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第参幕 Air

♪ 消えてゆく ぶたい わたしはみおくった

  さみしくて こわした いつだってよわくて   

  わたしは ひとり Airゆめのせかいを さまようの

 (えいえんはあるよ。ここにあるよ)

  あなたは ひとり 罪なき黄昏(かなしみ)を まとうの



   



 みぃぃぃん みぃぃぃん

 みぃぃぃん みぃぃぃん

 無限に広がるかのような蒼穹(そうきゅう)に、セミの声が(やかま)しげに吸い込まれていく。

 寂れた船着場(ふなつきば)を、潮のきつい海風が通り抜けた。

萌 :「おなかすいた・・・・・・・」

 ぽて。

 萌はこけた。

 また歩く。

 ぽて。

 萌はこけた。

 また歩く。

 ぽて

萌 :「きりがない・・・・・・」

 萌は倒れたまま起き上がらない。

 ぐう。

 お腹がすいて一歩も動けない。

萌 :「もう、どうにでもなれ」(独り言多いなー) 

 どた。

 ()けたコンクリートに大の字になってみる。

 灼熱の陽射しと、呑み込まれそうな夏の空が、視界を蒼くそめる。

萌 :「しんでやる」

 呟いて目をとじたとき、何者かの影が萌に覆いかぶさってきた。

??:「なにしてるんですか」

萌 :「息」

??:「そうですか。がんばってください」

萌 :「ああ」

 スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。

 スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。

??:「楽しいですか、息?」

萌 :「楽しくはない」

??:「なら、やめたらいいのに」

萌 :「人生は楽しいことばかりじゃない」(なんなの、この会話・・・・・?)

??:「そうですか。深いです」

萌 :「深いぞ」

??:「では、がんばって息してください」

萌 :「まかせろ」

 スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。

 スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。

 スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。

 スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。スゥ、ハァ。

??:「おお。ぱちぱちぱちぱち」

萌 :「で。お前はいつまで俺をみてる?」

??:「あなたが息をやめるまで」

萌 :「死んでるわ!」

 がばっ。

 萌は跳ね起きる。

 白いリボンをつけた制服姿の少女(!?)が、じーっと萌をみていた。 

少女?:「うわわわ。ビックリです」

萌  :「こっちがビックリだ」(・・・・・に、似合わなさすぎる・・・・・・)

 その後、二人は同じようなおなじようなやりとりをもう一度したあと、ようやく少女(?)が自分の持ってるお弁当を萌におすそわけする流れになった。

萌  :「このサッカーボールはなんだ?」

少女?:「ジャンボおにぎり。いろんな具が入ってる。冬眞(とうま)ちん特製。にはは」

 そういうと、白いリボンをつけた少女のコスプレをした冬眞は、純白な天使をよそおうとして失敗した堕天使(だてんし)のごとく極上の笑みの形に唇をひきつらせた。


 


 舞台暗転。

「ア、アメリカ人めぇ・・・・・・・」

 場面が終わると、来年には就職する21才の女子大生はぐったりと膝をかかえこんだ。今回の役は[天使のように純粋な少女]であり、何人もの男を(くわ)えこんできたヤリマンである冬眞は、演技中、いまにもひきつけをおこしそうだった。例えるなら、モデル上がりのタレントが素朴な農民の娘を演じた某大河ドラマくらいに酷いミスキャストだった。

 一方、萌の役は[気ままな旅芸人]だ。この港町には特に目的もなく立ち寄っただけで、糸をつかわずに人形を操るふしぎな超能力をもっている、という設定だった。

「ちょっと台詞がくどいけど、今度は普通のドラマっぽいね」

「ばかね。そんなわきゃないでしょ」

 冬眞は早くも憔悴(しょうすい)した目つきでいった。前回のぬいぐるみマスコット以上に、精神的に受け付けられない役のようだ。

「噛み合わない会話。リアルだったら人格崩壊してそうなキャラ。非日常。旅。廃れた船着場。切ない系の主題歌・・・・。さしずめ、次に出るのは廃線か、廃校といったところね」 

「どういうこと?」

「たぶん、ここは『世界系』ね。話が進むと、人類が補完しちゃったり、精神崩壊したり、異世界につながったり、タイムリープしちゃったり、同じ日常を繰り返したり、とにかく世界がおかしくなるのよ――――――まあ、とっくにぶっ壊れてると思うけどね」

「なんだ。じゃあ、わたし向けね。もう2回もバッドエンドみたもん」

「・・・・・・・だめじゃん」



 

 炎天下の下、萌と白いリボンをつけた少女にみえない少女は、ゆったりした歩調で町中を歩く。

 周囲には、いかにも田舎めいた家屋と田畑が点々としていて、通りは人も車もなく閑散としている。

冬眞:「萌さんは旅人さんなんだ」

萌 :「まあな」(うわー、さんづけだよ)

冬眞:「どんなところを旅してきたの」

萌 :「いろいろだ」

冬眞:「いろいろじゃわからないよー」

萌 :「イロイロだ」(ひぃぃ、くりかえしはやばいよー)

冬眞:「もう。イロイロじゃわからないっていってるのに」

萌 :「色々だ」

冬眞:「いろいろ色々イロイロ。萌さんはイロイロ星人ですか」

萌 :「なんだそりゃ」(やばい、もう――――)

 ぶっ壊れた会話。リアルとの絶望的なギャップ。

 お姉ちゃんがギリギリだー、と萌が内心でヒヤヒヤしていると。


 バアン 


 なんの伏線もなく、いきなり鉄砲の音がした。

「な、なに・・・・・??」

 びっくりして、萌は辺りを見回した。周りの町並みにおかしいところはなく、ただ、もえのとなりで

白いリボンをつけた頭がぐらりとゆれた。

「おねえちゃん?」

 豊かな胸元に、鮮やかな血の花をパッと咲かせて、モデルのような姉の身体が力を失って、ゆっくりと、

舞うように、地面に崩れ落ちる。

「おねえちゃん・・・・・」

 倒れたあと、ご丁寧にも口の端から血糊(ちのり)をたらす姉。

 姉は弱々しく微笑むと、力尽きたように目をとじた。

 萌が放心していると、姉の姿は(かすみ)のように薄れて、地面に染み込むようにして。

 消えてしまった。

 冬眞(とうま)は死んだ。

 いきなり死んだ。撃たれて死んだ。

 きっと、もうココに出てこない。

 いろんなところでよく見る演出だが。

 姉のいた場所に、それだけ残された白いリボンが、ひどく悪質なジョークに思えて、萌は無性に悲しくなった。


  

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