Air5
日がすすんでも犯人の目星はつかなかったが、イベントは進んでいった。
天真爛漫な少女、若草なつきは、なにかの力を封じるために腕に黄色いスカーフを腕に巻いているとか、一緒に住んでいる力王寺 遙は過去に医療ミスで人を死なせたショックでこんな小さな町にいるとか、少しずつ登場キャラの生い立ちが明らかになってきた。
一方、廃墟の二人について。
楓―――田原もみじは小学校に通ってないらしい。親がいるのかどうかもあやしい。
北条 香澄は、そんなもみじを温かく見守る、成績優秀・品行方正・天然・眼鏡・ドジなお嬢様だ。
そして、一番怪しい儚カオルはいつも夕焼けの海をながめて口笛をふいている。話しかけてもアニメとかについて語るだけで、特にイベントは起こりそうになかった。
物語の合間の舞台袖で、萌となつきは膝をつめて話した。
「だめ、全然わかんないよー」
「姉ちゃん、もう適当にさしてみなよ。とりあえず、手近な遙から、ぶすっと」
「それは最後にするよ。とりあえず、登場人物を整理するから、あんたも考えて」
A.力王寺 遙(20代)・・・・女医。専門は外科。トラウマあり。
B.儚 カオル (18)・・・・ブラッド君、らしい。
C.北条 香澄(高一)・・・いつもにこにこしているお嬢様。武器は米俵。
D.田原もみじ(10)・・・・楓が扮する役。無表情キャラ。
E.若草なつき(14)・・・・封じられた力あり。
F.若草 萌 (16)・・・・糸がなくても人形を操れる超能力あり。詳細は不明。
「犯人は、この中にいるっ!」
萌がオーバーに推理ポーズをきめると、夏希はワーッと拍手してくれた。いいやつである。
「ところで、なんでわたしと姉ちゃんまで容疑者扱い?」
「二重人格かもしれないからね。こういう変な世界だし」
それは冗談だったのだが、数日後、スカーフを外したなつきが凶暴化するというイベントが起こってしまう。
なつきは卑弥呼の怨霊に祟られていて、いつも腕に巻いている黄色のスカーフはそれを鎮めるためのアイテムだったのだ。つっこみが追いつかないのは別にして、肝心なのは、夏希も自分のキャラ設定を知らなかったことだ。
思い返せば、姉が撃たれた時、近くにいたのは萌だけだった。そして、萌もまた、自分の設定を知らない。ひょとしたら語り手が犯人という推理物の
タブーなオチなのかもしれない。
いずれにせよ、手がかりが一つもない。
イベントを進めていけば、少しずつキャラ設定がみえてくる。だから、萌は夏希の家に泊まったまま夏希ルートを進めていったが、それが間違った
行動だったことを、萌はじきに思い知らされることになる。