LUNA 2
この世界は四匹の竜が司る四つのエリアに分かれている。説明書にそう書かれているから間違いない。
アレスが目指すドラゴンマスターは唯一神[女神アルテナ]を守護する存在で、いま女神アルテナは人間に転生して世界のどこかに潜んでいる、と町の神官が言っていた。ついでにセーブもした。
【港町サイス】
アレス:「よしっ、いくぞ」
新しい町や城につくと、二人は喜び勇んで民家に押し入っては、問答無用でツボを叩きこわし、タンスを引っかきまわして、目ぼしいアイテムを根こそぎかっさらった。とはいえ、まだ二人は駆け出しなので、鍵のかかった宝箱には手を出せなかった。残念っ♪
白昼強盗をしながら、二人は家の人から、世界情勢・地域の出来事・今夜の晩ごはん・次の目的地・その他のイベント情報などを手際よく聞きだして、最後は優雅にショッピングでしめた。
ありがとう、町のおばさん。ありがとう、寝たきりのおじいさん。頂戴したアイテムはきっちり有効利用するからねっ♪
旅はつづく。
二人は力を合わせて、旅の困難―――――主に戦闘&戦闘を乗り越えていく。
アレス:「楽勝だぜっ」
狼に乗ったナイトのような魔物を必殺技で瞬殺すると、アレスは剣を振り回して勝利のポーズをきめた。最初のころから随分とレベルがあがったので、いまのアレスは剣から炎を出したり、雷を発生させたりと、リアルな人類のレベルはとうに卒業していた。一方、モエはあくまで回復役らしく、派手な攻撃魔法は一つも覚えなかった。武器もあって無いようなものなので、戦闘中は基本的にヒマであった。
どうにかファンタジー世界にも慣れてきたころ、モエとアレスは船に乗って、赤竜が司る2番目のエリアにわたった。
最初についた大きな港町で(強盗家業をすませたのち)、町で行われている闘技大会にアレスが出場することになった。
ローマ風のコロッセウム。
真剣で斬りあえば人は死にますよ―――――というつっこみも虚しく、アレスは鋼の剣をぶん回して順当にトーナメントを勝ち進んでいく。
アレス:「くらえっ、魔神双破斬!」
実況 :「おお〜っとぉ、決まったぁ〜! アレス選手、次はいよいよ決勝だぁ!」
場内アナウンスと共に、勝者にたいして観客席から紙吹雪が舞う。どんな文明レベルだ。いっそ電光掲示板やオーロラビジョンもつければいいんだ。つっこみがてら萌があきれていると、舞台が暗転せずに、次の選手が入場してきた。
実況:「さあ〜、剣士アレスの相手はどちらになるのか〜。準決勝第二試合、まずは前年度チャンピオン。泣く子もだまる
『ザ・マイティー』こと、アレックス・バルバロイの入場だ〜」
左の入場口から、ボディビルダーみたいに筋骨隆々の大男が入ってきた。やられ役である。
そして、ファンファーレがなって、実況が対戦者をコールする。
実況:「みなさんおまちかねぇ! ザ・マイティに挑むのは、はるばるサントハイム国から腕試しにやってきたオテンバ王女!
我らがナツキ姫の入場だ〜っ!!」
しなやかな体躯に、躍動するポニーテール。
格闘服に身をつつんだナツキが、なんも考えていない笑顔で観衆に手をふりつつ入場してきた。
実況:「それでは、準決勝第二試合! レディィィ・ゴォォッ!!」
試合は一瞬で決まった。
ゴングと同時に、ナツキの乱舞系必殺技が、大男を叩きのめしたのだ。なわとびもロクに跳べない萌とちがい、夏希は柔道で都大会2位の成績をおさめるほどの武闘派なのだ。
剣士アレス vs ナツキ姫。
素手の女の子に、主人公が剣と盾を使うってのはどうなのよと思ったが、決勝戦はナツキが押し気味に進めた。
ナツキ:「おらおらおらおらっ」
アレス:「くっ・・・・・・・」
リングの端から端まで届く飛び蹴りからの息もつかさぬ連続攻撃。
スピードでは、ナツキがアレスを凌駕していた。
アレス:「魔神剣っ!」
ナツキ:「あまいっ」
アレスの繰り出す魔法じみた剣技を、ナツキはバク転でかわし、空中で方向を転換して踵落としに変化させた。ナツキもまた、慣性法則というものをとうに卒業していた。
この試合には台本はないらしく、どちらが勝つか萌にはわからない。
夏希は強いが、ブラッド君も相当に強いはずだ。ここにきて忘れがちだが、ブラッド君は成績優秀、スポーツ万能の美少年だ。
そもそも、ブラッド君は夏希より三つも年上の男子なのだ。
アレス:「くっ、やるな」
ナツキ:「まだまだっ」
ナツキの攻撃が加速していく。
残像を残すスピードで、縦横無尽にリングを跳ねまわって、ヒット&アウェイをくりかえす。アレスは防戦一方で、このまま勝負がつくかに思えた。
しかし、萌はいやな予感がした。
去年の都大会決勝も、夏希が一方的に攻めたてポイントもリードしていたのだが、終了間際に逆転されてしまったのだ。
アレス:「兜割っ!」
ナツキを突き放すように、アレスが剣を大振りした。
ナツキは余裕をもって回避し、空中で姿勢をかえて、大きくスキをつくったアレスに襲い掛かる。
それは最初の時と、全く同じ動作だった。
しかも、最初の時より、スピードが僅かに落ちていた。
アレスがわざとつくったスキに、ナツキはまんまと引っかかったのだ。ナツキの飛び蹴りを、アレスは力任せに盾ではじきかえす。
なすすべなく、空中でよろめいたナツキを、アレスの剣が静かに刺し貫く。
ナツキ:「!!!」
剣で心臓を貫かれると人は死にますよ、というクリティカル・ヒットを受け、ナツキは悲鳴もあげずに地面にふっとんだ。
すぐには起き上がれないナツキに、とどめとばかり、アレスが必殺技を叫びながら空高く飛び上がる。爆炎粉砕陣。いまのアレスの最大奥義だ。
夢とはいえ、次に繰り広げられるであろう惨状に萌は目を覆った。
「・・・・・・・・・・・?」
けれど、ブラッド君は紳士だった。
目を閉じて観念するナツキに、アレスは剣をつきつけて告げた。
アレス:「ボクの勝ちだ」
ナツキ:「・・・・・・・・うん」
夏希が負けを認めると、場内アナウンスが高らかにアレスの優勝を宣言した。鳴り止まぬ歓声のなか、勝者に手をひいて起こされる夏希は
遠目にも分かるくらいにはっきりと照れていた。
(そういえば、あの子。自分より強い男がタイプっていってたっけ・・・・・)
姉として、昨日まで恋していた乙女として、ちょっぴり複雑な感情で、萌は二人に拍手をおくった。