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第4章 LUNA

 ♪ 遠く 遠くへ 水平線の彼方まで

    夢が伝えた翼にのろう

    いつか きっと 出会う 

    あなたが 微笑みながら 手招きするから

    さあ 旅立とう 新しい舞台へ











 もうじき始まる収穫祭に向けて、ブルグ村はにわかに活気をおびてきた。たわわに実った麦を刈り終えた男たちは弓矢をたずさえて山へ入り、女たちはとっておきの晴れ着を衣装箱から引っ張り出してきて虫干しにする。今年は女神(アルテナ)の恵みが豊かであり、長く厳しい冬を越すに十分な量の食料がとれたので、祭りもいっそう華やいだものになるだろう。準備に精を出す村人たちの表情には、明るい笑顔がたえることがなかった。

 そんななか、モエは村はずれの泉で、祭りで歌う歌のけいこをしていた。

モエ:「♪ ラー ラララー ラーラーラララララー」

 心地よい風にのって、歌声は水面をかけていく。

 モエは目をとじる。

 風と水の精霊に身を委ねるように、そっと、やさしく、ながれるように、歌をうたう。

 ふと。

 後ろから、小琴(ハープ)の音が重ねられた。

 琴の音は大地の音。よろこびと、たくましさと、あふれでる生命を奏でる。

 二つの調べは、最初から一つであったかのように、ときに溶け合い、ときに響きあって、優しくも力づよい旋律をつむいでいく。

 琴にあわせて歌い終えると、モエは腰に手をあてて後ろをふりかえった。

モエ:「もおっ、おそいぞ、アレス」

 泉に写るモエの姿は、中世ヨーロッパの農民衣装を基調にした服を着ていて、ベージュのエプロンや、頭に巻いた水色の頭巾が、なかなかに可愛らしい感じだった。

アレス:「はは、ごめんよ。モエ」

 アレス(ブラッド君)の格好も似たようなコンセプトだ。耳当てがついた民族帽や、腰にさした短剣がよく似合っている。というか、もともと西欧人なだけに、ついつい見惚(みと)れてしまいそうなほど似合っている。

 今回の舞台はファンタジー・・・・・・・だろう。設定によると、モエは赤子のとき山中に捨てられていたところをアレスの両親に拾われて、それ以来、アレスとは実の兄妹のように育てられた―――――ということだった。



 収穫祭の前日、かねてから伝説の勇者[ドラゴンマスター]に(あこが)れていたアレスに、絶好の機会が訪れる。

 とつぜん起こった地震によって、村の近くにある[白竜の洞窟]を塞いでいた大岩が崩れたのだ。喜び勇んで一人で乗り込もうとするアレスに、モエが反対する。

モエ :「危ないよ、アレス。いってはダメ」

アレス:「モエ、止めないでくれ。これがボクの冒険の始まりなんだ!」

モエ :「それだけじゃないの・・・・・・・胸さわぎがするの・・・・・・とても不吉な・・・・・・」

 ファンタジーでなかったら電波すぎる台詞でモエは引き止めようとするが、もちろん引き止められるはずもなく、結局は二人で洞窟(ダンジョン)に向かうことになった。




 蛍光灯(けいこうとう)もないのに薄明るい洞窟に入ると、さっそく戦闘があった。

アレス:「ゴブリンだ、気をつけろ」

 なんか、槍をもった人型のモンスターが三匹。

 どこから現れたのか。その鎧と槍はどこで手に入れたのか。どうして三匹なのか。どうして外見が全く同じなのか。どうしてHPが分かるのか。どうして同じ待ちポーズ(アクション)をしているのか。そんなつっこみをまとめて心にいだきながら、モエは張り切って投石器(スリング)をかまえる。

 アレスは腰のダガーを抜くと、おたけびをあげてゴブリンたちに切りかかる。モエは敵の攻撃を受けない安全な場所から、スリングで(なぜか地面に落ちている手ごろな)石をヒュンヒュンまわして発射する。投石は百発百中だったが、ダメージはものすごく少なかった。

 ゴブリンは弱く、戦闘はあっけなく終わった。

 そして、経験値とGOLD(おかね)が入った。魔物が(きん)になるってどんな原理だ。

 二人は洞窟の奥へ進み、さらに戦闘を重ねていく。

 現実に出くわしたら即死間違いなしの狼の群れや、包丁で倒せたら鉄人ですといいたくなる灰色熊グリズリーを倒したりするうちに、

二人はレベル(?)が上がって、アレスは剣技を、モエは魔法の歌を覚えた。

 洞窟の最深部の手前では、雪男っぽいボスが待ち構えていた。

アレス:「剣舞(けんぶ)っ! たあああああっ!」

 世界記録を大きく更新する跳躍で、アレスが(洞窟におちていた)ロングソードでばっさり叩ききると、雪男っぽいモンスターはドシンと

地響きをたてて息絶えた。

 最深部は、霜と氷におおわれた天然冷凍庫(それほど寒くはなかった)になっていて、守護者たる白竜がその巨体を寝そべらせていた。

白竜 :「ほお、人間か。これはめずらしい」

モエ :「大きい・・・・・」(ここから出られないほどにね)

白竜 :「世界に災いを(もたら)さんと欲するものがいる。アレスよ、おまえは四竜に会い、四つの加護を受けてドラゴンマスターとなる運命にある」

アレス:「ぼくが、伝説の勇者[ドラゴンマスター]に・・・・・・」

白竜 :「できる事なら我が加護を与えたいが、今のお前はあまりに無力。まずは赤竜にあうのだ。道中の旅がお前を強くするであろう」

アレス:「わかりました、白竜様」

白竜 :「そして、娘よ。おまえには辛い旅となる」

モエ :「えっ」

白竜 :「いまの幸せを大切に思うのならば、村に残るがいい」

 なんだか含みのあることを言われて洞窟を後にし、ブルグ村で涙ながらに両親や村人たちと別れを告げるイベントを経て、

二人はいよいよ冒険の旅にたびたつことになった。


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