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Too Heart2

 この夢はギャルゲーの世界。

 主人公が、複数の美少女から一方的に慕われる理想郷(ハーレム)。と、冬眞(とうま)がいった。



裕之(ひろゆき):「あー、かったりい。なんか面白いことねーかな」

(もえ) :「また裕之ちゃんの『かったりい』だ。そんなことばかりいっていると、スリルとサスペンスに満ちた日常をただ平凡に送るだけになるよ」

裕之:「なんだそりゃ? まーた妙な本でも読んで影響されやがったな。萌はキワモノ好きだからなー」

萌 :「キワモノじゃないよー。ある晴れた日、地底人が宇宙から攻めてくる………………」

裕之:「宇宙から攻めてきたら地底人じゃなくて宇宙人だろーが」


 あれから一週間(?)がすぎ、裕之の前には更に9人の美少女があらわれていた。ロボット(!)のメイド、超能力でガラスを粉々にした少女、

女子高生格闘王、貧乏なバイト少女、メガネにおさげ髪の委員長、日本刀をもった少女、サッカー部のマネージャー、美人双子姉妹。

 そして、『萌』は幼なじみの裕之にほのかな恋心を抱いているという設定で、裕之は萌の恋心にきづかないふりをしながら、他の女の子と

仲良くなっていくというストーリーだ。

 つまり、二股どころか十股ぐらいかけられながらも、『萌』は裕之に愛想をつかすことなく十年以上も慕いつづけ、それでいて自分から行動せず、ひたすら裕之から声をかけられるのを待っているのだ。くだらないにもほどがあるが、冬眞がいうには「その健気さが『もえー』なのよ」ということだった。

 それにしても、萌はつくづく疑問におもっていた。どうして、自分がブラッド君の夢にでているのだろう? 接点は全くないし、他の女の子はみんな可愛いい子ばかりなのに…………


 

 さらに二週間がすぎた。

 『萌』は裕之と登校を共にするだけでなく、寄り道しながら帰ったり、一緒に昼ごはんを食べたりといったイベントがふえてきた。姉がいうには、共通ルートから専用ルートに入ったのよ、とのことだった。

 そして、このどうしよもない悪夢の区切りがみえてきた。来週のゴールデンウィークが明けると、修学旅行で北海道にいくのだ。


裕之:「再来週が待ち遠しいぜ。どの辺を見て回る?」

萌 :「札幌にあるクラーク像の下を掘ると、地底人の王国があるらしいよ」

裕之:「一人で掘れ。オレは釧路湿原に行くぜ」

萌 :「遠すぎて一日で帰ってこられないよー、裕之ちゃん」

裕之:「なせばなるって。そうだ、帰りは地底人に札幌まで穴ほってもらおうぜ」

萌 :「それじゃ国連環境開発会議に抵触してるよー」

裕之:「ええい、そんな8字熟語使うやつは、デコピンだっ。ていっ」

萌 :「いたっ。もうー、なにするのー」


 毎度のごとく、頭痛薬をがぶ飲みしたくなるやりとりを終えたあと、萌は逃げるように保健室に転がり込んで白衣の姉に泣きついた。

「もうだめ。わたし、気が変になりそう。だいたい地底人ってなによ、地底人って……」

「よしよし。泣かない泣かない」冬眞が萌の頭をなでる。

「だいたいアメリカ人のくせに、なんだって北海道の地理まで詳しいの! アメリカ人はフジヤマ・ゲイシャ・テンプラだけ知っていればいいのよ! なんで国連機関まで日本語でいえるのよ! わたし言えないよ!」

 そう。

 出てくるキャラが、どいつもこいつも変に日本的なのだ。この世界にはハリウッド的なものが欠片も存在していない。

 感慨深げに、冬眞がメガネをくいっとした。

「OTAKUの執念……日米をつなぐか……」

「つながないって」

 反射的につっこんで、萌は立ちあがった。

「で、お姉ちゃん、この夢から覚める方法はみつかった?」

「そんなのがあったら、とっくに目覚めて迎え酒(むかえざけ)がぶのみしてるわよ。やっぱりエンディングまでいくしかないんじゃない」

「だから、それはダメなの」萌はイヤイヤをした。「だって、このままストーリーが進むと、告白されてキ……キスされちゃうんでしょ?」

 萌が恥ずかしそうに顔をそむけると、姉がふきだした。

「あーはっはは……あんた、高一なのにキスで顔赤くできるなんてマジ天然だわ!」

「そ、そんなことないよ。お姉ちゃんとちがって、地味に生きている子は――――――――」

「わかった!」姉が椅子からたちあがる。「いまピンときた。あんたが幼なじみのヒロインをやってる理由。いい? 萌は料理得意でしょ?」

「だって、お姉ちゃんも夏希も作ろうとしなかったじゃない」

「洗濯も掃除も、セーターだって編める。家事はおまかせって感じ?」

「お姉ちゃんとちがって夏希(なつき)は、いまは(かえで)ちゃんだって手伝って――――」

 お小言モードに突入しようとする萌を、姉は手で制した。

「そして、あんたは化粧も下手だし、服装もおとなしい」

「バカにしてる? してるよね?」

「なにより、そう、なにより素敵なことに」

 冬眞は右腕をゆっくりとあげると、クラーク像のようにびしっと萌を指差した。

「その胸の洗濯板よ!」

 ぐわしっ、ぶぁきっ、べきっ!

 萌の拳が、効果音つきの三連撃を冬眞にたたきこんだ。

「ぐふ……ガ、ガイジンにはないのが受けるのに……」

「もおっ、お姉ちゃんのばかぁ!」

 冬眞のいうとおり、同じ遺伝子が流れているはずなのに、姉妹のなかで次女の萌だけが幼児体型だった。Dな姉はいうに及ばず、

一つ年下の夏希にも大差をあけられている。

(けど……)

 胸はともかく、姉のいうとおり『萌』は家事が好きという設定で、ほつれたボタンを縫ってあげたり、おそうじが好きだったり、2人分のお弁当を用意したりするような家庭的な子だった。

(てことは、わたしってブラッド君のタイプだったりする?)

 そんなことを考えたとき、復活した姉が萌の思ったことをよんだように口をはさんできた。

「どうよ、特上の玉の輿(たまのこし)ねらってみる?」

「ちょっと考えさせて」

 ここまで劇をすすめてきて、萌の心は急激に冷めていた。ブラッド君がホモでも子持ちでもなさそうなのは喜ばしいことだが、

まさか二次元コンプレックスで、こんなありえない女性像をもとめているとは夢にも思わなかった。

「彼のことが好きだったけど、正直、幻滅したかも」

「甘いわね、萌」

 冬眞がまじめな顔て言った。

「じゃあ聞くけど、あんたは彼をどんな人だって思ってたのよ。汗をかいても(さわ)やかで、ヒゲもムダ毛も生えない、ベッドの上でも紳士的にふるまう

美少年を想像していなかった? それとも金髪で名前が一緒だから、某映画スターでも連想した? オーシャンズ14とか?」

「うっ」図星だった。

「詩的な台詞。(はかな)げな佇まい。神秘的な青い瞳。常に余裕をもっていて、だけど自分には(もろ)いところをみせてくれる硝子(ガラス)のような少年………そんなドラマかマンガにしか出てこない男を想像してなかった?」

「そっ、そんなことないもんっ」

「そいじゃ答えて。小説を読んでいて『ある少年』という単語が出てきました。萌が連想するのは? A.アイドル系 B.カジュアル系 C.ビジュアル系」

「A! ……じゃなくてCで」

「ばかね。あんたは普段、同級生の『少年』をみてるでしょ。毎日毎日」

「…………」萌は言い返せなかった。

「いい。男と女なんて、形は違えど、付き合いだした頃はすれちがいに決まっているの。どこで見切りを付けるのかはあんたの責任だけど、いま決めるのは早計。彼の夢は彼だけのものよ」

「……そうかも」

「わたしが見たところ、彼は悪い男じゃないよ。だって、今のところは純愛っていうか、恋愛ごっこでしょ。ハーレムも調教も陵辱もなく」

「おねえちゃん……」

 刺激的な単語に、萌の頬がかあっと染まった。

 そんな妹の姿に、冬眞はどうしたものかとため息をついた。

 冬眞は知っているのだ。純愛ものだろうが感動ものだろうが、ギャルゲーというのは、ほぼ全てが18禁だということを。



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