第20話・「は、は、は、初めて見たっ」
「へ、ヘル様~~~っ」
崖の上からミセリが叫んでいた。
彼女が見おろす視線の先、つまりは渓谷の下にヘルは立っていた。
そして、彼女の近くに設置された巨大なクレーンの先から伸びる金属製のワイヤーに繋がれた、直径が2メートルはあろうかという巨大な鉄球がミセリの横に置かれていた。
それは、振り子の原理で巨大な城壁などを攻撃する兵器だった。
「ほ、本当によろしいのですか~~~?」
ミセリが声を振り絞るように、そう何度も聞き返す。
「いいわよミセリ~。私が合図したらそれを私目掛けて落として~~~っ」
そう、ツカサは崖の上に置かれたワイヤー付きの巨大な鉄球を、自分目掛けて振り下ろしてくれと頼んでいたのだ。
「で、でも、なんでわざわざこんな危険なことをさなるのですか~~~っ」
その、誰でも思うもっともな疑問に、
「私、王女様になったんだから、みんなを守るために悪魔の力を目覚めさせなきゃいけないの~~~っ」
そう叫び返していた。
「こ、こんなことで目覚めるのですか~~~っ?」
「昔の特撮ヒーローはこうやってパワーアップしたり新必殺技を編み出してきたの~~~っ。CS放送で見たから大丈夫よ~~~っ」
「は、はぁ?」
「それに、これをしてきたから大丈夫~~~っ」
彼女はそう言って、腰に巻いた、未就学児の工作にしか見えない手作りのベルトを見せていた。
「私が合図したら落として~~~っ」
「わ、わかりました~~~っ」
「よし、一丁やったるかぁ~~~っ」
ツカサはそう気合いを入れると、
「今よ。落として~~~っ」
彼女がそう叫ぶのと同時に、近衛たちがテコを使って押し出した鉄球が、凄まじい勢いでヘル目掛けて振り下ろされていた。
「くらえっ、ヘルカッタ~~~~~~~~~~~~~っ」
そう言いながら片膝を着いてしゃがみ、顔の前で交差させていた腕を左右に広げるように下げた瞬間、
巨大な鉄球が直撃し、彼女は空の彼方までぶっ飛ばされていた。
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
「ヘル様っ」
「ヘル様っ」
「ヘル様~~~~~っ」
その頃、フェアデリアでは穏やかな時間が流れていた。
ヘルの第1王女への即位を祝うお祭りも終わり、大通りに並んでいた屋台も姿を消して、街はいつもの姿を取り戻していた。
穏やかな陽射しの下でゆっくりと時間が流れる中、大通りのシンボルである巨大な噴水の周りには水と涼を求めて多くの人達が集まり、子供逹の笑い声が響いていた。
その中には、ベンチに座ってタバコを吸うアデルの姿もあった。
“ひゅ~~~~~~~っ”
その時、どこからともなく風切り音が聞こえてきたかと思うと、
“どっばぁ~~~~~んっ”
大爆音と共に噴水から巨大な水柱が上がっていた。
“ザザザ~~~~~っ”
噴き上がった水が雨のように降って虹が掛かる中、びしょ濡れになったアデルが、濡れたタバコを咥えたまま何事が起きたのかと恐る恐る噴水の水面を見ると、その底からなにかが“ぷか~っ”と浮かび上がってきた。
それは、白目を剥いたヘルだった。
「へ、ヘル様!?」
アデルは服が濡れるのもお構いなしに噴水に入ると、彼女の服を掴み、そこから引っ張り出していた。
「ヘル様、しっかりしてください」
そう言いながら心臓マッサージをした瞬間、彼女は口から小魚と一緒に“ぴゅ~~~っ”と水を吹き出していた。
「おっかしいなぁ?私、悪魔の力を身につけてるはずなんだけど・・・て言うか、普通転生したらチートで無双になるんじゃないの?」
その日の夜、ヘルは自室のベランダから月を見上げながらそうぼやいていた。
「ヘル様」
そんな彼女の、背中がお尻の上半分まで剥き出しのネグリジェ姿を、アイリは後ろからうっとりしながら見つめていた。
背中のキレイさもさることながら、お尻の付け根から伸びる尻尾が可愛らしくてたまらないアイリは、それを掴もうと右手を伸ばしている自分に気付き、それを慌てて左手で掴んで押さえていた。
だがヘルは夜空に浮かぶ3つの満月を見て、あることに気付いていた。
「あ!?そう言えば鉄球を片付けてない!!」
そう、彼女は特訓に使った鉄球のことをすっかり失念していたのだ。
「あ、それならお姉ちゃんが片付けたって言ってました」
「ほんと!?さすがミセリ。明日お礼を言わなきゃね」
「あの、ヘル様」
“ほっ”とした様子の彼女にアイリが話し掛けた。
「なに?」
「なんであんな危険な事をなさったんですか?」
「悪魔の力を目覚めさせたくて」
「悪魔の力?」
「うん。今ある力以外の力」
そう言う彼女に、
「ヘル様はどのような力が使えるのですか?」
アイリはそう訊ねていた。
するとヘルは翼を広げた。
「飛んだり、遠くのものが見えたり、遠くの音が聞こえるんだけど、それだけじゃダメなの。みんなを守れる力じゃないと」
そう呟く彼女に、
「そんなことありません。それだけでも十分スゴいです」
「えっ!?」
アイリは必死になって自分の気持ちを伝え始めた。
「ヘル様が飛んで助けにきてくれたから、私は死なずにすんだんです。熊避けの実の花もヘル様が飛んで持ってきてくださったから巨獣も追っ払えたし、獣人を倒せたのもヘル様が飛べたおかげで、サラマンダーを追っ払たのもヘル様が飛べたからです。ヘル様は凄いんです」
アイリは一生懸命そう力説していた。
「アイリ」
するとヘルは“くるり”と振り返り、
「ありがとう」
そう言いながら“にこっ”と微笑んでいた。
(!!)
その笑顔の破壊力に“どきっ”となりながらも、
「そ、それにヘル様の耳や目の能力も、きっと皆の命を助ける力になりますから」
アイリはそう訴えていた。
その思いに応えるように、
「じゃあ、ちょっと使ってみようかな。ヘルイヤ~~~っ」
ツカサがそう言って耳をすませた瞬間、
『ぁん、だめぇ。やめてルリ、そこ弱いから』
「えっ!?」
どこからともなく聞こえてきた声に、ツカサは思わず耳をそばだてた。
『なに言ってるの?ここを“くりくり”されるのが好きなくせに?』
「はっ!?」
そして、声の聞こえる方向を特定するように辺りを〝きょろきょろ″見渡していた。
『んくぅん。ゃん、そ、そこぉ』
『ふふっ。もっと気持ちよくしてあげる』
『ぁあん。だめぇ』
そして、声の聞こえる方を見定めた彼女は、
「へ、ヘルアイっ」
大慌てで声の聞こえる方を見た。
すると、城内にある宿舎のトイレの個室で、メイドの女の子2人が、ノクターンノベルでしか読め(書け)ないようないけないことをしていた。
〝たら~~~~~っ″
そしてそれを見たヘルは鼻血を垂らしていた。
「へ、ヘル様っ」
慌ててアイリが駆け寄り、
「大丈夫ですか?」
心配そうにそう訊ねるが、肝心のツカサは、
(す、スゴい。女の子同士ってあんなことするんだ)
と興奮冷めやらぬ様子だった。
そして、心配そうに顔を覗き込むアイリを尻目に、
「全集中、腐女子の呼吸。耳すませの型」
そう言って、両耳に手を当てて全神経を集中させていた。
すると、
『んんっ、んくぅん』
『んぁ、くふぅ』
どこからともなく妖しげな声が聞こえてきた。
ツカサが、その声が聞こえる方を〝じっ″と見つめると、遥か彼方にある要塞らしき建物の倉庫の奥で、エルフと猫耳の美少年兵士2人が、互いに求め合うように唇を重ね、声を噛み殺すように舌を絡め合っているのが見えた。
しかも彼らは、腰を“びくっ、びくっ”とヒクつかせながら、固く太く反り返る互いのそれを、絡めた指で愛おしそうにしごき合ってた。
そう、2人はムーンライトノベルでしか読め(書け)ないようないけないことをしていたのだ。
“ぶしゅ~~~~~~っ”
それを見た瞬間、ヘルは噴水のように鼻血を吹き出していた。
「へ、ヘル様~~~っ」
それを見たアイリが慌てて駆け寄り、彼女の鼻にティッシュをあてがっていた。
だがツカサはそれどころではなかった。
(お、男の子同士って、あ、あんなことするんだ?は、は、は、初めて見たっ)
「ヘル様、涎が」
「えっ!?あっ!!」
彼女は慌てて口元を拭うと、
「あ、アイリ、あの向こうにある大きな建物はなに?」
興奮冷めやらぬ様子で、若い美少年兵士2人の痴情を見た方角を指差していた。
「あの向こう?」
「うん。このお城より大きくて、いかにも頑丈そうな・・・」
「それなら、国境警備隊の要塞だと思いますが。それがなにか?」
何故ヘルがそんな質問をするのか?その意図が掴めずアイリはそう聞き返していた。
「国境警備隊の要塞。私、そこに行きたい。て言うかそこに住みたい。だめ?」
「な、なにを言っているのですか?」
突然過ぎる彼女の提案に、アイリは物凄い剣幕で反対していた。
「あそこは飛竜族の国との国境です。最も危険な場所ですよ」
「危険な場所?なに言ってるの?あそこは私たち腐女子の理想郷、シャンバラよ」
「だめです。危なすぎます」
「アイリ聞いて、私、どうしてもあそこに行かなきゃいけないの」
「だめです」
「アイリ聞いて、あそこにはどんな願いも叶えてくれる7つのボールが・・・」
「だめです」
「アイリ聞いて、あそこには海賊王が隠した宝の地図が・・・」
「だめです」
「アイリ聞いて、あそこには子供にされた身体を元に戻す薬が・・・」
「だめです」
「アイリ聞いて、あそこには、石にされた人を元に戻す薬が・・・」
「それなら、このお城にもあります」
「えぇっ!!マジで!?」
「お忘れですか?ヘル様は隣国の王子様の御結婚をお祝いするために表敬訪問されるんですよね?今更予定は変えられません。国際問題になりますから、だから無理です」
と、けんもほろろに言い返されていた。
が、
「あ!?じゃあ、その後で行くのならいいってこと?」
脳内お花畑状態のツカサは、アイリの言葉を全く聞き入れようとしなかった。
「ふぅ。これでよし」
その頃ミセリは、お城の兵器庫に1人でいた。
そして彼女の目の前には、ヘルを直撃した例の鉄球が置いてあった。
何故彼女が鉄球をわざわざ回収しここまで運んで来たのか?
それには理由があった。
ミセリが見つめる鉄球には大きな凹みがあって、しかもそれは人の形をしていた。
「ヘル様」
そう、鉄球の表面にある凹みは、ヘルが直撃した跡だった。
鉄球の表面が、彼女が両手を下げるように左右に広げてしゃがむ姿そのままに凹んでいたのだ。
しかもそれは、シリコン樹脂で型を取ったのかと思うぐらいハッキリと跡が残っていた。
つまり、ヘルの顔や、薄い生地越しに型取られた胸やその先端で〝つん″と尖るちっちゃな蕾、鍛え抜かれた腹筋やおへそ、引き締まった下腹部、そして、迫りくる鉄球の風圧でしゃがんだズボンの生地が捲れて露になった“つるつる”で“ぷにぷに”の肉丘と、その真ん中を艶めかしく縦に走るスリット。そして折り曲げられた長い脚の先まで、その全てが裏返しで完璧に再現されていたのだ。
「ヘル様」
ミセリは衣類を脱ぎ捨て全裸になると、凹みと同じポーズを取り、身体を重ね合わせるようにその中に入っていた。
そして、仮面を被るように彼女の顔に自分の顔を重ね、その唇にキスしていた。
「ぁあん、ヘル様ぁ」
冷たい唇を舐め回し、胸の形に凹むそこに自らの膨らみを密着させながら、その頂きのちっちゃな凹みに“つん”と自己主張する可愛らしいちっちゃな蕾を“こりこり”押し付けていく。
「ぁん、ヘル様と私の胸が、はぁあん」
更に腹筋とおへそ、そして引き締まった下腹部や脚を密着させ、鉄球にできたヘルの脚の付け根に、自らの“つるつる”で“ぷにぷに”の肉丘と、その真ん中を艶かしく縦に走るスリットを“ぐりぐり”押し付けていた。
「んくぅん、だ、だめですヘル様。ゃん。そ、そんなことされたら、ひぅ、わ、私、ぁあん」
その、ミセリが“びくっ”と身体を跳ねさせた瞬間、鉄球が“ぐらっ”と傾き、彼女の方に倒れてきた。
「えっ!?」
だが、あまりに一瞬のことでどうすることも出来ず、彼女はあっけなく鉄球の下敷きになっていた。
下敷きといっても、ヘルの形に凹んだ空間に“すっぽり”収まっていたので無傷だったが、そのせいで身動きひとつ取れなかった。
(し、しまった)
だが、助けは呼べなかった。
もし呼んで誰かに助けられたら、全裸なのがバレてしまう。
「へ、ヘル様~~~ぁ、アイリ~~~ぃ」
彼女はどうすることも出来ず、ヘルと妹の名を呼び続けていた。
〈つづく〉




