪魔界を遮っているのであろう底が見えないほど深い谷を繋ぐ大きな石造りの橋が架かっていた。

 その両サイドに建ついかにも頑丈そうな門が開いていて、橋の真ん中を向こうまで一直線に伸びる真っ赤な絨毯が見えていた。

 おそらくヘルに、()()()()を歩いて向こうまで行けということなのだろう。

 が、その両サイドには金の装飾をあしらった鎧に身を包んだ、うら若き女性騎士がずらりと並んでいた。

「なに、これどういうこと?」

 すると向こうから、いかにも騎士隊のリーダーと行った感じの女性が“ガチャガチャ”と金属同士がぶつかる音を響かせながら近付いてきて、ヘルに敬礼した。

「あ!!お姉ちゃん」

 その騎士を見たメアリが歓喜の声を上げていた。

「えっ!?お姉ちゃん?」

「そちらにおられるのはヘル様とお見受けするがよろしいか」

 女性騎士の凛とした声が響き渡る。

「いかにも、ここにおられるのがヘル様です」

 メイド長がそう返すのに合わせ、ツカサは“ぺこっ”とお辞儀していた。

「私はフェアデリア王家直属の近衛隊隊長、ミセリ・コルデ。これよりヘル様にはこちらの世界に来ていただきます。ですが、その際にはそちらの世界の物は一切御身に着けず、御身体のみで橋を渡っていただきます」

「・・・えっ!?」

 その言葉をすぐに理解することが出来ず、ツカサは素っ頓狂な声を上げていた。

「なるほど、そういうことだったのですか」

 メイド長が全てを理解したといった感じの声を上げた。

「えっ!?どういうこと?」

「先方から姫様をお送りする従者は全て女性にしろと言われていたのです。

 まさかこのような無礼極まりない魂胆があったとわ。

 あなた方は嫁いで来た一国の姫君に裸でこの橋を渡れと言うのですか?それが人族の礼儀なのですか?無礼にもほどがありますよ」

 メイド長が声を荒げるのを聞き、ツカサもようやく事態を理解していた。

(これって、マリー・アントワネットが嫁入りの時にやられたやつか!?

 えっ!?てことは私の未来は革命が起きて断頭台で首ちょんぱ!?

 なにその破滅フラグ!!

 いやいや、なんで『ベルばら』ルートなんだよ。剣を武器に腹黒貴族の不正を暴く『ラ、なんたらの星』っていう正義の味方ルートもあるだろうが・・・って、この世界にフェンシングってあるのかな?)

 だが、そんなツカサを置き去りにするようにミセリは冷静に言葉を続けた。

「もし式の途中で王族の誰かが凶器によって暗殺でもされれば、真っ先に疑われるのはそちらの姫君です。しかし裸でこの橋を渡れば、ここにいる全ての兵が姫君は凶器になるようなものは身体のどこにも隠し持っていなかったと証言しましょう。例え何が起きても御身の潔白を証明することができるのです」

「物は言い様とはよく言ったものですね。そんな理由で我が国の姫に、このような屈辱を与えようなど・・・」

 そう言いながらメイド長の声がぐもっていく。

 人族からの提案がよほどの屈辱だったのだろう。

 見ると、彼女の頬を涙が伝っていた。

 そしてそれに気付いた魔王軍の女性兵士や侍従たちに動揺が広がり、その表情がみるみる険しくなっていく。

 それを察したツカサは咄嗟にこう言っていた。

「わ、わかりました。私、裸でこの橋を渡ります」

「ひ、姫様、何を!?」

 メイド長がその言葉を遮ろうとするが、ツカサはそれを振り払うように言葉を続けた。

「ただし条件が2つあります」

「条件?」

「まず1つは、この子を、メアリをこの場で保護し家族の元に届けること、いいですか?」

「承知いたしました」

 そう言いながらミセリはヘルに敬礼していた。

「そ、そしてもう1つは・・・」

 裸で橋を渡るのを止めさせるには()()()()()()

 ツカサは咄嗟に頭に思い浮かんだアイデアを声に出していた。

「橋の上の騎士さんたちも裸になってください」

「えっ!?」

 その言葉に、ミセリは鳩が豆鉄砲をくらったような顔になっていた。

「私だけ裸なんて不公平です。み、皆さんも裸になってくれたら、それなら私も裸になってこの橋を渡ります」

(ど、ど~だ?そんなこと出来まい。これで私もドレスを着たままこの橋を渡って・・・)

「そ、その条件を飲めば本当に橋を渡ってくれるのですか?」

 だが、そんなツカサの願いとは裏腹に、メアリは顔を耳まで真っ赤に染めながら、消え入りそうな声でそう返していた。

「えっ!?」

「当たり前です。我が国の姫様が嘘をつくなどと思っているのですか?無礼にも程がありますよ」

「ちょ、ちょっと、メイド長まで何言ってるの?」

「わかりました」

「わ、わかりましたって、何を!?」

 けれど、そう焦る彼女を置き去りにしてミセリはその場で鎧を脱ぎ始めた。

「えっ!?えぇ?待って」

 しかし彼女はヘルの声を無視するかのように、鎧に続いて鎖帷子(かたびら)や下着も脱ぎ、あっという間に全裸になっていた。

「全員聞こえたな?近衛隊は今すぐこの場で脱衣し全裸になれ、これは命令だ」

「はい」

 そして、彼女の命令一下、全ての兵が鎧も着衣も脱ぎ、一糸纏わぬ姿のまま、橋の両側に整列していた。

「えぇっと・・・」

「さぁ、姫様も早く」

「ま、マジか?」

 新たな言い訳を考える暇もなく身に纏うドレスをメイド長が脱がせようとする。

「あ、あの、大丈夫です。自分で脱げますから」

 だが、そう焦る彼女をメイド長は“ぎゅっ”と抱きしめていた。

「いいえ、最後にお世話させてください。私はヘル様がお妃様のお腹にいらした時から仕えてまいりました。あの小さかったヘル様がこんなに美しくなられて、嫁ぐ姿を見れたことが嬉しくてなりません」

 メイド長は泣いていた。

 そして、ヘルが幼かった頃からの思い出を話しながら、まるで2人に残された最後の時間を惜しむように、その着衣をゆっくりと丁寧に脱がしていった。

「姫様、姫様は本当にお美しいです。これからお辛いことも数え切れない程あるでしょう。けれど私達は姫様のお側にいて助けることはもうできません。ですが、私達の思いは常に姫様と共にあります」

「メイド長」

「姫様は本当に頑固で、とうとう嫁ぐ日まで人族の肉を食べることはありませんでした。けれど、その御意志の強さもまた姫様の魅力です。どうかその魅力を嫁がれた後も失わず幸せになってください。それが私達侍従からの、心からの願いです」

 メイド長はそう言い、熱い涙を流しながら自分を強く抱きしめる。

「ありがとう」

 対するツカサも貰い涙を流しながら、そんな彼女を“ぎゅっ”と抱きしめてあげることしか出来なかった。





                                          〈つづく〉








































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