第11話・「くらえっ、ヘルビィィィィイムっ」
「見ないで~~~っ」
“バサっ”
その時、正座したまま身体を折り曲げるヘルの身体に何か大きな布が掛けられていた。
「!?」
彼女が見上げると、一人のおばあさんが彼女にポンチョのような物を掛けてくれていた。
「ヘル様、大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
ツカサはそれで身体を包むようにしながら上半身を起こしていた。
そんな彼女の目の前にいるおばあさんの横では、アンを抱いたエリシアが一人の女性にぴったり寄り添っていた。
その顔は、一目見て親子と分かるぐらい2人にそっくりだった。
「あの、もしかしてあなたは2人の?」
「はい、私はこの子たちの母親で、エトアナと言います」
そう自己紹介する彼女は、何故だか伏し目がちだった。
そして、
「あ、あの、ヘル様。申し訳ありませんでした」
と、土下座していた。
「ど、ど、どうしたの!?」
そんな彼女の行動に一番驚いたのは他ならぬツカサ自身だった。
「その、うちの娘がヘル様の尻尾を噛んでしまって」
「あ、そのこと!!」
「私が代わりにどんな罰でも受けますので、どうか娘だけには・・・」
「大丈夫よ。全然気にしてないから」
「えっ!?」
「噛む力があんまりにも凄くてビックリしただけだから」
笑顔でそう返され、逆にエトアナの方が鳩が豆鉄砲をくらったような顔になっていた。
「えへっ、凄いでしょ」
対するエリシアは、褒められたと思ったのか得意気に口に指を引っ掛けて横に引っ張り、歯を見せていた。
そこには、まるで吸血鬼かオオカミ男のそれのように鋭く尖る歯が並んでいた。
「スゴい」
それを見てそう感心するヘルに、
「実はこの子たちの父親は王狼族なんです」
エトアナがそう語りかけた。
「王狼族?」
「はい。獣人族の中でも最も勇敢で戦闘力の強い種族で、彼らの歯は何でも噛み砕きます」
「何でも?」
「はい。彼らの歯はすぐに生え替わるものですから、その犬歯がオリハルコンに装飾を施すための彫刻刀の刃先に使われるぐらいで・・・」
「えぇ~!!、オリハルコンより硬いの!?」
初めて知ったその事実に、ヘルは思わず声を裏返らさんばかりに驚いていた。
「どうりで、痛いわけだ」
そう感心するヘルの態度が嬉しかったのか、エリシアは、
「えへっ、凄いでしょ」
と、鼻高々に自慢していた。
そんな幼女の頭を撫でながら、
「でも、エリシアもアンも王狼族とのハーフには見えないよね」
と口にしていた。
実際彼女たちは、普通の人族にしか見えなかった。
すると、
「そんなことないよ。今、証拠を見せてあげる」
エリシアが対抗意識を燃やすようにそう言うと、“ぴょん”と彼女の髪を掻き分け、頭の左右に子猫のような可愛いらしい耳が姿をあらわしていた。
それだけではない。
彼女が妹の髪を掻き分けると、アンにも可愛いらしいちっちゃな耳が生えていた。
「えっ!?」
「耳だけじゃないよ」
驚きの表情を見せるヘルに追い討ちをかけるように、“ぴょこん”と可愛いらしい尻尾がスカートの後ろを持ち上げていた。
「か、か、か、可愛い~~~っ」
それを見た瞬間、そのあまりの可愛さにツカサはエリシアとアンを“ぎゅっ”と抱きしめていた。
「こんなに可愛い獣耳&尻尾の幼女がいるなんて、異世界恐るべし」
「へ、ヘル?」
突然抱きしめられ戸惑いの声をあげるエリシアにツカサは、
「ねぇエリシア。お願い、耳を撫でさせて」
とお願いしていた。
「えっ!?」
「お願い」
「・・・う、うん。いいよ」
ヘルのあまりの必死さに、エリシアはしぶしぶ承諾していた。
「あ、ありがとう」
嬉しさのあまり興奮を押さえられない様子のツカサが“つん”と立つ耳を撫でるように触ると、
「んんっ」
その感触に小さな耳が“ぴくっ、ぴくっ”と跳ねるように動いた。
「か、可愛い~~~っ」
もう無我夢中で、猫を愛でるようにエリシアの頭や耳を撫で続ける彼女の目に、アンのちっちゃな猫耳がとまった。
「ど、どうしよう。我慢できない」
彼女はアンの耳へも“そ~っ”と手を伸ばした。
が、それだけでアンの顔に明らかな警戒心の色が浮かんでいた。
下唇が尖り、つぶらな瞳が涙目になっていく。
「だめだめだめ、アン。泣かないで」
ヘルは大慌てで彼女の前で尻尾の先を揺らしていた。
すると、彼女はすぐに笑顔になり、“ゆらゆら”揺れる尻尾の先を追い掛けるように両手で掴んで口元に運び、また“ぺろぺろ”舐めていた。
「はいはい、アンちゃんはおりこうさんでちゅね~っ。おばちゃんがご褒美に耳を撫で撫でちてあげまちゅよ~」
そう言ってヘルがアンの耳を撫でるのと、アンがヘルの尻尾の先を“がぶっ”と噛んだのがほぼ同時だった。
「ぎゃ~~~~~~~~っ」
彼女はまたしてものたうち回っていた。
「ヘル、なにやってんの?」
その一部始終を見ていたエリシアが半ば呆れたように話し掛けた。
「だって、私が住んでたアパート、ペット禁止で、仕方ないからスマホの育成ゲーで猫を育ててたの。今まで画面の猫耳を撫でてたのよ。
そんな私がこんな可愛い2人の猫耳を見たら撫でたくなるに決まってるでしょ?」
対するヘルはまたしても涙目になりながら、尻尾の先に“ふ~っ、ふ~っ”と息を吹き掛けていた。
「あ、あのヘル様。ポンチョがはだけて、その、見えてますよ」
そこに、エトアナが申し訳なさそうに割り込んでいた。
「えっ!?えぇ~~~~~~っ」
彼女が慌ててはだけたポンチョの前を握りしめ辺りを見渡すと、周りに集まる野次馬たちが、《それ》に合わせて視線を逸らしていた。
「きゃ~~~~~~~っ」
ツカサは大慌てでエリシアの後ろにしゃがむように隠れていた。
が、当然ながら彼女がしゃがんでも幼女の背後に隠れきれるはずもなく、ヘルは困り果てた様子で、
「エトアナさん。その、貸してもらえそうな服ってありますか?」
と訊ねると、
「はい。あの、こちらのおばあさんが貸してくださるそうです」
と、さっきのおばあさんをヘルに紹介していた。
「おばあさん?」
「はい。こちらのおばあさんは服を売っていらして・・・」
エトアナはそう言いながらすぐ向かいの、洋服が並ぶ屋台を指差し、
「今ヘル様が御召しのポンチョも貸してくださったんですよ」
と紹介していた。
「マジで!?神様ってホントにいるんだ。エリシアいい?あのお店までゆっくり歩いていくの。いい?」
しゃがんだままエリシアの肩を掴み、身体を縮めるツカサはそう彼女の耳元で囁くと、
「じゃあ、“せ~の”で歩き始めるわよ。せ~の」
そう言ってタイミングを合わせながら、2人はゆっくりとカニ歩きで移動し始めた。
けれど、当然ながら2人のタイミングが合うはずもなく、ヘルはしゃがんだままエリシアにしがみつき、2人は不器用にカニ歩きしてようやくお店にたどり着いていた。
2人は屋台の、粗末なカーテンで仕切られただけのお店の奥に通された。
「おばあさん、あの、このポンチョありがとうございます。私、これ買い取ります。おいくらですか?」
開口一番彼女がそう言うと、おばあさんは、
「いいのかい?じゃあ100シリングだよ」
と言っていた。
「100シリング?100シリングっていくらですか?」
「ヘル、何言ってるの?100シリングは100シリングだよ」
エリシアにそう言われ、ツカサはその時初めて自分がこの国の貨幣の単位はおろか、その名称すら知らなかったことに、そして財布すら持っていないことに気付いていた。
(ど、どうしよう?お金がない)
“わ~~~~~~っ”
“きゃ~~~~~っ”
“逃げろ~~~~~っ”
その時、人々の悲鳴にも似た、恐怖に満ちた声が遠くから聞こえてきたかと思うと、“びゅ~~~っ、びゅ~~~っ”と唸る風の音と共に屋台そのものが揺れ始めた。
「なにこれ?・・・まさか、竜巻?」
ツカサは慌ててお店の外に出た。
「なに、あれ?」
そこで彼女が目にしたのは、まさに巨大で凶暴という表現がピッタリのサラマンダーと、その背に跨がる鎧に身を包んだ獣人の姿だった。
「貴様ら、オレ様の可愛い手下どもをよくも殺してくれたな」
それを聞いてツカサは、朝アイリが言っていたことを思い出していた。
『巨獣を束ねるリーダーの獣人がものすごく頭がよくて、勇者のパーティが全滅したんです』
「ここの連中や近衛がそんなマネが出来るはずがない。どこの勇者を雇った?そいつを今すぐ丸腰でここに連れてこい。オレ様は優しいから5分だけまってやる。ただし・・・」
そう言って獣人が足でサラマンダーの横腹を軽く蹴ると、
“ブォ~~~~~~~~っ”
その、大きく割り開かれた口から眩く光る炎が吐かれていた。
「到着が1分遅れるごとに街を火だるまにしてやる」
“わ~~~~~~~~~っ”
“きゃ~~~~~~~~っ”
人々が逃げ惑う声が響き渡る。
「さぁ、早く勇者を連れてこい。もたもたしてると街が焼け野原に・・・」
その瞬間、火を吐くサラマンダーの下顎を、翼を広げてジャンプしたヘルが思いっきり蹴りあげていた。
“どごぉおんっ”
その結果、サラマンダーの身体が空中で1回転し、獣人は背中から放り出され石畳みの大地に激突していた。
そして、ようやくヘルに気付いた。
「き、貴様、まさか悪魔姫か?なんで人族の国にいる?・・・」
「私、漫画読みながらいつも思ってたの」
「なに?」
「なんで主人公は敵の御託をわざわざ聞くのか?なんでラスボスが最終形態に進化するのを待つのかって?」
「なに?」
「確かに、学生の時はそれでもよかった。けど、OLやってる今の私にそんな悠長なことを聞いてる時間も余裕もないわ。
・・・私が主人公なら、進化してる途中のラスボスを迷わず必殺技で攻撃する」
「なんだ?貴様、さっきからなにを言っている?」
「くらえっ、ヘルビィィィィイムっ」
彼女はそう叫びながら✕印を描くように腕を交差させた。
・・・が、何も起きなかった。
「・・・あ、あれ???」
「!?」
獣人だけでなく街の人たちも訝しそうに見つめる中、
「ふ、ふふっ、今のはウオーミングアップ。これからが本番。くらえっ、ヘルアローーーーーーっ」
と、今度は両手を顔の前で交差させただ何も起きず、
「へ、ヘルカッタ~~~~~~~~っ」
と、叫んだがやはり何も起らなかった。
「え!?なんで?」
さすがのツカサもこれには焦り、
「・・・ふ、ふふっ、貴様は運がいい。もし私がちゃんとベルトをまいていたら、そこから光りの刃が発射されて身体がみじん切りになっていたわよ」
そう強がったが、獣人が半ば呆れたような顔で自分を見つめているのに気づき、
「か、勘違いしないでよね。手加減してあげたんだから。ベルトをはめてたら出来たんだからね。・・・そ、それなら、これはどうだ、ヘルハリケーーーーーーーンっ」
唇を尖らせ〝ふぅ~~~~っ、ふぅ~~~~っ、ふぅ~~~~~~~~~~~~~~~~っ″と勢いよく息を吐いたが竜巻も起こせず、結局息切れし〝ぜぇ、ぜぇ″と肩で息をしてした。
「お、おかしいな?悪魔の力を身に付けてるはずなんだけど・・・は!?もしかして、私やっぱりバナナの皮で足を滑らせて頭打って夢をみてるとか???」
彼女はそう言って、自分の頬を思いっ切りつねっていた。
「いったあぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
ヘルは頬を押さえ、空中で悶絶していた。
「メチャクチャ痛ぇ!!夢から覚めるどころか死んでも生き返るレベルだわ」
「貴様、一体何がしたい?」
彼女の一連の行動を見ていて、痺れを切らしたかのようにそう訊ねる獣人にヘルは、
「ふ、ふふふっ。まだ気付かない?」
と、苦し紛れをごまかすように見栄を切っていた。
「なにっ!?」
ヘルが何を言っているのかさっぱり分からず戸惑っていた獣人は、自分が涎を垂らす熊よけの実の花の群れにぐるりと取り囲まれていることに気付いた。
「食べてよし」
「ギャギャギャギャギャ~~~~~~~~~~~~~~~っ」
次の瞬間、獣人は数え切れない程の熊よけの実の花に襲われ喰われていた。
「ぎゃ~~~~~~~~~~っ」
その断末魔の絶叫を聞きながら、ツカサは彼女の前から逃げようとするサラマンダーの前に翼を広げて立ち塞がり、
「ダメでしょう?こんなことしちゃあ」
まるで、実家のポメラニアンが悪さをした時のように、保護者目線でしかりつけていた。
だが、悪魔姫の彼女がそう言いながら睨みつけられただけで、サラマンダーはその大きな瞳からボロボロと涙を溢し始めた。
すると、その流れ落ちる涙が、次々に結晶化し涙滴型のガラス玉になっていった。
「えっ!?」
ツカサは慌ててポンチョの裾を掴み、前に広げてそれらを受け止めた。
それはらは一粒の直径が3㎝ほどもあり、これが下に落ちて誰かの頭に当りでもしたら大ケガをするかもしれないと思ったからだ。
が、彼女のポンチョはすぐに支えきれないほどの大量のガラス玉で一杯になっていた。
「ちょ、ちょっと何これ?スッゴく重いんだけど!!」
その、ポンチョから溢れんばかりの量と重さに、彼女は仕方なくゆっくりと下降し始めた。
すると、サラマンダーはどこかへ飛び去っていった。
「あっ!!こら~~~っ」
ツカサの声も聞こえていない様子で遠くに消え行くサラマンダーを、なす術なく見送りながら、彼女は着地した。
が、そのあまりの重さにバランスを崩し盛大に尻餅をついていた。
「いったぁ~~~っ」
「ヘル、大丈夫?」
そこに駆け付けたエリシアが見たのは、ガラス玉の重さに身動きが取れず、ポンチョ一杯に受け止めたそれを、胡坐をかいた脚の間に落とし込むようにして座るヘルの姿だった。
「エリシア、これなに?」
それを見た途端、エリシアの目の輝きが変わった。
「ヘル知らないの?これ、ドラゴンドロップだよ」
「ドラゴンドロップ?」
「宝石だよ」
「えっ!?宝石?」
「へ、へ、ヘル様っ」
そこに突然、身体中に光り物をチャラチャラさせた女性が、文字通り転がり込むように2人の間に割って入り、ヘルにしがみついていた。
「それを私にお譲り下さい」
「えっ?」
あまりに唐突で突然の申込みに戸惑いの表情を見せるヘルに、女性は慌てて彼女から離れて深呼吸すると、
「取り乱して申し訳ありませんヘル様。私、アデルと申しまして、この国で宝石商を営んでおります」
そう言いながら、“シュタっ”と名刺を差し出していた。
「はぁ」
受け取った名刺には、確かに宝石商のアデルと書いてある。
「あの、これてどれくらいの価値があるんですか?」
その価値が分からないツカサが素朴な疑問でそう訊ねると、
「私も長年宝石商をしておりますが、こんな大きなジュエルドロップは初めて見ます。しかもこれだけの量ですから、間違いなく小さな国が買えます」
と、興奮冷めやらぬ様子でまくし立てていた。
「えぇぇ~~~~~~っ!!」
それを聞き、ヘルはその場にひっくり返っていた。
「ちょ、ちょっとヘル」
ひっくり返った勢いで盛大に捲れ上がったポンチョをエリシアが慌てて押さえ付ける。
「ヘル、見えちゃうから」
「ご、ごめんエリシア。だって小さな国が買えるって!!国っていくらぐらいすると思う?」
「えっ???う~~ん、えぇっと、せ、1000シリングぐらいじゃない?」
「1000シリングっていくら?」
「あ、あのヘル様」
そんな2人の会話にアデルが分け入っていた。
「それで、そのドロップは譲っていただけるのですか?」
「え~っと、どうしよう?あ!!」
その時、ツカサの頭にあることが閃いた。
「とりあえず買いたいものがあるの。それを先に買ってもいい?」
「えっ!?」
ヘルはそう言うと、さっきのおばあさんの露店へと歩いていき、
「おばあさん、さっきの約束通りこのポンチョ買います」
そう言って、ドラゴンドロップを一粒差し出していた。
それを見たおばあさんも腰を抜かさんばかりに驚いていた。
「ヘル様、そ、そんな高価なもの受け取れないよ。高額すぎてお釣りが払えないから・・・」
「じゃあ、私の服も買うわ。ならいいでしょ?」
彼女はそう言いながらウインクすると、おばあさんに色々訊ねながらお店に並ぶ服を物色し始めた。
なぜなら、この世界のファッションがまるで分からなかったからだ。
お店に並んでいたのは、山岳地帯に住む人たちがよくて着ているイメージのある民族衣装だった。
「おばあさん、ここにある服って全部おばあさんが作ったの?」
「いや、私が住んでいる村で誰も着なくなった服を私が仕立て直して売ってるんだよ」
「へ~。おばあさんの村はどこ?」
するとおばあさんは、遥か彼方に霞んで見える雪山を指差した。
「あそこ。ブリザード山の向こう側だよ」
「えっ!?あそこ!!あんな遠くから来たの?」
そう驚くヘルに、
「えぇ、ロバの背中に荷物を乗せて、ここまで歩いてきたのさ」
と、当たり前のように返していた。
「じゃあ、服が売れ残ったらどうするの?」
「もちろん、持って帰るんだよ」
「そ、そんな」
そんな困惑を隠せないツカサの耳に、遠くから自分を名を必死に呼ぶ声が近付いてくるのが聞こえてきた。
「ヘルさま~~~っ」
「ヘルさま~~~っ」
「ヘル様、返事をしてくださ~~い」
それは、自分を捜すミセリたち近衛だった。
「みんな~~~っ」
ヘルは屋台から飛び出ると、皆に大きな声で呼び掛けながら手を振っていた。
それに気付いた近衛たちが彼女の元に駆け寄ってきた。
「えっ!?」
こちらに近付いてくる彼女たちを見てヘルは驚きの声をあげていた。
近衛たちは重武装の鎧に身を纏って騎馬に股がったうえに、要塞や城攻めに使う投石機や弩弓まで馬に引かせていたのだ。
「ど、どうしたの?みんな、ものすごい重武装して?なにかあったの?」
「ヘル様がリンゴ園にあらわれた巨獣を追って街に向かったと聞いて出陣しようとしていた時に、サラマンダーに乗った獣人が街にあらわれたとの一報を受けまして」
「我ら近衛一同、街の皆とヘル様をお守りすべく馳せ参じました。重武装の馬車をご用意しました。あとは我々に任せヘル様はあれに乗ってお城までお逃げください。で、巨獣と獣人とサラマンダーはいずこに?」
そう訊ねられ、
「巨獣は私が倒して、・・・獣人は熊よけの実の花が食べちゃった」
ツカサは気まずそうにそう答えていた。
「はっ!?」
そして、
「サラマンダーは、これを残してどこかに行っちゃった」
そう言いながら両手に抱えきれないほどのドラゴンドロップを皆に見せた瞬間、ミセリたちはその場で卒倒していた。
「ちょ、ちょっとみんな大丈夫!?」
ヘルが慌ててそう声をかけ、ミセリの手を引っ張り上げて立たせていた。
「す、すみませんヘル様、あまりの衝撃に年甲斐もなく腰が抜けそうになりました」
ミセリは恥ずかしそうに顔を耳まで真っ赤に染めていた。
〈つづく〉




