スパロボ戦記 6
萌 :「・・・・・・・・・」
??:「もえ、おきて」
つん、つん。
背中をつつかれる感触。
萌 :「う〜ん・・・・・・・」
??:「もえ、もえったら」
萌 :「うん・・・・・・」
??:「起きないか、若草!」
萌 :「ふぇ・・・・・・」
萌は目をあけた。
周りにはクスクス忍び笑いをもらすクラスメート。後ろの席には眼鏡をかけた子―――――香澄がいて、前にはホワイトボードがあって
ペンと教科書をもった中年教師が目をつりあげて萌をにらみつけている。
先生:「ここはどこで、お前は何をしている」
萌 :「えと、もしかして授業中・・・・・・」
先生:「よくできました。ほら、拍手だ、拍手! 拍手! パチパチパチパチパチ」
木村が教科書でバンバンとボードを叩いたので、教室の空気が一気に湿ってしまった。木村はフンッと鼻をならすと、
もう一度、ばんっ、とボードを叩いた。
先生:「俺の授業は寝るほどつまらんか、若草」
萌 :「いえ、そんなことは・・・・・・」
先生:「なら、こんな簡単な問題は教えられるまでもないということか。結構結構。それでは若草先生の模範解答を
前に出てやってもらいましょうか」
ばんっ。
木村がボードを叩いた。あんまり叩いたせいか、その教科書はひしゃげてボロボロになっている。
神経質な細文字でボードに書かれているのは、sin、cosを用いた証明問題だった。基本問題もおぼつかないのに、こんなものが
解けるわけがない。
萌は前にいかず、その場で言った。
萌 :「・・・・・・・わかりません」
先生:「わからないだと? この学園の生徒ならこれくらい考えればできるはずだ」
萌 :「・・・・・・・・すいません、聞いていませんでした」
先生:「聞いていませんでした? 聞く気がなかったの間違いじゃないのか!」
一回。二回。三回。四回。五回。
狂える中年教師がヒステリックに黒板を殴りつける。
先生:「もういい、若草! 次はどうすればいいか、わかるな?」
萌 :「・・・・・・・わかりません」
先生:「またわかりませんか! お前は渋谷でたむろする間抜けな高校生か!」
ばんっ。
大きな音にびくっと萌が身をすくませる。すると、それまで死んでいたクラストメートたちが生き返ったように
目をかがやかせて萌をみる。ナクノ?
先生:「みんなもよく聞け! お前たち若者の一秒は俺たちの一分に相当する。ましてやお前たちはいわゆるエリートだ。
世界に羽ばたく人材だ。それを若草! 俺がお前を注意することによって、ここにいる二十六人分の貴重な一分が失われたのだ!」
萌 :「・・・・・・すいません」
先生:「謝ればすむと思っているのか、お前は!」
木村が黒板を殴る。萌はうつむいて身をふるわせる。クラスメートたちは気ぜわしげな表情の下で、心からの笑顔をうかべて萌をみる。他人の涙は蜜の味。泣くの? 泣くの?
だったら早く。早く泣け。
先生:「責任をとれといっているんだ! ここにいる二十六人の一分の責任を!」
萌 :「・・・・・・・・」
先生:「なんとかいえよ! 若草!」
萌 :「・・・・・・すいません」
先生:「また『すいません』か。もういい。いまから大事なことをいうから教えるからよく覚えとけ。
授業中寝てはいけないゾ」
冗談っぽく木村が語尾をあげると、生徒たちがクスクスとわらいごえをたてた。クスクス。クスクス。あなたは舞台の上の道化師。
みんなで嗤ってあげるから。ほら、はやく。早く泣け。
先生:「小学生でもわかることだ。いくら若草でもそれくらいは分かるよなぁ。ん?」
萌 :「・・・・・・・・」
先生:「おいおい、泣かないでおくれよぉ。先生のおこづかい少ないんだからさぁ」
木村が哀れっぽく身をよじってみせると、生徒たちの嗤い声がおおきくなった。
萌がうつむいて黙っていると、木村が虫でも追い払うようにヒラヒラと手をふった。
―――――もういいよ、すわりなさい
いたたまれない気持ちで席につこうとすると、木村がこれ以上ないくらいバカにした目で萌をみた。
先生:「若草ぁ。だれが座れといった」
萌 :「・・・・・・えっ」
先生:「はぁ〜。おまえは渋谷か? 責任を取れと言ってるだろうが」
萌 :「・・・・・・・・」
先生:「前に出て残りの時間を過ごすか。家に帰るか。好きなほうを選べ」
前に出て晒し者になるのか。
家に帰って大事にするのか。
どっちにするの。いいから泣け。泣け。早く泣け。泣け。泣け。泣け。泣け。泣け。
先生:「そんなことも決められんのか。この渋谷が! もういい、家には学校から―――――」
萌 :「――――ま、前に・・・・・」
屈辱で目がくらみそうだ。
クラスのやつらがわたしをみている。わらっている。泣きたくないのに目が熱くなる。
目頭をおさえて、前にいこうとしたとき
香澄:「石沢先生!」
後ろの席の子が、キッと言った。
先生:「な、なんだ」
香澄:「若草さんは朝から体調が優れないので、保健室に行ったほうがいいと思います」
先生:「なにを―――」
香澄:「わたしが責任をもってつきそいます。よろしいですね?」
萌 :「ちょ、ちょっと・・・・・・」
香澄:「いこう、若草さん」
そういうと、香澄は萌の手をひいて、あっけにとられる生徒たちの合間をとおり、先生に一礼して教室を出た。
清潔なタイル張りの廊下にでたところで、視界がボヤけた。
「・・・・・・・これは夢の夢?」
「・・・・・・・あんなこと、誰もできないよね」
「あんな先生もドラマにしかいないよ」
「クスっ。そう思う?」
「本物の木村もうざいやつだけど、あんなんじゃないよ」
「あの人、あれで教えるのは上手なの。雰囲気をひきしめるのも、一番上手」
「まさか、あれ、あなたの学校の先生?」
「うん。石沢先生。本屋であの人が書いた参考書も売ってるよ」
「お嬢様もたいへんだ・・・・・・」
「クスクス・・・・・・・ずっと夢見てた。楽しい学校。本当の友達。だからかな」
「なにが?」
「こうして夢がつながったこと」
「香澄さん・・・・・・」
「心配しないで。いつもあんなのじゃないから。みんな大人だもの。限度はわきまえてる」
「・・・・・・・・」
「最初はね、この夢が妬ましかった。わたしもわたしの『夢の世界』をつくりかった。それなのに、サイトをクリックしたら
他人の夢にリンクしてしまって・・・・・・・・」
「だから壊そうとしたの?」
「でも、彼の妄想はわたしの手に負えなかった。わたしは彼の夢を壊せなかった」
「おかげでわたしはひどい目にあったんだけど。車にひかれたり、銃で撃うたれたり、何度も変な役やらされたり」
「あっ、ごめんなさい。その、いろいろと・・・・・・最初はあなたに意識があるって知らなかったの」
「別に怒ってないよ――――ううん、やっぱ怒ってる。でも、もう許してる」
「若草さん・・・・・」
「萌でいいよ。『若草さん』は4人もいるからね」
「萌さん。その、ほんとうに、ごめんなさい」
「うふふ、そんなに謝らないでよ。何度もケンカした仲じゃない」
「クスクス・・・・」
「うふふ・・・・・・」
「わたし、いまは満足してる。自分が何を望んでいるのか、やっと分かったから」
「香澄ちゃん・・・・・」
「いろいろあったけど、きっと次でフィナーレなんじゃないかな」
「フィナーレか。何度目の最後かわかんないけど」
「クスクス・・・・・・目が覚めても、あなたのことは覚えていたいな」
桜の花が咲きみだれ、大きめの制服を着た新入生。
学校へと続く坂道を、期待に胸ふくらませて歩いてく。
萌たちの機体はシャープなデザインの戦闘機に変更されていたが、ガラス張りの個室シャワーといった感じの縦型コックピットルームには
計器の類が殆どなく、萌は体操服にブルマ姿でそこに立っていた。
萌 :「これって・・・・・・中でわたしが動くと、ロボットが動くっていうやつ・・・・・・?」
夏希:「くうっ、あたしのためのシステムだぜ!」
楓 :「信じられません・・・・・・・むかしのひとは、こんなの履いて体育してたんですか」
冬眞:「かわいいよー、楓ちゃん。いつか『勝負』するときは、あたしの貸したげるからねー」
などとだべっている間も、戦闘機は目的地にむけて飛行していた。今までどおり、基本的にはなんとなく動くようだった。
目的地は基地だ。そんなもの、このギャルゲー界の町並みのどこにあるのだろうと思っていると、4機の戦闘機は見覚えのある公園の上空を
通って、やはり見覚えのある二階建ての民家の上空でとまった。
萌 :「あれは・・・・・・・裕之ちゃんのお家だ・・・・・・・」
すると、屋根が割れて左右にスライドし、(周りの民家を盛大に巻き込んで)家の中から秘密の地下基地が競りあがってきた。
秘密基地のドッグに着陸すると、はだしに下駄をはいた、無駄に美形な博士が迎えに来た。
博士:「おお、お前たち。よくぞ戻ってきた!」
4人:「はかせ!」
四姉妹は戦闘機から下りると、ブルマ姿のまま博士に駆け寄った。満面に浮かべた笑顔のうらで、そういえばブラッド君のこと
すっかり忘れていたなー、と萌は思った。そもそも、博士は高度経済成長期にいたはずで、ここは現代 (メイドロボはいたが)のはずだが。
博士:「まったく、連絡の一つも寄越さんかい! わしゃあ死んだもんかと、もうわしゃあもう・・・・・・・・・うううっ」
冬眞:「すいません。無線機が使えなくて」
楓 :「ごめんなさい。博士・・・・・・」
博士:「おおお、楓ちゃん! そんな悲しげな瞳でワシをみつめんでくれ。みんなが無事なら、わしゃあそれで十分じゃ!」
萌 :「・・・・・・・」
博士が楓を抱きしめ、楓が突き飛ばすようにして、博士の腕から逃れる。
それをみて、萌はわかった。全てわかった。わかってしまった。わかりたくなんてなかったのにわかってしまった。
ブラッド君は、ブラッド君は――――――――!
楓 :「萌姉さん、どうかした?」
萌 :「恋って・・・・・・せつないです」
楓 :「はあ。せつないですか」
萌 :「1000ピースのジクソーパズルをやっていて、途中で1ピース失くしたことに気づいて諦めた後、3年後にひょっこりタンスの裏から
でてきたんだけど、まだ半分くらい残ってるし、もともともらい物だし、なんとなく作る気になれないな〜・・・・・・っていう気分です」
楓 :「はぁ。それはせつないですね」
萌 :「せつないです」
次女と四女が語らっていると、向こうは向こうで語っていたらしく、唐突に博士がお約束イベントの開始を告げた。
博士:「よしよし。積もる話はあとじゃ! おまえたち、まずは熱い風呂にでも入って疲れをとれぃ!」
四人:「了解っ」
姉妹4人。
ホカホカお風呂でほっこりサービスタイム。
Dカップをおさえて流し目をきめる冬眞。少年のようにはしゃぐ夏希のダイナマイトボディ。ひめやかな息吹を感じさせる楓のふくらみと、
哀しみで煮詰まった次女のせんたくいた。
それはとにかく、バスタオル姿で湯船につかるのはマナー違反です。
(※ 多すぎる湯気はDVD版で解除されてます)
翌日。
四人はブリーフィングルームで博士から最後の作戦の指示をうける。
博士:「よいか、敵は富士山にあり!」
冬眞:「まさか日本一の山に本拠地があるなんてねぇ」
夏希:「こいつはおったまげたぜぃ」
博士:「よいか! 敵をあなどるなよ。やっこさんも後がない。背水の心意気で向かってこようぞ」
楓 :「心得てます」
萌 :「みんな、これが最後の戦いです」
夏希:「おうよ! 一意専心、やってやるぜっ!」
冬眞:「積もりに積もったお礼・・・・・・・100倍返しにしなきゃね〜」
博士:「うむうむ。しばらくみないうちに、みなすっかり頼もしくなりおって」
楓 :「最終回っぽいやりとりですね。でも、続編キボンヌ、なんて誰も言わないですよ」
博士:「楓ちゃんはいけずじゃのう〜。じゃが、そこがまたカワユイのお〜」
萌 :「このロリコンが! 死ね!」
冬眞:「萌、ヤキモチかい?」
萌 :「んなわけあるかあ!」
夏希:「ああ、だからこの夢のヒロインが・・・・・・」
萌 :「いうなぁ!」
愛と勇気と哀しみと。
萌の神経がささくれだったため、リテイクめいたやりとりが入り、
再びシメのセリフになった。
冬眞:「あたし、この戦いが終わったら結婚するんだ・・・・・・・」
楓 :「冬眞姉さん。それ、死亡フラグ」
夏希:「わたし、故郷に帰ったら、学校に通おうと思うんだ・・・・・・」
萌 :「夏希、それ冗談よね。あんたまさか、授業フケてんじゃないでしょうね」
夏希が、しまったという顔をした。
萌のお小言スイッチが入ってしまったので、再度リテイクめいたやりとりが入った。
楓 :「香澄さんのロボット、ちょっとずつ手強くなってきてますね」
夏希:「そうだな。やりがいがあるぜ」
萌 :「香澄が何度おそってきても、わたしたちは勝ちます!」
冬眞:「いいしょうぶだよ・・・・・・・・・・・・オッパイは」
萌 :「香澄が! 何度! 襲ってきても! わたしたちは! 勝利します!!」(ううっ、話を進めるのよ、萌!)
博士:「うむ! その意気じゃ!」
はだしにゲタをはいたブラッド君が、無駄にステキな仕草でよれよれの白衣をひるがえす。
博士:「ワカクサチーム、出撃じゃあぁっ!」
四人:『了解!』
鳴り響く出撃BGM。駆ける4人、飛び込むシューターポッド。長い滑り台、全自動ブルマー装着アーム。終点にてシート固定。
コックピット移動メカアーム。開くドッグハッチ、点灯する360度全天周モニター。
四人:『発進っ』
唸るエンジン。四機のマシンは長い長い発進カタパルトをぐるぐる打ち出され、秘密の海底ゲートからきりもみしながら大空へと
飛び立った。これにて発進完了。どつかれさん。
日本一の富士山。
その広大な山麓一帯すべてが北条財閥の敷地である。
四機のマシンが青木ヶ原樹海の上空にさしかかると、毎度同じみの高笑いがどこからともなく響きわたってきた。
香澄:「オーホッホッホッホッホ! わたくしの屋敷にようこそですわっ!」
夏希:「そのバカ笑いも今回で聞き納めだぜ」
楓 :「いつもお疲れ様です」
冬眞:「いやー、あれは新たな性癖に目覚めたっぽいけどね〜」
香澄:「オーホッホッホッホッホ! さあ、お前たち! お客様をもてなして差し上げなさい!」
樹海の中央にある和風邸宅から超次元エネルギーが発射され、いままで倒してきた敵メカが次々と出現する。ゴズラF−5、
サタンF−13、四体の巨大怪人、巨大円盤、ワイバーン、城塞戦艦ヴェーン・ガラン、空飛ぶ廃校、ソウルメカ、東嶽大帝と12使徒―――――――
夏希:「くそっ、何て数だ!?」
楓 :「・・・・・烏合の衆」
冬眞:「よりどりみどり」
萌 :「みんな、準備はいいですか!」
三人:『おうっ』
萌 :「いきます! ファイナルコマンド・インストール!!」
♪ Break 未来がゼロか無限かは
Start 生きてる今にかかってる
嘆きと 悪夢の 連鎖 断ち切れ
青い奇跡 この舞台 大事なもの 守りたい
なによりも信じている 姉妹の絆と その強さを
4つの心ぶつけて 生まれた力で つきぬけよう 現実へ
萌 :「闘将鳳牙、参上です!」
合体したロボが、空中でポーズを決める。
とりたてて特徴はないが、シャープさと重厚さを兼ね備えたデザインのロボだった。
香澄:「ざ、ざんしんですわね・・・・・・」
壁面モニターに映し出された香澄が、最後まで律儀におどろいてみせた。香澄は黄金の甲冑をつけて侍のコスプレをしていたが、セクハラまがいのブルマ姿をさせられている萌たちに比べたら、はるかにまともである。
闘将鳳牙は自分が動くとロボも動くという作りである。萌たちはそれぞれのコックピット内でファイティングポーズをとったが、
様になっているのは冬眞と夏希だけだった。
萌 :「ごめん。わたし回復系」
楓 :「わたしもケンカは・・・・・・」
冬眞:「仕方ないねえ。ここは任せときな」
夏希:「よっしゃ! いくぜ、冬ねえ!」
格闘戦特化型マシン・闘将鳳牙は空中を滑って敵陣の群れにおどりかかった。鳳牙はメインパイロットである夏希の動きをトレースし、
他の三人の動作がそれをサポートするという仕組みになっている―――――らしい。
夏希:「オラオラオラオラオラオラ」
コックピット内で夏希がジャブを放つと、鳳牙も同じ動作を数兆倍の威力で再現し、デンドニウムの拳が巨大機械獣を粉砕した。
夏希:「つづけて! 旋風回転拳!」
細やかな動作はいらない。夏希の闘争本能にしたがって、鳳牙は次なる敵にスピードの乗った裏拳を叩き込んだ。
冬眞:「なめんじゃないよ!」
後ろにまわったファックレイジーに、冬眞の脚が美しい放物線をえがくと、それは鋼鉄の回し蹴りとなって
機械怪人を破壊した。
楓 :「冬眞姉さん、体育会系だったの?」
萌 :「うーん。昔から謎の多い人だから」
楓 :「そういうものですか」
萌 :「そういうものです」
その後も、夏希と冬眞のコンビネーションで、闘将鳳牙はなつかしの敵メカを次々と樹海のもくずにしていった。
たちまちのうちに、残りは各ステージのボス敵4体になった。
冬眞:「そいじゃ、必殺技といこうかねぇ」
夏希:「かけ声は頼んだぜ、萌ねえ!」
萌 :「はい。がんばろうね、楓ちゃん」
楓 :「萌ねえさんこそ」
シンクロナイズドスイミング。ラインダンス。そこまでいかなくても、必殺技を放つには、運動会のダンスくらいには
動作を合わせなければいけないらしい。
動作は頭の中に入っているが、タイミングは台本に入っていないのだ。
壁面モニターに写った姉妹が、準備できたと、目で合図しあう。
萌 :「3、2、1、はい!」
冬眞:「ダブル・ブリザード」 楓:「クロック・マネージャー」
長女が左腕をふりあげ、末女が右腕をふりあげ、同時にクロスさせると、ロボットの胸からブリザードの竜巻
がほどばしり、4体の巨大メカの動きを止めた。
萌 :「ユニコーンドライブ・インストォォル!」 夏希 :「レオドライブ・インストォォォル!」
誤差0.3秒以内のタイミングで、次女と三女が技名を叫んでボタンを押し、ついで萌は左腕を、夏希は右足を振り上げる。
二人:『ユニコーンレオ・ファイナル・アタァァァック!」
萌の左腕と夏希の右足が同時に振り下ろされると、鳳牙が技名どおりの最終奥義をくりだし、巨大戦艦どもをまとめて、
なんかすごいエルネギー光線で破壊した。
「やったあ!」
火の粉をあげて燃え上がる青木ヶ原樹海。
森林大火災の上空で姉妹が喜びにわきかえっていると、上空のヘリコプターから、「ワルキューレの騎行」が大音量で流れてきた。
ここはベトナムじゃないだろ、とモエは心でつっこんだ。
香澄:「オーホッホッホッ! うるわしき姉妹愛! わたくし感動致しましたわ!」
通信画面で侍コスの香澄が手の甲を口元にあてて高笑いをした。
それと同時に、霞にけむる通学路で萌を轢いた黒いリムジンが屋敷からとびだしてきた。
夏希 :「出やがったな、ぺったん娘!」
萌&香澄:『ぺっ、ペったん娘ですって〜!』
期せずして、萌と香澄の声が完璧にシンクロした。気まずいような照れくさいような沈黙をはさみ、こほん、と
甲冑姿の香澄が仕切りなおす。
香澄:「もう許しませんったら許しませんことよ!」
香澄の叫びに呼応して、日本の象徴・富士山が噴火した。(もちろん、登山客は全滅だ)
火山煙が吹き上がり、マグマが流れ、大地が鳴動する。
樹海からまいあがる土煙のなか、香澄の乗るリムジンが崖からダイブする。
香澄:「フォォォーム・アーーーーップ!」
香澄が叫ぶと、富士山から火山弾が打ち出された。打ち出された火山弾は次々と空中でリムジンとぶつかって融合していき、
遂には翼を生やした巨大ロボットが誕生する。
香澄:「黄金の翼に絶望のせて、灯せ邪悪の赤信号!
機械魔王ダークリムジン 定刻遅れで只今到着っ!」
セリフに合わせて、侍っぽいロボがポーズを決める。
萌 :「ざ、斬新です・・・・・・」
萌が義理でおどろいてあげると、壁面モニター越しに香澄がやけくそっぽくふんぞりかえった。
最初から合体してくりゃいいじゃん、というのはお互いに言いっこなしである。
香澄:「いきますわよ! 動輪剣! 一文字斬り!」
機械魔王がブーストをふかし、刀できりつけてきた。
どうにか回避したが、金の翼に絶望のせているだけあって、機械魔王のスピードとパワーはこちらと同等か、それ以上であるらしかった。
冬眞:「おやおや。なかなか素早いじゃないか、お嬢ちゃん」
香澄:「オーホッホッ、これで素早いですって!?」
夏希:「ま、まさか・・・・・・・」
香澄:「機械魔王の真の力、たっぷりとみせてあげますわ! ビルド・アァァァップ!」
コンクッピット内の香澄が日本刀を床に突き刺すと(こわれないのか?)、富士山から再び火山弾が打ち出されて、機械魔王の本体と融合した。
すると、機械魔王はさらに大きく、見た目もいかつくなった。
第二段階の機械魔王が左腕をかかげると、巨大なドリルが装着された。
香澄:「ドリル・クラッシャァァァ!」
楓 :「回避、間に合いません」
萌 :「きゃあああああっ」
高速ブーストを回避できず、モエたちのロボットはまともに攻撃をもらい、燃え上がる樹海にたたきつけられた。
結構な衝撃に、ブルマ姿の萌がコックピットで膝をつかされた。
萌 :「くっ、このままでは・・・・・・」
夏希:「こんのぉぉ、上等だぜ!」
香澄:「オーホッホッホ。いいざまね。けど! 魔王の妄想はまだまだこの程度じゃ晴れませんわよ!」
機械魔王が富士山を指し示すと、三度、富士山が噴火した。
コックピット内で香澄が剣舞を(ぎこちなく)舞って、高らかに刀をかかげて叫ぶ。
香澄:「ファイナルフュージョン・承認!」
パリン
刀でコックピット内のスイッチを叩き割ると、火山弾が再び機械魔王に融合し、今度はロボット本体よりも大きな
光り輝く黄金のハンマーとなって右腕に装着された。
冬眞:「うわっ、なんかやばそうな雰囲気だよ」
楓 :「さっきから台詞、逆転してますね」
夏希:「光になるのはいやぁぁぁぁ」
萌 :「みんな落ち着いて! こちらも必殺技で返します!」
闘将鳳牙は最後の力をふりしぼって、空に舞い上がる。
噴煙あがる富士山を背景に、二機のロボがにらみあう。
これが最後だ。
一回勝負だと、心の脚本が告げる。
萌、夏希、冬眞、楓は壁面モニターごしに互いに目配せをする。
萌 :「いきます!」
香澄:「勝負よ!」
萌 :「3、2、1、はい!」
冬眞:「ブルドライブ・インストール」 夏希:「ボアドライブ・インストール!」
楓 :「バイパードライブ・インストール」 萌 :「ドラゴンドライブ・インストール!」
それぞれのコックピットで、四人は息を合わせてボタンを押す。誤差範囲内のタイミングに、
鳳牙の両腕両脚に4つの最終武器が装着される。
それに合わせるように、左腕にドリル、右腕に巨大ハンマーを装着した機械魔王も必殺技のモーションにうつる。
香澄:「ヘル・アンド・ヘヴン!」
楓 :「フリーザー光線」 夏希:「ファイヤァストォォォォム!」
牽制用のビーム技がぶつかりあい、衝撃で発生した竜巻が樹海をなぎはらう。ふきあれる樹木の嵐のなか、
最後の技が激突する。
香澄:「ゴルディオンハンマァァー!」
4人:「「「「ドリームバスター・ファイナルアタック!」」」」
地球の地表で爆発がおこる。
大気圏上空から飛来した、膨大な質量を伴った人工物が落下したのだ。
否、落とされたのだ。
時は宇宙暦0078。
地上にメイドロボが生まれたころ、宇宙に人類が進出してはや幾世紀が過ぎていた・・・・・・・・