LUNA 3
やたら強いライバルキャラが、味方になった途端に弱くなる―――――ことはなく、ナツキは夏希のままだった。
ナツキ:「いくぜっ、狼牙風々拳!」
目にもとまらぬ早業で、ナツキは三匹のあばれざるを瞬殺した。アレスが魔法剣士だとすると、ナツキは物理専門の格闘家だった。
キャンプの合間の舞台袖。
「夏希。さっきは惜しかったね」
「ううん、あの人をあなどったわたしのミス。ちきしょー、もう一度やりなおしてー」
それから、姉妹は情報を交換しあった。それによると、夏希もまた主人公として、お供の二人(ブラニ、クリフ)とともに、さっきのコロッセウムまで冒険してきたのだそうだ。
「それで、なにか手がかりはあった?」
「だめ。わからなかった。でも、ラスボスっぽい名前は耳にした。空中都市ヴェーンっていう町の偉いやつ」
「名前でわかったってことは・・・・・・」
「そう。カスミさ」
さっきの世界で米俵に銃を隠し、萌を後ろから狙撃した真犯人。カオル君がいうところの『夢を書き換えたもの』。
「北条 香澄、か・・・・・・・本名なのかな」
「そういえば姉ちゃん、わたしのダイイングメッセージ、ちゃんと受け取ったよね?」
「え、も、もちろんよ! うん!」
萌はうそをついた。『カ』オル君が犯人だと思ったのだ。その後、田原もみじが「かえで」の偽名だとは気づいたのだが、無実の妹をうたぐってしまったことは、
本気で後悔していた。
「そのためにも、わたし、がんばるっ」
「おお、姉ちゃんがやる気だ」
「前向きに行かないと。きっと、かえられないから」
冒険の旅はつづく。
赤竜の居場所はすぐに分かったが、そこにたどりつくのは中々面倒だった。
三つの村をめぐり(三つの村を強盗し)、二つの塔を攻略し、数え切れない雑魚敵をお金と経験値にかえた。
赤竜の洞窟に着いたとき、アレスの装備は、氷の剣(なぜか炎の塔におちていた)と、氷の盾(やっぱり炎の塔ちていた)、
鋼鉄の全身甲冑(こんなものを着て動けるわけがない)だった。一方、ナツキはチャイナドレス、モエは浴衣っぽい衣装で、
なんでこんなものが革の鎧よりも防御力があるのかと、ブラッド君を小一時間問い詰めたいところだ。
ナツキ:「くーっ、いかにも赤竜のねぐらって感じだぜ」
洞窟内はちょっとしたサウナだった。
煮えたぎる溶岩の川、ぼこぼこと噴きあがるマグマ。これが本当の火山なら、暑いとかいうまえに、骨まで蒸発していることだろう。
モエ :「あつい・・・・・」
ナツキ:「あーあ。お供のブラニがいたらヒャラルコの呪文で冷やしてもらえたのにー」
アレス:「・・・・・・・」
めずらしく、ブラッド君が恨めしげに二人をみた。浴衣姿の萌でも暑いのだ。鎧を着込んでいるブラッド君は、さしずめ炎天下の
アメフト選手といったところだろう。
コンディションはよくなかったが、それでも宝箱はきちんと漁りつつ、三人は持参したアイテムで溶岩を凍らせたり、マグマに岩の橋をかけたり、
汗水をぼたぼた垂らした末、やっとのことで洞窟の最深部にたどりついた。
ボスは偽赤竜だった。
偽でも竜だけあって、強敵だった。しかも、心身はボロボロだ。
耐久力のある巨体にてこずり、火炎ブレスが前衛のHPを大きく削る。
アレス:「くそっ、こいつを使うしかない!」
悲痛に叫ぶと、アレスがアイテムを使った。
それは回復薬[ラストエリクサー]。パーティ全員の心身を全快させ戦闘不能も状態異常も回復する優れものだが、かなりのレアアイテムで、一つしか所持していなかった。
ナツキ:「おっしゃあ、力が戻ってきたぜ!」
モエ :「これで魔法の歌が歌えるわ」
アレス:「ちくしょう、よくも使わせてくれたなぁ〜、fuckyou!」
それは見事なネイティブイングリッシュ。ほんっきで悔しかったのだろう。
アレスの小宇宙がメラメラもえあがる。
アレス:「秘剣、廬山昇竜波っ!」
アレスが剣からとばした衝撃波が怒りの水流となってドラゴンにぶちあたり、つづけてナツキが両の拳に闘気をまとって殴りかかる。
ナツキ:「激・気孔双掌!」
モエ :「♪ ラーラーラララー」(わ〜、がんばれ〜)
モエの担当は、いまもむかしも最後尾で歌を歌うだけである。別に戦いたいわけではないのだけれど、
前線で文字通り力を合わせて戦う二人を見ていると、たまには見せ場が欲しい気がしないでもない。
ともあれ、持久戦の末、巨竜のHPが削れてきた。
ナツキ:「いまだっ、アレス!」
アレス:「いくぞっ、ナツキ!」
かけ声とともに、二人が左右に散ってドラゴンをはさみこむ。
拳と剣で語り合ったファイター同士の、友情と信頼の合体技。
アレス:「我が剣は正義の光」
ナツキ:「わたしの拳はあんたを砕く」
二人 :『秘拳っ、竜虎雷神撃!!』
いつのまにセリフ合わせしたのか。竜と虎のエネルギー体が雷神のごとく荒れ狂う派手な技が炸裂し、
ついに偽赤竜を倒すことができた。
ナツキ:「わたしたちに!」
アレス:「砕けぬ敵はないっ!」
二人はそれぞれ剣とナックルをかかげ、勝利のポーズを決めた。
なんだかしらないが、ナツキのテンション高いなー、と萌は思った。