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腐女子OL、悪魔姫に転生す  作者: 木天蓼亘介
13/40

第13話・「口笛はなぜ・・・」




「わぁ!!すごい」

 ()()はフェアデリア王国を一望出来る小高い山の上だった。

 ミセリにどうしても見せたい場所があると言われ、ヘルが案内されたのがここだった。

「はい。私も()()から見える風景が大好きです」

 ミセリがそう言うのも分かる。とツカサは思った。

 中世ヨーロッパ(多分)を彷彿させる街並みを流れる大きな川には荷物を運搬する木造船が何隻も見える。

 町を囲むように森が広がり、その更に向こうには雪が掛かる大きな山々が連なっていた。

 その山の間に、今まさに夕陽が沈もうとしていた。

 オレンジに染まる雪山を見ながら、

「・・・キレイ」

 そう感慨の声を漏らした横で、

「はい、とても」

 ミセリが彼女の横顔を見つめ、〝うっとり″しながらそう呟いていた。

「思い出すなぁ、学生だった頃を」

「えっ!?」

 突然ヘルの口から出た『学生の頃』というワードにミセリは思わず驚きの声をあげていた。

 中学生ぐらいにしか見えないヘルが懐かしむほどの学生時代とは一体いつのことなのか?

 そんな彼女の戸惑いを他所(よそ)に、ツカサは話を続けた。

「私ね、実家で犬を2匹飼ってて、学校から帰ってきたら散歩に連れていくのが日課だったの。夕陽が沈む川の堤防を毎日一緒に歩いてたのよ」

 そう言いながら、制服姿のまま2匹のポメラニアンを連れて堤防を歩いていた頃を懐かしむツカサ隣で、

「2匹の愛犬と川の堤防を、ですか?」

 対するミセリは、馬車ほどもある巨大な2頭オルトロスの片割れに股がり、プレゲドン川の堤防を歩く屍どもを蹴散らしながら爆走するヘルの姿を思い浮かべていた。

「あの子たち元気かなぁ?」

 そう言いながら川の堤防を見つめていた彼女の目に、今日の収穫を終えてリンゴ園から帰る女性たちの姿が映った。

「あ、みんな帰るんだ。今日も1日お仕事お疲れ様でした」

 遠くに小さく見える人影にそう話し掛けながら、昼間に会った皆の顔を思い浮かべた瞬間、

「あ~~~~~~~っ」

 ヘルは何かを思い出したかのように大声をあげていた。

「ヘル様、いかがなされました?」

 その、あまりの驚きようにミセリと近衛たちが慌てて駆け寄る。

「く、熊避けの実の花」

「はっ!?」

「熊避けの実の花よ。どうしよう?すっかり忘れてた!!あ、あの子たち何処へ行ったの?もしかして、人とか家畜とか襲ってない?」

 そのヘルの言葉を聞き、ミセリたちの表情が一瞬で戦士の()()に変わった。

「お待ちください。今確かめます」

 ミセリがそう言って、C型に曲げた親指と人指し指を歯で軽く噛むように咥え、

「フィっ」と口笛を吹いた瞬間、“シュタっ”と人影が目の前にあらわれ、ヘルたちに膝を着いて頭を下げていた。

 それは、人の目では絶対に捉えられないほどの素早い動きだったが、今のツカサにはその全てが見えていた。

 しかもその、目の部分以外の全身を覆う装束に彼女は目茶苦茶テンションが上がっていた。

「み、ミセリさん、この人ってもしかして?」

「我が近衛が誇る忍びで、名をハヤテと言います」

(やっぱり!!忍者キタ~~~~~~~~~っ)

 初めて見る本物の、しかも転生世界の忍者にツカサは興奮を押さえることが出来ず、思わず彼女の手を握っていた。

「あ、あの、ヘル様?」

 いきなり手を握られ戸惑いの声をあげるハヤテをよそに、彼女の手をつかんで、

「スゴい、手の甲とか上腕とか固い鉄板みたいなのがはめてあるんだ。

 手に鎖を編み込んだみたいな手袋はめてるのも刀を受け止めるため?肘にも何か固いパッドみたいなのが入ってる・・・」

 そう言って腕を触りまくっていた。

 対するハヤテはどうしたらいいのか分からないといった表情でされるがままになっていた。

「あ、あの、ヘル様」

 そこに声をかけたのはミセリだった。

「なに?」

「何をなさっているのですか?」

「なにって、コスプレの参考に・・・」

「こすぷれ?」

「えぇっと、違うの。これはその、なんと言うか、そ、そうそう、わ、私、服を作るのが趣味で・・・」

「あぁ、そのことはメアリから聞いています。あのような素晴らしいドレスを一晩で作られたと知り、お妃様も大層驚かれておられました」

「えっ!?あのドレスのことお妃様に話したの?」

 メアリのためとはいえ一晩の突貫工事で作ったため、決して満足する出来ではないドレスをお妃に見られたと聞き、ツカサは焦りを隠せない。

「何を言っているのですか?ヘル様がメアリやマリア様とご一緒に王族の方々に謁見した際、妹はあのドレスを召していましたよ?」

「あっ!?そっか!!」

「それよりヘル様、そろそろハヤテの手を離してあげてくださいませんか?」

「えっ!?」

 ミセリにそう言われ、ハヤテの困り果てたような目を見て彼女は、自分がまた暴走していたことに気付き、慌てて手を離した。

「ハヤテさん、ご、ごめんなさい。私、忍者の衣装と、いうか中の装甲とかが気になって」

 そう、()()()()()()になって必死に言い訳する彼女の可愛さに、ミセリは思わず「ぷっ」と吹きながら、

「ヘル様、その近接戦用の装備なら我々も装着していますよ」

 と言うと、

「えっ、そうなの!!今度見せて」

 ヘルはそう言って、ミセリの手を握っていた。

「は!?」

「お願い」

 まさに鼻の頭同士がくっつかんばかりの近さに、星のように輝かせて自分を見つめるヘルの瞳があった。

「で、ですがヘル様、それには・・・」

「お願い」

 彼女に見つめられながらそう言われたら、ミセリに()()を断る(すべ)などあるはずがない。

「わ、分かりました」

 ミセリは顔を真っ赤に染めながらそう返していた。

「えっ!?いいの?」

「は、はい。ヘル様がそこまでおっしゃるのなら・・・で、でも、お見せするには、その、ふ、服を、あの、ぬ、脱が・・・」

「やった~~~っ。ありがとうミセリ」

 だがミセリの言葉は、喜びを爆発させるように彼女に抱きついていたヘルの声に掻き消されていた。

「へ、ヘル様!!」

 対するミセリはこの事態にどう対処したらよいのか分からず、そんな彼女をただ抱きしめていた。

「あ、あの、ヘル様、今、私のことをミセリって?」

「あ!!ごめん。勢いでつい、呼び捨てはいや?」

「い、いえ。ヘル様なら・・・」

「じゃあ、ミセリって呼んでもいい?」

「は、はい」

「私のこともヘルってよんでね」

「そ、そんな失礼なことは出来ません」

 ヘルに呼び捨てにしていいと言われ、ミセリは嬉しそうに頬を赤らめながらそう返したが、さすがに周りにいる部下たちの視線が気になりはじめ、

「そ、それよりヘル様、熊避けの実の花のことはよろしいのですか?」

 と耳元で(ささや)いていた。

「あっ!!そうだった。ごめん、ごめん」

 彼女は慌ててハヤテの方を見た。

「ハヤテさん、熊避けの実の花は街の人達や家畜を襲ってませんか?それと、今どこにいるか分かりますか?」

 それを聞いたハヤテは再び彼女の前に膝を着き、報告を始めた。

「はい、今現在フェアデリア城下で行方不明になった人も家畜もおりません」

「そう。良かった」

 ヘルは心底安心した様子で胸を撫で下ろしていた。

「ですが、彼らは行方不明です。今どこにいるのかは分かりません」

「困ったなぁ。もう、あの子たちったらどこほっつき歩いてんだか・・・」

 その様子にミセリが、

「『あの子たち』とは、まるでヘル様がその者たちの飼い主のようですね」

 そう言うと、

「そうなの。あの子たち、私のことを飼い主と思ってるらしくて。・・・あの時『待て』って言っておくんだった」

 そう言いながら、困った様子で頭を掻くヘルに、

「あの、ヘル様、口笛を吹いてみてはいかがでしょうか?」

 と、ハヤテが提案していた。

「えっ!?口笛?」

「はい。もし熊避けの実の花たちがヘル様のことを飼い主と認識しているのなら、あなたの口笛を聞けば彼らの方から()()に来ると思いますが」

「あっ!そっか!!ハヤテあったまいい~~~っ」

 感心しきりの様子のヘルは、さっそく先程のミセリの見よう見まねでC型に曲げた指を軽く噛むように咥えると、夕陽に真っ赤に染まる雪山に向かって思いっきり息を吐いた。

「ふ~~っ、ふ~~っ」

 だが、()()から聞こえたのは、ただの息を吐く音だった。

「あれ!?」

 彼女は慌ててもう一度息を吹いた。

「ふ~っ、ふ~っ、ふ~っ」

 だが、結果は同じだった。

「あ、あの、ヘル様、もしかして口笛が吹けな・・・。いえ、その、吹くのが多少苦手・・・とか・・・ですか?」

 その、ものすごく気を使ったミセリの言い回しに、

「ち、ちがうの。・・・おっかしいなぁ?()()女の子もおじいさんと夕陽が沈むアルムの山に向かって口笛を吹いたら成功してたような・・・いや、あの時は結局吹けなかったんだっけ?」

そう言い訳しながら気を取り直して、

 (口笛はなぜぇ、こんなにも難しいの~)

 と、替え歌を脳内再生しながら何回か挑戦したが結局吹けず、

「ごめんミセリ、私の代わりに吹いて」

 と、手を合わせてお願いしていた。

「えっ!?」

「お願い」

「そ、それはだめです。我々にとって口笛は重要な連絡手段です。もし熊避けの実の花たちが私の口笛をヘル様のものと認識したら大変なことになりかねません」

「そうなんだ。ごめんなさい」

 ミセリの口から出た言葉の重大さに、自分の軽率さを思い知らされたツカサはそう謝罪していた。

「い、いえ、ヘル様はこの国に来られたばかりで知らないのが当然ですから」

 悪魔の国の姫が、自分の非を素直に認め頭を下げる。

 何度も見ても、その姿にミセリや近衛たちは戸惑いを隠せない。

「でもどうしたらいいんだろう?何か今すぐ吹けるようになる裏技ないかな?」

 そう困り顔のヘルを見てミセリは、

「ヘル様、こうするのです」

 そう言い、折り曲げた指を咥えたまま口を“にっ”と開き、折り曲げた指の形や咥え方を見せた。

「ありがとう」

 ツカサは()()を見ながら見ようみ真似で指を咥え再び勢いよく息を吹いた。

「ふ~~っ、ふ~~っ、ふ~~っ」

 だが、結果は同じだった。

 するとミセリが今まで咥えていた指を口から抜き、折り曲げた形のままヘルの前に差し出していた。

「ミセリ、なに?」

 その意味が分からずそう聞き返すヘルに、

「指についている私の歯形に合わせて、噛むように咥えて吹いてみてください。そうすれば音がでるかもしれません」

 彼女はそう返していた。

「えっ!?でも、私の歯って狼男みたいだから、ミセリの指を傷つけちゃう、ううん、噛み切っちゃうかもしれないからダメ」

 だがミセリは、

「大丈夫、ヘル様、いいえ、ヘルなら出来ます」

 そう言って“にこっ”と微笑んでいた。

「でも」

「早くしないと日が沈んでしまいます。そうしたら本当に捜せなくなってしまいます」

 彼女のいう通り、日は山々の麓に沈み、街には夜の戸張(とばり)が降りようとしていた。

 「なにより、街の人たちが夜道で熊避けの実の花たちにバッタリ遭遇したら大変なことになりますよ」

 確かにミセリの言う通りだとツカサも思った。

、熊避けの実の花たちは、土砂降りの雨が降る夜に、傘を持っていくのを忘れた父を迎えに行った山奥のバス停で、バッタリ出会って傘と交換にドングリを渡されても、絶対に友達にはなれないと一目見たら分かるタイプだ。

「わ、わかったわ」

 ヘルはミセリの指の感触を確かめるようにそっと咥えると、笛を吹くように勢いよく口から息を吐いた。

「フぃ~~~~っ」

 すると、お世辞にも上手とはいえないが口笛がなっていた。

「やったぁ」

 ツカサはそう言いガッツポーズした。

 が、

「それではだめです」

「えっ!?」

 そう言われ、ミセリを見ると、彼女はヘルが咥えていた自らの指を再び咥え、唇を尖らせるようにすぼめていた。

「こうです。こうしないと遠くまで届く高く澄んだ、空気を突き抜けるような音は出ません」

 そう言って、折り曲げた指を再び彼女の前に差し出した。

「わかった」

 ツカサはそう言うと再び彼女の指を咥え唇を尖らせた。

 ミセリの指を噛み切らぬよう顎に力を入れ、深呼吸するかのように鼻から吸った空気を、口から思いっきり吹き出した。

「フィ~~~~~~~~~~っ」

 すると今度は、口笛の音が冷たい空気を突き抜けるように響いていた。

 それが山々にぶつかって反射し、木霊(こだま)となって幾重にも重るように響き続けていた。

「お見事です」

 そう言い“にこっ”っと笑ったミセリに、

「ありがとうミセリ」

 ヘルはそう言いながらまたもや抱きついていた。

 そして彼女の手首を掴み、今の今まで咥えていた指を見た。

「へ、ヘル様?」

「ご、ごめんなさい」

「はっ!?なにがですか?」

 突然謝られた理由が分からずミセリはそう聞き返した。

「ミセリの指、私の唾液で“べたべた”にしちゃった。後でキレイに洗ってね」

「はい、この指は一生洗いません」

「えっ!?」

「い、いえ、なんでも・・・あ!?ヘル様、来ましたよ」

 慌てて視線を逸らした彼女の目が、土煙をあげながらこちらに向かって走ってくる異形の集団を捉えていた。

()()が熊避けの実の花ですか?」

 おそらく想像していたものとはかけ離れた姿だったのだろう。

 ミセリだけでなく近衛の皆も、知らず知らずのうちに帯同していないはずの刀や武器を掴むように、指で腰の辺りを手探りしていた。

 その間にも、巨大な花のオバケがどんどん近付いてくる。

「へ、ヘル様、本当に逃げなくて大丈夫なのですか?」

「大丈夫よ。私にまかせて」

 ヘルはそう言って腕を組むと、こちらに向かって爆走してくる熊避けの実の花たちの前に立ちはだかるように仁王立ちになった。

 そして、

「待てっ」

 そう号令を発した瞬間、熊避けの実の花の大群が一斉にヘルに飛びかかり、彼女の姿は()()に埋もれて一瞬で見えなくなっていた。

「へ、ヘル様~っ」

 ミセリたち近衛が慌てて駆け寄るがどうすることもできない。

 すると、

「お~ほっほっほっ。大丈夫。私は無事よ」

 と、まるで悪役令嬢のような甲高(かんだ)い笑い声が響き渡っていた。

「ヘル様?」

 それは間違いなくヘルの声だった。

 だが、彼女の姿はどこにも見えない。

「ミセリっ、みんなっ、上よ、上っ」

 言われるまま視線を上げると、彼女の真上に翼を羽ばたかせて空中に静止するヘルの姿があった。

 彼女は脱いだ上着で胸を隠し、翼を広げていた。

 だがミセリの視線は、別の意味でヘルに釘付けになっていた。

 彼女がパンツを履いていないため、真下から見上げるミセリには、ヘルのスカートの奥が丸見えになっていたのだ。

「へ、ヘル様こそ、おケガはありませんか?」

 彼女は、“ごくっ”と唾を飲み込みながら、そう聞き返すので精一杯だった。

「ありがとうミセリ。大丈夫よ。それにこの服気に入ってんだから、そう簡単に溶かされてたまるもの・・・」

 その瞬間、ヘルの足首に無数のつるが触手のように巻き付き、彼女は一瞬にして地上に引きずり下ろされていた。

「のぁ~~~~~~っ」

 そして、熊避けの実の花たちの群れの中に飲み込まれるように消えていた。

「ヘル様」

「ヘル様」

「ヘル様~っ」

 巨大な花の化け物たちの群れに、丸腰の彼女たちに立ち向かう(すべ)などあるはずもなく、ただ見守ることしかできない。

「お、お、お、おすわりっ」

 その時、群れの中から響いた声に、熊避けの実の花たちはその場から一斉に退き、ぐるりと円状に囲むように“おすわり”していた。

 そしてその真ん中に、全裸でしゃがむヘルの姿があった。

「ヘル様、よかったぁ」

 そう安堵の声をあげるミセリとは対象的に、

「も~っ、こんな『異世界あるある』いらないからぁ」

 彼女はまたも半ベソをかいていた。

「ヘル様、おケガはありませんか?・・・」

 ミセリがそう言って彼女に駆け寄ると、ヘルは飛び付くように彼女に抱きついていた。

「へ、ヘル様!?」

「ミセリお願い、“ぎゅっ”て抱きしめて」

「えっ!?」

 彼女の顔が一瞬にして耳まで赤く染まる。

「そうしないと私、丸見えになっちゃうから」

 ヘルはそう言いいながら翼を広げ、背中やお尻を覆い隠していた。

「わ、わかりました。みんな、防御陣形」

「了解」

 ミセリの号令一下、近衛たちが周りを“ぐるり”とドーナツ状に囲むように円陣を組み2人を隠した。

「これでもう大丈夫です」

 ミセリはヘルを安心させるかのようにそう微笑んだ。

 が、

「でもどうしよう?」

 ヘルの顔は晴れなかった。

「と、申されますと?」

「どうやってお城まで帰ろう?もう日が暮れちゃうし」

 だが、その目と鼻の先にある困った様子の彼女の顔を“どきどき”しながら見つめるミセリに良いアイデアなど思い浮かぶはずもなく、

「た、確かに」

 と、相槌(あいづち)を打つことしかできない。

「あっ!!そうだ」

 その時突然、ヘルは閃いたように大声を出していた。

「い、いかがなされました?」

「日が落ちて真っ暗になったら逆に誰にも見られないんだから、裸のままお城まで飛んで帰ればいいんだ」

「えっ!?」

「うん、我ながらナイスアイデア」

「へ、ヘル様、何を言っているのですか!!」

「えっ、だめ?」

「当たり前です。確かに私たち人族には見えないかもしれませんが、飛翔族や野獣族には夜目の利く者がたくさんいます。見られてしまいますよ」

「そうなんだ?困ったなぁ」

「ヘル様~~っ」

「ヘル様~~~っ」

 その時遠くから聞こえてきた、自分の名を呼ぶ聞き覚えのある声に、ヘルは辺りを見渡した

 すると、こちらに向かって小走りに駆けてくるアデルと、歩いてくるさっきのおばあさんが見えた。

「あれ?おばあさんとアデルだ。お~い、おばあさ~んっ、アデル~っ、こっちだよ~っ」

 ツカサが円陣から突き上げた手を元気一杯に振ると、それを見た2人がこちらに近付いてきた。

「ヘル様」

「ヘル様っ」

「おばあさん、アデル。2人ともどうしたの?」

 そう訊ねる彼女に、

「ヘル様、()()をお持ちしました」

 そう言っておばあさんが差し出したのは服だった。

「えっ!!なんで?なんで服がいるって分かったの?」

 ヘルだけでなくミセリや近衛たちも、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔でおばあさんたちを見つめる。

「口笛が聞こえたあとに花のオバケたちが山に向かって一斉に駆けていくのが見えてね、もしかしたらって思ってヘル様の服を持ってきたんだよ」

「おばあさんてもしかして真田さん?てか、グっジョブ」

 ツカサは嬉しそうに親指を突き立てていた。

 しかし対するミセリは、

『熊避けの実の花たちはどう見ても馬より速く走っていた。老婆とヒールを履いた女性が()()とほとんど変わらない速さでここまで走って来たというのか?』

 などとは全然思っていなかった。

 いや、普段の彼女ならそう疑問に思っていただろう。

 だが、今のミセリは()()どころではなかった。

 抱きしめるヘルから伝わる体温と、密着することで自分の胸に“ぎゅうぎゅう”と押し付けられ、互いに弾き返さんと“たわわ”に弾む彼女の胸の膨らみと、その頂点で自己主張するかのように“つん”と尖るちっちゃな蕾が“こりこり”と生地越しに擦れる感触に、ミセリはどこかに飛ぶ寸前の理性を必死に繋ぎ止めていた。

「ところで、熊避けの実の花たちが皆満腹そうなんだけど、なぜだい?」

「えっ!?」

 言われて見ればおばあさんの言う通りだった。

 熊避けの実の花たちは食べ過ぎで身動きが取れないらしく、“おすわり”したまま苦しそうにゲップを繰り返していた。

「ま、まさか、やっぱり人や家畜を襲ったんじゃ・・・」

 ヘルの顔がみるみる青ざめていく。

「いえ、フェアデリア城下で人も家畜も一斎襲われてはいません。私が保証します」

 そんな彼女にそう進言したのはハヤテだった。

「じゃあ、あの子たちのお腹の中に入っているのは何?」

「おそらくですが、巨獣ではないかと」

「巨獣?」

「はい。例のサラマンダー騒動から巨獣を一頭も見ておりませんし気配も感じません」

「そっか、ならいいんだけど」

 ヘルは“ほっ”と胸を撫で下ろしていた。

 そして、近衛の1人が受け取った服を、円陣の中心にいるミセリに手渡した。

「ヘル様、お召し物を」

「ありがとうミセリ」

 ヘルはそう言って服を受け取ろうとした。

 が、

「いえ、私がお召し替えをいたしますので、ヘル様は腕を出しください」

 ミセリはそう言って上着を広げるように持ち構える。

「えっ!?だ、大丈夫よ、一人で着れるから」

 ツカサはそう言って断ったが、

「いえ、お召し物を着られている間に、熊避けの実の花たちがまたどこかに行ってしまわぬよう、ヘル様に見張っていて頂きたいのです」

 ミセリにそう言われると、

「あ!?そっか!!さすがミセリ」

 と感心しきりの様子で彼女の提案を受け入れていた。

 そして、〝おすわり″する熊避けの実の花たちの方を向くヘルの前にミセリが立ち、彼女が差し出した腕に袖を通すように上着を羽織らせると、もう片方の手も袖を通して

 襟を直し、ボタンを掛けるべく生地の前を掴んで寄せ上からボタンを掛け始めた。

 口から心臓が飛び出んばかりの胸の“ドキドキ”を押さえつつ、第一ボタンはなんとか掛けることが出来た。

 が、次の瞬間。

 ヘルの大きな2つの膨らみを見ながら服の前を掴んで寄せたミセリの小指が偶然にも、生地の上からでもハッキリ分かるぐらい“つん”と尖る、薄紫の肌より少し濃い目の色のちっちゃな蕾に擦れていた。

「ぁん」

 その瞬間、()()から火花のように弾けた“ぞくぞくっ”とする感覚に、ヘルは思わず艶かしい声を漏らして“びくっ”と小さく跳ねてしまっていた。

 そして、それを見たミセリも反射的に指を離してしまっていた。

 その結果、ヘルの豊潤に実る果実のような2つの膨らみが、その若々しい張りと弾力で生地を(はじ)き飛ばすように“ぷるん”と弾んでいた。

「ごくっ」

 ()()を目の当たりにしたミセリは、思わず唾を飲み込むと、

「あ、あの、ヘル様」

 と、声を上擦(うわず)らせながら話し掛けた。

「な、なに?」

 それに答えるヘルの声も見事なまでに上擦っていた。

「い、いえ。その、ボタンを掛けますから、動かないでください」

「・・・は、はい」

 不慮の事故とはいえミセリはもちろんのこと、()()()声を漏らしてしまったツカサも、そして()()を聞いてしまった近衛たちの間にも気まずい空気が流れる中、ミセリは改めてヘルの服の胸元を掴み“ぐいっ”と寄せた。

 が、先程のと比べると服のサイズが明らかに小さいらしく、ミセリは彼女の胸の膨らみを、左右から押し寄せる生地で無理矢理挟み込むように“ぎゅうぎゅう”と押し込んでいき、なんとかボタンを掛けていた。

 その結果、無理矢理中に押し込められた窮屈そうな膨らみは、締め付ける生地を押し返さんと“たわわ”に弾み、ボタンが今にも弾け飛びそうになっていた。

「あ、あのヘル様、胸は苦しくないですか?」

「えっ!?」

「い、いえ、その、あまりに窮屈そうですので、もしよろしければ、第2ボタンだけ外してもよいのではと・・・」

 そう言いながらミセリの視線は、生地を押し上げるように盛り上がる2つの膨らみと、その頂点で自己主張するかのように“つん”と尖るちっちゃな蕾に釘付けになっていた。

「そ、そうなの?私、この世界のファッションのことが分からなくて。だからそこはミセリにまかせるわ、いい?」

 ヘルがそう言うと、

「は、はい。お任せください。とりあえず服を着ましょう」

 ミセリは嬉しそうに、残りのボタンを掛け始めた。

 鍛え抜かれた腹筋や可愛らしい()()()、そして引き締まった下腹部を愛おしそうに見つめながら次々にボタンを掛けていく。

「ごくっ」

 そしてボタンが残り1つとなったところで、彼女はまたも唾を飲み込んでいた。

 なぜなら、彼女の鼻の先に、ヘルの“つるつる”で“ぷにぷに”の肉丘と、その真ん中を艶かしく縦に走るスリットがあったからだ。

 視線が()()に吸い寄せられるように釘付けになっていることに気付き、ミセリは慌てて目を閉じ視線を逸らした。

(な、なにをしているんだ私は。くそっ、しっかりしろミセリ)

 だが、指が(もつ)れてなかなかボタンを掛けることができない。

「あ、あれ?」

 焦れば焦るほどボタンは掛けられず、彼女自身どうしていいのか分からなくなっていた。

「大丈夫よミセリ、落ち着いて」

 その時、ミセリの指に()()()がそっと重ねられていた。

 その感触に“はっ”と目を開けると、自分の指に重ねられていたのはヘルの指だった。

「ヘル様」

「私のことは王女じゃなく友達だと思って」

 どうやらヘルは、ミセリがボタンを掛けられないのは、彼女が自分のことを王女だと意識し過ぎるあまりの緊張が原因だと思っているらしい。

「は、はい」

 すると、さっきまでのことがウソのようにボタンが“すっ”と掛かっていた。

「やった!!できましたヘル様」

 そう笑顔で自分を見つめる彼女に、

「うん」

 ヘルも笑顔で返していた。

 するとミセリは、今度は膝をついたままスカートを広げていた。

「ヘル様、前を見たままスカートを履くのは危険です。転ばぬよう私の肩に手を着いてお履きください」

「あ、ありがとう」

 そのあまりの丁寧さに申し訳ないとも思うが、とにかく今は早くスカートを履いて、熊避けの実の花を何とかしなければという思いから、彼女は言われるままに、視線は前に向けたまま、膝まづくミセリの両肩に手を着くと、その爪先を彼女が広げ持つスカートの中に突っ込むべく右膝を上げた。

 それに合わせて、目の前のスリットが“くにゅ”っといやらしく(よじ)れ、その切れ込みから、真珠のような肉芽を包む種皮や、薄紫色の可愛らしい花びらの先端が“ちょこん”と顔を覗かせるのをミセリは見逃さなかった。

 “どごっ”

 その結果、無意識に顔を近付け過ぎた彼女の(あご)に、右足を着いたヘルが次に上げた左膝がカウンターでクリティカルヒットしていた。

「あぐっ!!」

 完全に不意を突かれる格好で喰らった会心の一撃に、ミセリはその場に崩れ落ちるように倒れていた。

「えっ!?ミセリ!?」

「隊長っ!?」

「隊長っ!?」

「隊長っ!!」

 円陣が崩れるのもお構いなしに、近衛たちが心配そうに駆け寄る。

 そんな中ヘルは、

「ミセリっ、しっかりして!!」

 スカートを握りしめたまま気絶した彼女を慌てて受け止め、そのまま抱きしめていた。



                            

                                          〈つづく〉

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