LUNA 6
白竜 :「よくぞ帰ってきたな、アレスよ。モエよ」
アレス:「白竜様っ、ボクの故郷が、みんなが・・・・・!」
白竜 :「みなまでいうな。わかっておる」
グオオオオオオオオオオンッ
白竜が光の玉を召還すると、アレスの掌で[白竜の腕輪]となった。これで、盗まれた[青竜の盾]以外の装備が全てそろった。
白竜が巨大な体躯ごとモエに向き直った。
白竜:「モエよ。汝の宿命を受け入れる決意は固まったか?」
モエ:「はい。なにがあっても、わたしはみんなと一緒です」
白竜:「よろしい。では最後の封印をとこう」
白竜が光のブレスを吐くと、モエの内に秘められた女神の封印が開放され―――――――その瞬間、だった。
パソコンがオーバーヒートしたような効果音と共に、時限爆弾が効果を発揮した。
「!」
農民の娘からもらった武器が、とつぜん手から離れなくなり、いやな付属効果をもつようになった。さっきの武器は呪われたアイテムだったのだ。
混乱するモエたちの前に、魔法女皇カスミが、砂色の長衣をずっぽり被った長身の人物と、漆黒の長衣をかぶった小柄な人物を左右にしたがえて、瞬間移動してきた。
カスミ:「うふふふ、みなさま。ご機嫌うるわしゅう」
カスミは魔法女皇という役にふさわしく、竜を模した冑をつけ、ごてごてした漆黒の大鎧を身にまとい、やたら大きな剣を背負っていた。
冑からのぞく金髪は流れるように美しく、少女マンガに出てきそうな女騎士ぶりだった。
アレス:「魔法女皇っ、なぜここに!?」
不意をつかれながらも、三人は即座に戦闘態勢をとった。
だが、呪われた装備が身動きを制限して、身体が思ったように動かない。
カスミ:「わたくしからの贈り物。みなさん、お気に召していただけたようでなによりですわ。うふふふふ」
ナツキ:「くっ、さっきの農民はおまえの変装だったのか!」
カスミ:「ええ。この世界をかきかえるには、あの程度で十分だと思いましたの」
アレス:「くそっ、ここまでか」
カスミ:「うふふふ、ここまでですわ」
ラスボス登場。台本にない戦闘。
白竜がただの背景になって、最終決戦になだれこむ。
カスミ:「出番ですわよ、お二人さん」
カスミが芝居がかった仕草でマントをひるがえすと、控えていた二つの人影が長衣をぬいで正体をあらわした。
長身のほうは盗賊の町リッツァでアレスの財布をすった人物―――冬眞だった。モエの推測通り、冬眞は、ぴっちりした網タイツ、
やたら色っぽい鎖かたびら、手には長いムチと、そのまま伊賀くのいち村のポスターになれそうな格好をしていた。
そして、背の低いほうは、楓だった。よくみる機械少女―――――人工的な白い肌に、感情のない瞳をしている。楓はSFっぽい白装束を身につけ、両手に黄金の輪っかのような武器を装備していた。
ナツキ:「冬ねえっ、楓!」
カスミ:「うふふふ。彼の台本では、とうの昔にあなた方の仲間になっていたはずなのですが」
モエ :「もしかして・・・・・・」
冬眞の一連の不可解な行動。
塔の地下の古代兵器工場の研究所に、あるはずのオリジナルが存在しなかったこと。
仲間になるはずのキャラが仲間にならなかったから、やたらNPCが目立っていたり戦闘が厳しかったのかと、萌は納得した。
カスミ:「心配なさらないで。『女神』となったモエさんのお話は、もう少し続きますわ。崩壊した世界、欲望が支配する世界。
希望もなく、絶望だけが渦巻く機械世界で、あなたは嘆きの女神として君臨するのですわ。わたしはこんないい加減な世界
ではなくて、悲劇をみて泣きたいの。悲しみたいの。哀れみたいの。だから、『全米が泣いた感動のストーリー』のヒロインに、
モエさん、あなたがなるの」
モエ :「ぜったいいやっ!」
カスミ:「それとも不治の病にかかったヒロインの方がお好みかしら? 世界の中心で愛をさけばれてみる?」
モエ :「あんたが自分でやりなさいっ!」
そんな会話で、最終決戦の幕がひらいた。
直前にセーブは何度もしたけれど、これに負けるとカスミの望む通りになるであろうことは、確信としてモエの内にあった。
まあいい。
どのみち、もう失敗はできないのだから。
ナツキ:「いくぜ、姉ちゃん!」
モエ :「ええ!」
ナツキは先頭にたって防御の構えをとり、モエは味方の守備力をあげる歌を歌った。なにもしらないはずのアレスも
盾をかかげてモエをかばうポジションについた。
とにかく、耐えるのだ。
カスミ:「うふふふふ、そちらが攻めてこないなら、わたくしも少々遊ばせてもらいますわ」
カスミは自分の身長ほどもある大剣を無造作にふりおろした。
剣圧で生じた黒い烈風波がモエたちを襲い、わりとシャレにならないダメージを与えてきた。
トウマ:「・・・・・・・」
カエデ:「・・・・・・・」
カスミの攻撃につづいて、トウマとカエデが攻撃をしかけてきた。トウマは無言でアレスをムチで乱打し、カエデは両手の戦輪に光の刃をのせて、ブーメランのように投げつけてきた。
アレス:「くそっ」
カスミ:「お楽しみはこれからですわ。うふふふふ」
耐えるのだ。
三人が防御態勢をつづけていると、ネコがネズミをいたぶるように、カスミがじわじわと攻撃の威力をあげてきた。大地を割ってマグマを噴出させたり、大竜巻を巻き起こしたり、大津波を呼び寄せたり、宇宙の彼方から隕石をおとしたり・・・・・どう考えても、自分も巻き込むっていうか、生き埋めになるのは確実な攻撃魔法だった。機械少女の戦輪は派手な演出はなかったが、ホーミング機能がついているかのように、モエたちのHPを上下左右から絶え間なく、確実に削り続けた。
ナツキ:「きゃあああっ」
カスミ:「あらあら。簡単に全滅しないでくださいましね」
理不尽な攻撃に、三人は何度も瀕死になった。ダメージを受けると、痛みはなくとも、姿はボロボロになって、表情は苦しげに歪んだ。
身体はふきとぶし、血はふき出るし、壁にたたきつけられると息がつまった。悲鳴もあがる。
カスミ:「うふふふ。いいざまですわ。ゲームオーバーはいつかしら」
モエ :「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・」
ナツキ:「ま、まだまだぁ!」
耐えるのだ。
麻痺した身体で、倒れても倒れても姉妹は起き上がる。魔法女皇は使えるスキルは全て使い切るとでもいうように、即死魔法やら魔法剣技を
おりまぜてきた。それでも姉妹が耐え続けていると、変化がおとずれた。
カエデ:「・・・・・・・・・」
無慈悲に戦輪を投げつけてくるカエデの攻撃がぱたりと止んだ。
きっと止めてくれると、モエたちは信じていた。なお、トウマは最初からムチを派手にしならせているだけだった。冬眞が相手にケガをさせないようにいためつけるムチさばきをどこで会得したのかは考えたくもない。
トウマ:「いまだ、これをつかいなっ!」
冬眞は脱ぎ捨てた長衣に隠していた[青竜の盾]をアレスに放り投げた。すると、四竜の装備を手に入れたアレスが設定通りに[ドラゴンマスター]となり、その証たる『竜の剣』が強制装備された。
アレス:「よしっ! 力がみなぎってくる! これがドラゴンの力か!」
呪いの装備が外れ、最強装備(カジノの景品をのぞく)に身を固めたアレスが雄たけびをあげる。イベント効果で
HPもMPも全回復したのだ。
アレス:「いくぞっ、魔法女皇! 勝負はこれからだぁぁぁ」
カスミ:「うふふふふ。いまさら目覚めても手遅れですわ」
トウマ:「なーに、あたしの出番もこれからさ」
反撃開始。
ドラゴンマスターとなったアレスと、寝返ったトウマがカスミに攻撃をしかける。
カスミは余裕をもって魔法のバリアで攻撃をさばきつつ、予備動作の短い魔法で反撃する。これが本来のボス戦で、このままいけばこの場は凌げるのかもしれなかったが、モエたちの目的は最初からゲームをクリアすることなどではなかった。こんなバカげた夢だからできることもある――――――
カスミの気がそれている間に、モエは自分の意思で女神の力を開放する。
モエ:「マジカル・リリカル、女神さまになーれ☆」
破れる衣装。ひるがえるは巫女ドレス。
くるるん笑顔で、モエの姿が魔法少女に変身する。
もえ :「夢をけがすもの。姉妹の語らいをじゃまするもの。魔法女皇がゆるしても、わたしは許さない!
ソウルキャプターもえ、およびでなくても参上ですっ!」
カスミ:「その姿・・・・・・どうして・・・・・」
もえ :「これが女神の『しんのちから』なの・・・・・・・なーんちゃって♪」
カスミ:「ア、アメリカ人めぇぇ〜」
女皇は律儀につっこみをいれた。アレスは気にせず剣でなぐりつづける。
そして、萌が魔法少女に変身したのは、この魔法を唱えるためだった。
もえは左手にあらわれた封印の書をかかげ、マジカルバトンをくるるんっと回してじゅもんを唱える。
もえ :「ゆがんだソウル! 汝のあるべき姿に還れ!
臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・ぜーんっ!」
カスミ:「キャアアアアアア」
アレス:「Nooooooo!」
冥いひかりが輝くと、ラスボスと勇者がそろって、封印の書に吸い込まれて消滅した。
あとには、小4の姿にもどったもえと、女忍者と、格闘家と、機械少女だけが残った。
カエデ:「ドウシテワタシダケ残ッタ」
ナツキ:「もちろん」
トウマ:「それが目的だから」
もえ :「ここは夢の中だもの」
そのとき。
電源が落ちたように、世界が暗闇におちた。