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幕前1

 4月19日、月曜日。

 窓から見える駅ビルに[春物売り尽くし]の垂れ幕がかかる頃。

 都立景山高校1年G組は、これから始まるイベントをまえに、ちょっとしたざわめきに包まれていた。

「あー。ホームルーム始めるから席につきなさい。あー、ほら、席もどりなさい」

 担任の木村が教室に入ってくると、生徒たちはしゃべりながら、それぞれの席にもどっていく。

 生徒たちが着席すると、教師はいつものように連絡事項を伝えてから、「あー」と本題に入った。

「はいはいはい。もう、みなさん知っていると思いますが、今日からこのクラスにアメリカからの留学生がやってきまーす」

「センセー! 野郎ですかー、美少女ですかー」と、男子が合いの手をいれる。

「あー。男です。前にいっただろ」

 すでに入り口の向こうには背の高いシルエットがみえていて、廊下側に座る生徒のうち好奇心おうせいなものは窓から顔をつきだしている。

 そのシルエットに、教師は手招きしていった。

「あー。ブラッド、入って来い」

 入り口をくぐるようにしてシルエットの主が入ってくると、はかったようなタイミングで黄色い声があがった。

 サラサラなびく金色の髪、彫りのふかい白皙(はくせき)の容貌。自信と人懐(ひとなつ)っこさと大らかさが絶妙の割合でブレンドされた――――ハリウッドスターの笑顔。

 日常とかけはなれた雰囲気を漂わせる異邦の美少年に、女子が色めきだつ。

「ネエネエ、アレ、ヨクネ」

「ウンウン、ヨクネ」

「かっこいいよねー、(もえ)

「うんうん」

 若草萌(わかくさもえ)も女子の例にもれず、うっとりした眼差しで異国の少年をみつめた。バスケ部みたいな長身に、すらっとのびた長い脚。優しげな瞳は

アクアマリンの虹彩で、染めても絶対でないブロンドヘアはニキビ一つない陶磁のような肌をいっそう引き立てている。芸能人ていうか、

まるで人の形をした芸術品のような――――――

「あー。はいはいはいはいはいはいはい」

 発情した女子どもを静めるべく、教師は出席簿でホワイトボードをバンバンと連打し、ややボリュームがおさまったすきに、

手際よく留学生の紹介をねじこんだ。

「あー。彼はブラッドリー・ダグラス・ヒューストン。名前のとおり、アメリカはテキサス州ヒューストンの出身だ。

彼はWASP(ワスプ)であり、かねてから言ってきたとおり、宇宙開発で有名な、あのヒューストン社の直系一族だ。

お前たちわー、SP(エスピー)に目をつけられたくなかったら、くれぐれも粗相のないようにな」

 WASP(わすぷ)とわー、SP(すぷ)。教師が自作のギャグにくくくと笑うと一部の男子から愛想笑いが起こったが、そんなことは萌にはどうでもよかった。

(す・て・き…………☆)

 だらしくなく開いた口元から、よだれの糸がたれかかっていることにも気がつかないくらい、萌は金髪の少年に心を奪われていた。もっとも、萌だけでなく、クラス中の女子のほとんどが恋する瞳、というか獲物を見定める狩猟者(ハンター)の目になっていた。

「―――それでは、ブラッド。自己紹介を」

 その瞬間、喧騒(けんそう)がピタリとやんだ。

 一言一句たりとも聞き逃さないというように、生徒たちの視線が壇上の少年に集中する。

 無音。 

 息苦しくなるほどの静寂がはりつめ、アメリカから来た少年はアメリカ人らしく大げさに肩をすくめてみせた。それから、ステキな笑顔をうかべると、バリトンのきいた美声で話し始めた。

「ただいま紹介にあずかりましたBloodlyDagrasHyustonです。みなさん、どうかブラッドと呼んでください」

 ありえないほど流暢(りゅうちょう)な日本語に、おおおっ、とどよめきが起こった。

 しかし、次の台詞で、その一部が悲鳴に変わった。

「日本にはアニメをみるためにやってきました!」


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