Air3
翌日。萌は廃校で目を覚ますと、[糸を使わない人形劇]を町中で行い、道行く人たちから幾ばくかの小銭をえた。すると、選択肢が心に浮かび上がった。この話では、萌はヒロインではなくて、主人公の立ち位置らしい。
A.廃墟にもどって香澄たちと話をする。
B.川沿いを歩いてみる。
萌はBを選んだ。楓のことはひとまず置いておいて、この世界に来ているはずの夏希と出会っておこうと思ったのだ。
町を流れる小川は、下流とは思えないほど透明度が高かった。きっと上流に工場もなければ、家庭排水も垂れ流されていないのだろう。もっとも、そんな地域が現代日本にあるとは思えないが。
夏草がのびる土手を歩いていくと、小川の中で水遊びする少女に出くわした。
少女:「あはははは、きもちいいー」
萌は橋の上から、水の中に腰までつかってはしゃぐ少女をみおろした。少女は服を着たままで、ピタリと張り付いたシャツから標準より大きなバストが、これでもかと自己アピールしておいでになられた。
萌 :「元気なもんだ」(ううっ・・・・・・夏希のおっきい・・・・・・)
少女:「あっ」
少女は萌にきづくと、ぶんぶん、と大きく手をふった。
なぜか、その腕には黄色いスカーフが巻かれている。
少女:「おーい、お姉ちゃんも飛び込んでおいでよー。冷たくて気持ちいいよー」
萌 :「そうか。それじゃ・・・・・・・」(まじ?)
バッシャーーーン
萌は(覚悟して)川にとびおりた。川は思ったより深かったが、やっぱりけっこう痛かった。
少女:「だいじょーぶ、お姉さん?」
キラリン。グッ。
萌はきらめく笑顔で、親指をたてた。
萌 :「アイムパーフェクト」(いつの人だ、わたしは!?)
少女:「あははは、お姉ちゃん。もう一度やってー」
キラリン。グッ。
萌はきらめく笑顔で、親指をたてた。
少女 :「あははは、お姉ちゃん、面白い人だねー」
萌 :「そうか」(変な人のまちがいだろ)
なつき:「なつきは、若草なつきっていうんだよ。姉ちゃんは?」
萌 :「若草萌だ」(姉ちゃん、か。夏希は意識があるのね)
それから二人で水のかけあいをしたり、焚き火をして服をかわかしたりした後、萌はなつきの家にいくことになった。
舞台が暗転すると、萌は夏希に今までの経緯をきかせた。冬眞が撃たれて消えたこと。楓が夢にいること。けれど、楓は他の人と同じように意識を失って[田原もみじ]という女の子役でていること。
「そっか。けど、わたしも姉貴も意識があるのに、楓だけ別ってことあるのか?」
「わかんない。でも、あの子はわたしたちと違うから・・・・・・というより、意識あるわたしたちの方がヘンだよ」
「それもそうか。で、これからどうするの、姉ちゃん?」
「・・・・・・どうやったらクリアーなんだろ、この夢?」
「さあ? わたしロープレとアクションしかやらないし」
「あーあ、姉さんがいたらなー」
萌は少し考えてから言った。
「とりあえず、姉さんを撃った犯人を探してみるよ。なんとなく、今回は今までの夢と違う気がするなー」
なつきの家は町に一つしかない町医者で、夏希はそこで女医の力王寺 遙と二人で暮らしていた。
遙 :「よう、おかえり」
なつき:「ただいま、遙ねえさん」
遙 :「おや、患者さんかい?」
遙は20代の、現実でも看護婦をやっていそうな知的美人で、見覚えのない人だった。
萌が身の上を話すと、住み込みでバイトをしないかと、遙がもちかけてきた。
A.わたしは流れ者。廃墟がお似合いさ。
B.出会いも旅のうち。厚意に甘えさせてもらおう。
萌はためらうことなくBを選んだ。
自分と同じく、正気(?)を保っている夏希のそばにいたかったからだ。