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腐女子OL、悪魔姫に転生す  作者: 木天蓼亘介
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第1話・「バナナの皮?」

皆様いかがお過ごしでしょうか?木天蓼亘介です。

なぜか突然、異世界転生ものが書きたくなりました。

なので投稿させていただきます。

今回は『シンクロナイズドダイバーズ』のように暴走して読んで頂いている皆様や運営の方々に迷惑をかけぬよう肝に銘じて書かさせていただきます。

よろしくお願いいたします。


                                     木天蓼亘介




「え!?」

 それは一瞬の、そしてあまりに突然の出来事だった。

 ユウキ・ツカサはどこにでもいるアニメとラノベと乙女ゲーが大好きな腐女子OLだった。

 その日彼女は、大好きな乙女ゲーの推しキャラでBL本を作り即売イベントにサークル参加していた。

 それは推しキャラのコスプレをして売り子をするほどの熱の入れようだった。

 やがて宴も終わり、売れ残った薄い本と戦利品を手に彼女は職場近くに借りたアパートに帰ってきた。

 彼女がわざわざ実家から遠く離れた会社に就職したのも、親に小言を言われずに大好きなアニメやマンガのグッズや薄い本のコレクションに囲まれて暮らすためだった。

 まぁそれ以外にも引きこもっている弟と会えばケンカになるので両親に迷惑をかけないようにしたいという彼女なりの配慮もあったのだが。

 そして、戦利品の詰まったクソ重いダンボールを積んだカートを引いて階段を上がる途中、なぜか落ちていたバナナの皮に足を滑らせ彼女は()()から転げ落ちていた。




「おぉ~、姫君がお目覚めになられたぞ」

「えっ!?」

 その瞬間、ツカサの目に飛び込んできたのは有り得ない光景だった。

 ()()は中世ヨーロッパ風の部屋で、彼女はアニメや映画の中でしか見たことがない豪華すぎるベッドに横たわっていた。

 しかも周りに何人もの人達がひしめくように立ち尽くして、心配そうにこちらを見つめていた。

 いや、ここで1つ訂正。

 自分を見つめていたのはどう見ても人ではなかった。

 皆、キレイな顔立ちをしてはいるのだが、その肌の色は薄い紫色で、髪も銀やら赤から派手派手しい。

 しかも頭からは大小形は違えどツノも生え、歓声と安堵の声が漏れる口元からは八重歯と呼ぶには鋭すぎる、牙のようなものまで見える。

 更には髪の隙間から覗き見える耳も尖っていて、アニメに出てくる吸血鬼とか悪魔にしかみえない。

「なにこれ?何のコスプレ?」

 そんな風貌の、しかも黒ずくめの人達に囲まれながら、それでもツカサはどこか第3者的な視線で見ていられるのは、普段からコスプレしているからだろう。

 こういう集団にはある意味免疫が出来ていたのだ。

「ヘル様、私が分かりますか?」

「えっ!?」

 黒ずくめのメイド長らしき年配の女性が今にも泣きそうな顔でそう訴える。

 が、当然のことながらツカサに分かるはずもない。

(なに、これ?新手のドッキリ?)

 しかしドッキリにしてはリアル過ぎる。

 そもそも誰が何の目的で、しかもかなりのお金がかかるであろう、これだけ大掛かりなドッキリを自分に仕掛けるのか?その心当たりすらない。

 ワケが分からず戸惑うその表情から全てを察したらしくメイド長らしき女性はその場で泣き崩れてしまった。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 そう言って身体を起こし、彼女に伸ばした自分の手を見てツカサは思わず言葉を失った。

 彼女の手は、今、周りにいる人(?)達と同様に紫色で、その指先からは鋭く尖る爪が伸びていたのだ。

「なにこれ?」

 彼女は慌て自分の顔や頭を触った。

 すると、頭には2本のツノが、口の中にも八重歯と呼ぶには鋭すぎる牙のような犬歯が、そして耳の先も尖っていた。

「ヘル様、どうされました?」

 その、あからさまに動揺した様子に、心配そうに覗き込むメイド長に、

「あ、あの、鏡を見せてもらってもいいですか?」

 ツカサはそう言うので精一杯だった。

 そして、手渡された鏡に写っていたのは、13歳ぐらいの、とても可愛らしい悪魔の女の子の顔だった。

「こ、これが私?なにこれ?めっちゃ可愛いんだけど・・・」

 そう言って、鏡に向かい〝い~~~っ″したりウインクしたり、自らの頬っぺをつねったりしているヘルにメイド長は、

「ヘル様、私のことが分かりますか?」

 もう一度そう訊ねていた。

 改めて聞いてくる彼女の瞳は不安に満ちていた。

 その表情から、彼女が自分のことを心から心配しているであろうことが痛いほど伝わってくる。

 が、ツカサにはどうすることもできなかった。

「ご、ごめんなさい」

 “ガチャ”

 その時、いかにも重厚そうなドアが開き、年配の男女が駆け込むように入ってきた。

「ヘルが目覚めたと言うのは本当か?」

 当然のことながら2人の顔に見覚えはない。

 が、その風貌と身だしなみから魔王と妃様であろうことは予想できた。

「ヘル」

 妃らしき女性が駆け寄りツカサを、いや、今はヘルを抱きしめる。

「あ、あの、あなたは誰ですか?」

 お芝居をするワケにもいかず、彼女がそう正直に訊ねた瞬間、2人の顔が一気に曇った。

「ヘル、何を言ってるの?私よ、あなたのお母様よ」

「私だ、そなたの父で魔王のルシフェルだ」

(ま、魔王、マジで?えっ!?えっ!?)

 内心驚きを隠せない彼女を気遣うように魔王が話し始めた。

「ま、まぁ頭を強く打ったそうだから記憶が混乱するのも仕方あるまい」

 すると妃も、

「もう、バナナの皮で足を滑らせるなんて。・・・だから気をつけなさいっていつも言ってるでしょ?」

 そう言っていた。

「えっ!?バナナの皮?」

 ツカサの脳裏に、階段から落ちた瞬間に視界を横切ったバナナの皮が浮かんだ。

「バナナの皮で足を滑らせて頭を強く打ったと聞いたわ。明日嫁ぐ花嫁がなにしてるの?本当にお前はいつまで私たちに心配をかければ・・・」

「頭を強く打って?いや、それより、は?花嫁って?何を言ってるの?」

「え?」

 ヘルの困惑した表情に妃が驚きの声をあげる。

「何って、お前は明日、お嫁にいくのよ」

「・・・え?、えっ?」

 もうワケがわからずツカサはその場にへたり込んでしまった。

「ど、どういうこと?」

「どういうことって、明日お前は人族の王家に嫁ぐのよ、忘れたの?」

 妃にそう言われても全く身に覚えがないのだから理解できるワケがない。

「なんで?」

 ワケがわからず、なおも食い下がる娘に王が説明を始めた。

「なんでって、ファルデリア王国が出した終戦の条件が、『我が娘ヘルを新しい王の嫁に差し出せ』だったからではないか。

 まさかそのようなことを言ってくるとは思ってもみなかったが、・・・ヘル。このような形でしか戦争を終わらせることができなかった父を怨んでくれて構わぬ。

 14人いるお前の姉の誰かが嫁いでくれればよかったのだが、皆『人間なんかと結婚できるか~っ』て家出してしまうし、向こうはヘルでなければダメだと言って聞かないし」

「えっ!?私15人姉妹?」

「あと残るは弟のダンテだけだが、彼は男だからな」

「16人姉弟?」

「お前が渋々でもこの役目を引き受けてくれて皆本当に感謝している。とにかく今は休みなさい。明日はお前の結婚式なのだからな」

「そ、そんなの聞いてない」

「なに?まさか今更嫁に行くのはイヤとか言わないでくれよ?」

「イヤです」

「え?」

「は?」

 彼女が即答した途端、そこらじゅうから驚きの声が漏れた。

「へ、ヘル、今、なんと?」

「イヤです。なんで私が顔も知らない人なんかと・・・」

 確かに王子との結婚は贅沢三昧とかできて美味しいのかもしれない。

 が、ラノベやアニメの影響か王子様にあまり良い印象がないし、何より今の最優先課題は現世に帰ることだ。

 ならば、()()に残って転生の秘術か何かが書かれた魔導書を探したほうが手っ取り早いに決まっている。

「た、確かに相手には会ったこともないし顔も知らぬ。し、しかし、それは暗殺を恐れてのことで、顔を晒さないのは、このご時世では仕方のないことではないか?

 それを今更、いや、何より今結婚を破棄したら再び戦争に・・・」

 “バタンっ”

 その時、ドアが勢いよく開いた。

 そこには、やはり魔族の、しかもかなりイケメンの男が立っていた。

(誰?あのイケメン)

 ツカサが見とれていると、そのイケメンが駆け寄ってきてツカサの手を握った。

(えっ!?えっ!?待って、これどういう状況?はっ、もしかして)

 ツカサのオタク脳が腐女子妄想モードに突入した。

(まさかこのイケメン、私の恋人?もしかして私を政略結婚させないために、連れ去りに来てくれたとか?きゃ~~~っ、それって駆け落ちじゃん)

 ツカサの、いや、今はヘルの頬がみるみる赤く染まっていく。

「あ、あの、あなたは、いや、あなた様は?」

 そう言いながら、彼の手を握り返した。

 すると、

「ヘル、何を言っているのだ?お前は実の弟の顔も忘れたのか?」

 魔王がそう驚きの声をあげていた。

「えっ!?弟?」

「姉さん、本当に何もかも忘れてしまったのですか?私です、あなたの弟のダンテです」

 そう言われ、彼女は慌てて握っていた手を離した。

「父上、母上、本当に申し訳ありません」

 ダンテは姿勢を正すと、2人の方を向き頭を下げた。

「この失態の全ての責任は私にあります。姉さんから目を離して狩りになんか行かなければこんなことには・・・」

 その後悔がこちらにまで伝わってくるほどダンテは反省していた。

「狩り?」

 当然のことながら、何のことかツカサには全く分からない。

「いや、狩りに行くことを許可したのは王である私だ。それを言うなら全ての責任は私にある。

 家族で最後の晩餐を楽しみたかったのだが・・・」

「そうですわね。今夜は色んな意味で最後の晩餐になりますものね」

 王の言葉に妃も相づちを打つ。

「さ、最後の晩餐って?」

 不思議そうにそう訊ねる姉に、弟が優しい眼差しで話し掛ける。

「今夜が家族水入らずで食卓を囲める最後の食事だからね、それにもう食べられなくなるからボクたちが姉さんにごちそうしたいって言ったんじゃないか?」

「もう食べられなくなる?ごちそう?ごちそうって、何を?」

「何をって、人間だよ」

「えっ!?」

「もっとも姉さんは『人間なんて気持ち悪くて食べる気もおきない』って、まだ一度も食べたことがないんだから。

 その話が人族にまで知れ渡ったから向こうも姉さんを花嫁に指名してきたんだよ。

 和平協定が結ばれて明日から人は食べられなくなるんだし、一度ぐらい食べておきなよ。最初は耳がお薦めだよ、コリコリしてて本当に美味しいんだから」

「そうそう、ダンテの言う通りよ。あなたのは絶対食わず嫌いなんだから一度食べてみなさい。『なんでこんなに美味しいものを今まで食べなかったのかしら』ってなるから」

「ちょ、ちょっと待って、人間を狩ってきたって?」

「うん、人間の子供をちゃんと生きたまま捕らえてきたんだよ。大丈夫、傷ひとつ付けずに(さら)ってきたから。出血させると鮮度が落ちるからね」

 そう胸を張るダンテを見て、ツカサは全てを悟った。

「あ、あの、私、やっぱりお嫁に行きます」

「えっ!?」

「そ、その代わり条件があります。それを受け入れてくれるなら、私、嫁ぎます」

 それを聞き、魔王と妃の瞳に安堵の色が広がった。

「も、もちろんだヘル。なんでも受け入れよう。それで条件とはなんだ?」

「その人間の子供を、いいえ、もし他にも人間を捕らえているなら、その人達を全て解放してあげてください」

「えっ!?」

 その場に居合わせた魔族全員が、鳩が豆鉄砲をくらったような顔になっていた。

「私が嫁ぐときにその人達を一緒に連れて行き、家族の元へ送り届けます。それが条件です」

 ツカサはキッパリとそう言い放っていた。





                                         〈つづく〉

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