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Air7

 ざざーん ざざーん

 ざざーん ざざーん

 テトラポットの海は、いつ訪れても黄昏(たそがれ)に染まっている。

 落日は海にぼやけて、波の上に光の航路をなげかけている。

 ざざーん ざざーん

 ざざーん ざざーん

 寄せては返す波の音に、軽やかに口笛がハミングする。

 その先には、ロンギヌスの槍で串刺しにされたカオルが血まみれの口で第九のメロディを口ずさんでいた。彼は犯人ではなかったのだ。

 立ち尽くす萌に、カオルがゴボゴボと血を吐きながら告げる。

カオル:「夕方の海に列をなす信号機・・・・・・創っておけばよかったよ・・・・・・・・」

 意味不明な一言をのこすと、カオルも(かすみ)のように消えてなくなった。

 萌が手を伸ばすと、血塗られた槍はみるみる縮んで萌の手元にすっぽりと収まった。



 

 なけなしの期待をこめて診療所にいってみると、力王寺 遙(りきおうじはるかも銃で撃たれて死んでいた。

 そして、萌の目の前で霞となって消滅した。

 彼女も犯人ではなかった。


 











 廃校の宿直室。

 部屋の片隅に積み上げられている米俵の山を破いていくと、その一つ一つに拳銃やマシンガン、バズーカ、火縄銃などの重火器が隠されていた。それらの武器は見た目はそれっぽいけど、銃社会の人が作ったものではない証拠に、おどろくほど軽くできていた。


 

 バンッ

 扉を開けて屋上に出ると。

 萌の目に、ひどく大きな夕陽が、まっさきにとびこんできた。

「・・・・・・・・・」 

 フェンスに手をかけて(たたず)む女の子の長い影が、萌の足元までのびてきている。

 近づいていくと、女の子が身体ごとふりかえり、表情を消した瞳が萌に向けられた。

もみじ:「わたしを殺しに来たの。萌」

「芝居はやめて、もみじ。いいえ、(かえで)ちゃん」

 最初から薄々は気がついていた。

 田原もみじ。

 楓の旧姓は原田。

 もみじは紅葉(もみじ)で、カエデの別称。

「田原もみじ。この役名は、あなたが自分でつけたんだよね。楓ちゃん」

もみじ:「そうよ」

 萌と冬眞と夏希、三人の父は、昨年、再婚した。

 楓は義母(かあ)さんの連れ子だ。

もみじ:「思わなくてもいい。従うだけで演技ができる。夢の中って素敵ね」

 機械的な声。陰った顔には仮面のような無表情。たいていのアニメに一人はいる無表情・無感情キャラ。

 もちろん、現実の小学校には絶対いない。いるとすれば、それは感情を押し殺し、じっと()えつづける悲しい子だ。

「そんな話し方、わたしにしないで」

もみじ:「お義姉(ねえ)さんと喋るなら夢の力を借りたほうがいい」

「楓ちゃん・・・・・・。答えて、どうしてこんなことを」

もみじ:「いいじゃない。これは夢だもの」

「いくら夢でも身内に撃たれるなんてあんまりよ」

もみじ:「笑わせないで。夢の中までリアルを持ち込まないで」

「持ち込んでいるのはあなたでしょう」

もみじ:「こっちにこないで」

 萌が近づこうとすると、楓はスカートから小さな拳銃をとりだした。

 表情のない瞳のまま、萌に狙いをつける。

「そうやって、夏希を・・・・・・・」

もみじ:「所詮(しょせん)、赤の他人だわ」

「なんてこというの!」

もみじ:「怒ったフリはやめて。みっともないだけ」

「っ!」

 かみ合わない会話に、萌はかあっとなった。

 萌の感情にあわせて、血まみれのロンギヌスの槍が手の中に実体化する。

もみじ:「いいわ。わたしを殺して」

「わ、わたし、そんなつもりじゃ・・・・・・・・」

もみじ:「じゃあどうしたいの。義妹(いもうと)を殺すのは怖い?」

「人聞きの悪いことを言わないで!」

もみじ:「あなたはいつもそう。優しいふりして見てみぬふり。好意のおしつけ」

「そんなこと」

もみじ:「夏希も同じ。姉妹そろってうざい」

「楓ちゃん・・・・・・」

もみじ:「わたしには母さんがいてくれたらよかった。貧乏でも、母さんと一緒がよかった。それなのに、あなたたちの父さんと再婚して、

     あの家にはあなたたちまでいて・・・・・・」

 萌は返す言葉もなかった。父が再婚してもうすぐ一年になるというのに、いまだに楓とは、どことなく馴染(なじ)めていないところがあったのだ。

 うなだれる萌に、楓も銃をつきつけたまま動かない。

もみじ:「わたしの居場所はどこにあるの? どうして母さんはここにいないの?」

 それは本心。

 初めて聞いた楓の本心が、萌は悲しくてたまらなかった。

 顔をおおう萌をみて、もみじの目から涙があふれて頬をつたった。

もみじ:「これは涙・・・・・わたし、泣いてるの?」

 そのとき。

 バァン。

 夕暮れの空に、一発の銃声がとどろいた。

 だれかに背中を押されたように、萌の身体がぐらりとかたむき、その胸に、赤くきれいな鮮血が、

 ポッ、と花開く。

「あっ!」

 叫んだ楓の目から、真珠(しんじゅ)のような涙が風にのってそらにこぼれる。




 



    

    BAD END



 萌は選択肢を間違えた。夏希ではく、楓のとなりにいるべきだった。()けるべきではなかった。なにもかも間違いだらけだった。

 『カスミ』にかわりゆくなか、萌は思った。間違いは正せばいいのだ。だって、夢はまた続くのだから。


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