LUNA 5
青竜の洞窟は、湖水をひきこんだ一大テーマパークだった。丸太に乗っての急流下り。水の流れ落ちる鍾乳石の階段。迫力満点のウォータースライダー。巨大イカ(なぜ湖にいる?)との水中大決戦。リバーサイドキャンプ。
このとき、モエはワンピっぽい鎧を、ナツキはビキニっぽい鎧を着ていた。あらわになったボディラインで一つ下の妹に並ばれると、いつものことながら、モエはちょっと泣きたくなってくる。
ナツキの身体は部活をやっているだけあって、無駄なく引き締まっている。そのくせ、出るべきところは惜しみなく育っている。とても中学生にはみえないナイスバディ。少しは遠慮をしろといいたい。妹のくせに。なんの努力もしてないくせに。
そんな萌のプロポーションは文科系だけあって(主に遺伝子に裏切られたせいで)、とても高一のものとは思えなかった。背の順では一番前が指定席の140cm台、谷間のないバスト、くびれのないウェスト、ふくれていないヒップ、色気のない太もも・・・・・・子供料金でプール入り放題な童顔もあいまって、その水着姿はせいぜい第二次性徴期。
モエ :「・・・・・・・夢の中でくらい、ふくらんだって・・・・・・」
ナツキ:「なにが?」
モエ :「わたしの夢よ!」
それはとにかく。
アクション&アドヘンチャーを経て、三人は青竜の間についた。
青竜:「よくぞ、わたしの試練に打ち勝ちました。アレスよ。さあ、ドラゴンマスターの証を授けましょう」
グオオオオオオオオオオンッ
青竜が光の玉をよびよせると、光の玉はアレスの掌で実体化する。
アレスは[青竜の盾]を手に入れた。
青竜:「モエよ。いえ、女神アルテナ様よ。これを御身の意思と受け取り、2つ目の封印を解かせていただきます」
青竜が水のブレスをモエに吹きかける。
モエの内に秘められした女神の力が、また一つ開放された。
青竜:「次は黒竜ですね。ご健闘をお祈りしていますよ」
そんな言葉に送り出されて、モエの瞬間脱出魔法で洞窟を出たときだ。
瞬間移動魔法をとなえるひまもなく、出口でまちかまえていた砂色の長衣を被った人影が、手にしたムチでアレスを不意打ちしてきた。
アレス:「しまった! 青竜の盾が!?」
???:「アッハハハハ、こいつは頂いたよ!」
100mはある長いムチで、もらったばかりの青竜の盾を釣り上げると、謎の人影は名乗りもせずに山のむこうに飛び去っていった。まちがいなく、盗賊の町でスリをしてきた女性と同一人物だった。
アレス:「くそっ、追いかけるぞ!」
モエ :「だめ。もう姿がみえないわ」
その後、いったん町に引き返し、あちこちで聞き込みを行ったものの、謎の人影の行方はようとして知れなかった。その代わり、人探しのエキスパートが次の目的地である黒竜のエリアにいるとの情報をえたので、三人は奪われた盾のことは後回しにして、とりあえず次のエリアに向かうことにした。
舞台袖。
「冬ねえ、まだ仲間になんないのかなー」
「お姉ちゃんにはお姉ちゃんの役割があるのよ。夏希が主人公だったみたいにね」
「ふうん」
「それよりさ、あのコートの中身、なんだと思う? わたしはくのいちだと思うんだけど」
「えーっ、女盗賊じゃない?なんかSMの女王様みたいな格好したやつ」
「女王様はカスミだよ、たぶん。お嬢様役ばかりだし」
「オーホッホッホッ、下等な人間めってか。いいなー、わたしもやってみたい」
「やれば。あんた、一応『姫』なんでしょ」
「よし。やってみよ」
そういうわけで、ザコ戦に勝利した後。
ナツキが右手を腰に、左手を口元にあてがって、豊満なバストをそらした。
ナツキ:「オーホッホッホッホッ、醜い虫けらどもめ、跪いて足をお舐め!」
アレス:「大変だ、ナツキが混乱してる。モエ、回復をたのむ」
モエ :「・・・・・・・・だめじゃん」
黒竜のエリアは、廃鉱山に掘られた大トンネルをくぐりぬけた先の地底世界であった。
地底世界では、それまでとは毛色の違う古代生物っぽいモンスターや、古代文明っぽいメカモンスターが出てきたが、どの敵もやたらHPが多く、戦闘が一気に厳しくなった。町の住民も、ドワーフやエルフ、ウサ耳に、なんか宇宙人っぽい生物と、なんか変わった種族が増えてきて、略奪家業にもますますせいが出た。
地底世界は広大で、多くのNPCが仲間になった。ハンマーで攻撃する技師のおじいさん。双子の魔法使い。物忘れの激しい賢者。弱々しい吟遊詩人。弁髪をたらしたモンク。聖戦士と聖女のラブラブカップル、嫉妬深い竜騎士・・・・・・・
竜騎士:「こ、これでいいんだ・・・・・グフッ・・・・・」
聖女 :「だめっ、死なないで竜騎士!」
聖戦士:「おれたちはいつまでも親友だ」
死。別れ。愛。裏切り。爆発。涙。自己犠牲。復活。
盛り上がるNPCのドラマをこなしてイベントアイテムをゲットしつつ、別れ際には装備を全てひっぺがす。普段は口もきかない彼らのおかげで、戦闘的にも資金的にも道中がずいぶんと楽になった。感謝、感謝ですっ♪ ちなみに、人探しのエキスパートとやらは、大した情報をくれなかった。
黒竜のすみかは古代文明の塔であり、その内部はSFにでてくる未来都市のような感じになっていた。
塔の地下には古代戦闘ロボの生産工場があったが、併設された研究所は何者かの手によりすでに爆破されていた。残された資料によると、研究所には量産型戦闘ロボのオリジナルがいたようだが、破壊されたのか、それとも出て行ったのか、跡形もなかった。その代わり、塔の上にいくために必要なカードキーが残されていた。
塔は一つ登ることにボスが待ち構えていて、そのどれもがシビアな戦闘だった。何度となく全滅しそうになりながらも、3人は力を合わせてどうにかこうにかクリアしていき、やっとのことで黒竜と対面できた。
黒竜:「おお、待っていたぞ。次なるドラゴンマスターよ」
動物園のゾウさんよりも大きいドラゴンは、やや急いだ仕草で光の玉を召還し、[黒竜の鎧]をアレスに授けた。
続いて、黒い息を吹きかけて、モエの内に眠る女神の封印をといた。
黒竜 :「アレスよ、急いで地上に戻るのだ。いま地上は大変なことになっておる」
アレス:「どういうことですか、黒竜様」
黒竜 :「ヴェーンの宰相カスミが、魔法女皇を名乗って悪意を剥き出しにしたのだ」
ナツキ:「な、なんてこと!」
モエ :「それじゃ、わたしたちが今までしてきたことは・・・・・・・」(ただの略奪旅行よね)
アレス:「よし、白竜様のところに急いで戻ろう!」
リレミト&ルーラ。
三人は一瞬で、アレスとモエの故郷に戻った。
アレス:「な、なんてことだ・・・・・・・」
収穫祭に浮かれていたブルグ村は、みるも無残な焼け野原と化していた。
焼け落ちて毒で汚された村の様子に心を痛めつつ、それはそれとして隠しアイテムはしっかり漁っていると、
焼け残った納屋の地下に隠れていた農民の娘を発見した。
農民A:「ああ、アレス、モエ。無事に帰ってきたんだね!」
アレス:「ああ、おねえさん! これはどうしたことなんだ! ここでなにがあにがあったっていうんだ!」
農民A:「空中都市ヴェーンの魔法女皇が、魔物の大軍を率いて、村をめちゃくちゃにしたの・・・・・・この村だけじゃなくて
世界中の国という国に侵攻を開始したようなの」
モエ :「なんてこと・・・・・・!」(展開はやっ)
農民A:「この村の人たちは、みなヴェーンに連れて行かれたわ。魔法女皇は、人間を辺境に追いやって
人も住まない荒野を開拓させるつもりなのよ」
ナツキ:「ひどいことしやがる」
アレス:「そんなこと、ボクたちがさせるもんか! さあ、行こう。白竜様に最後の装備を授かって、
ボクは世界を救うドラゴンマスターになるんだ!」
モエ :「ええ・・・・・・・けど、わたしは怖い・・・・・」
アレス:「モエ?」
モエ :「最後の封印が解けて、わたしは女神アルテナに戻る。そうなったら、今のわたしはどうなるの・・・・・・?」
アレス:「モエ・・・」
モエ :「いまのわたしは? ここにあるわたしの気持ちはどうなるの?」
アレス:「大丈夫! なにがあっても、モエはボクが守ってみせるさ!」
モエ :「アレス・・・・・・」(こんなやりとり、前もあったなぁ・・・・・)
ナツキ:「なるようなるって。気楽に行こうぜ!」
アレス:「そうだな、ナツキ。よし、出発だ!」
農民A:「待って。これを持っていって」
そういうと、農民の娘は『業物の剣』をアレスに、『業物のナックル』をナツキに、光の攻撃魔法が使えるようになる『光の杖』をモエに手渡した。
農民A:「わたしの家に代々伝わる家宝よ。きっと役にたつにと思うわ」
ナツキ:「おおっ、こいつはすげえぜ!」
アレス:「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
ご都合主義万歳。これでやっと攻撃に参加できると、モエは喜び勇んで光の杖を装備した。このとき、モエは香澄が夢を書き換えることができるということを、すっかり失念していたのだ。