幕前4
若草家は娘が四人の六人家族だ。
長女の冬眞が帰省してきた日、たまたま父もははも定時に帰ってきたので、夕食の席には家族六人が顔をそろえた。正月以来、4度目の全員集合だ。
今年で五十になる父の隆雄は、普段ろくに連絡もよこしてこない長女が顔をみせにきたことがよほど嬉しかったらしく、酒棚の奥にしまってあった秘蔵のワインをあけた。未成年の娘3人もオレンジジュースをグラスについで乾杯をかわし、和やかな雰囲気のうちに一家団欒がはじまった。
最初の話題は長女の近況報告だ。生活の様子とか、なんとか卒業できそうだとか、いい就職先がみつからないとか、大学のミスコンで1位とったとか、そんな話が冬眞の口から語られる。
語り終わると、冬眞が三人のいもうとにたずねた。
「で、あんたらはどうなのよ。甘ずーっぱい青春おくってる?」
「萌姉がおくってるぞ」
と、三女の夏希が口いっぱいにから揚げをほうばりながら、もぐもぐとしゃべった。
妹の無作法を、次女の萌が反射的にとがめる。
「こら。もう中3なんだから、行儀よく食べなさい」
「いいじゃん、外ではやらないって」
「普段から気をつけないと外でもでちゃうものよ。あんた見た目で得してんだから――――」
お小言をいう萌と、まるで気にした様子もなくご飯をかきこむ夏希。いつもの姉妹のじゃれあいを横目に、母の恵子が黙々と箸を動かす娘に話をふった。
「楓はどうなの? 男の子のお友達はできた?」
「……そういうの、まだ興味ないから……」
と、小5になる四女が母に答えると、「そんなことないよ、楓ちゃん」と、はやくも酒がまわった様子の冬眞が口をはさんだ。「わたしもそうだったんだけど、早い子は高学年で――――イテっ」
危険なトークに発展するまえに、次女と三女はテーブルの下で長女の足をふんづけた。「いきなりなにすんのよ!」と声をあらげた冬眞をよそに、末妹の楓は箸をおいて立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
「あ、楓ちゃん。あとで一緒に洗っとくから、食器は流しにつけといて」
萌がいうと、楓はそのとおりにして、二階の自室にもどっていった。その姿を目でおってから、冬眞がなにげなく言った。
「楓ちゃん、まだネットにはまっての?」
「そうみたい。最近コミュ友ができたんだって」と、萌。
「ネトゲの方が面白そうなのに」と、夏希。
「でもネットは社会勉強になると思うわ。ちょっと怖いけど」と、はは。
「プロフとか出会い系とか、やばいのに手をだしてないだろうね?」と、冬眞。
「多分、だいじょうぶだと思う」と、萌。
「冬眞さん。心配してくれてありがとう。でも、楓は人を傷つけるようなことをする子じゃないもの」と、はは。
「まあ、なにかあったら、そのときはそのとき」
「夏希、あんたは後先なさすぎ。もう少し考えなよ」
「あーもう。萌ねえの小言はいいよ」
そういうと、みせつけるように夏希がごはんを豪快にかっこんだ。それに対して萌が律儀に注意し、やれやれと冬眞が苦笑する。
「進歩ないねえ、あんたらは。なりは小さくても、楓ちゃんのほうが大人びてる」
「あら、そうみえた?」と、嬉しそうなはは。
「あの子は賢いからな。ぐずぐずしていると、お前たちもすぐに追い抜かれるぞ」
父がそういって締めくくった。その後も、一家団欒は和やかな雰囲気のうちに進んでいき、和やかなうちに幕をとじた。