SCもえ 6
その後も順調に、6体目、7体目、8体目、9体目と封印していき、いよいよ最後の10体目となった。
最後のソウルはエクソシストに出てきそうな本格的な人魂で、最初はもえをとりこもうとしたが、いろいろあって最終的に義兄の透矢に憑依した。
ソウルに憑依された義兄は、魔法少女の聖地・東京タワーを冥界の大樹に作り変えて、人魂っぽいソウルの量産体制に入った。
もえに与えられた期限は午前零時まで。それを過ぎると世界崩壊である。
討ち入りまえに、「もう透矢を倒すしかないぜ」「ぜったいたすけるんだもん」「それでこそ、もえや。もえもえや」などなど、お約束の台詞を涙まじりに語った後、三姉妹は舞台袖にひっこんだ。
「これで夢もおわりね」
「でも、もえ姉ちゃん。まだお菓子屋さんつくってないよ?」
「夏希、あんたはクッキーも焼けんだろーが。だいたい、なんであたしがマスコット・・・・」
「だったら、姉さん。わたしの巫女服かしたげるから、ランドセル背負いなよ」
「死んでもヤダ」
「でもさ、萌ねえはハマっているよねー。魔法少女。昔やってたアニメにそっくりだよ」
「だねー。あたしの妹だけあって、もとはイケてんだし・・・・・・かなりマニアックだけど」
「グーでなぐるよ?」
怒ってみせながらも、二人にほめられて萌は悪い気はしなかった。実は、萌も幼いころは魔法のバトンをふりまわして遊ぶ子供だった。変身は
女の子のあこがれだと思う。
「にしても、今回はあんまり外人の出番なかったねー」
「ブラッド君、高校生だし。でも、合宿で一緒にキャンプファイヤーしたり、高校でもてまくる姿にやきもちやいたり、
いっしょにケーキつくったり、病気の女の子をお見舞いしたりしたよ」
「あんた、いつのまに・・・・・」
「フユちゃんが家でるすばんしてるまに」
「やるなあ、萌ねえ」
夏希がしみじみうなずくと、萌も自分のことながら改めて関心した。夢の中ならいえる♪ というところなのだろうか。
「そんにしてもさ。萌ねえ、マジであの兄ちゃん狙ってんのか?」
「うーん。超微妙」
ライトアップよりも妖しく輝く333m。
最後のソウルによって、冥界樹へと変わりはてた東京タワー。
樹の中から冥界の化物たちが、TOKYOの街を埋め尽くさんばかりに次々と湧き出てくる。
もえとなつきは、一時的に真の力を開放して冥界の氷鳥となったフユちゃんの背中にのって、冥界のバリアに覆われた東京タワーに突貫した。
フユ:「外の雑魚はワイに任せとき!」
もえ:「フユちゃん、気をつけるんだよっ!」
1F水族館、3Fロウ人形館、4Fエレベーターホールの激闘を経て、もえとなつきはどうにか冥界につながる通路にたどりつくものの、そこで多数のゾンビっぽいソウルの大群に囲まれてしまう。
なつき:「くっ、数が多すぎる!」
もえ :「う、うにゅ〜。あと10分で零時になっちゃうよぉ」
なつき:「仕方ない。わたしが道をつくる。ここからはもえ一人でいけっ」
もえ :「でも。なつきちゃん、ひどいケガだし・・・・・・・」
なつき:「なーに、かすりきず、かすりきず」
なつきはボロボロになったプロテクターをパージし、スク水ドレスにもどった。
傷ついた足をひきずりながらも、両腕をひろげて柔道のかまえをとる。
なつき:「わたしは大丈夫。いいから、いけっ」
もえ :「なつきちゃん一人残して、行けるわけないよ!」
なつき:「ばっきゃろう! 透矢を助けるんだろ!」
もえ :「なつきちゃん・・・・・・!」
なつき:「へっ。早く行かないと今度こそ絶交だぜ」
なつきが親指をたてる。会話シーン、およそ一分。その間、ゾンビだちは行儀よく待つ。
なつきが最後の力をふりしぼってスプラッシュをはなち、もえは泣きながらバトンに乗って敵陣を突破する。
もえ:「まっててね、おにいちゃん!」
冥界のトンネルをぬけると、足元に美しい夜景がひろがり、同じ高さに時計塔がみえる不思議な空間に出た。
もえがガラス張りの屋上のような所におりたつと、最後のソウルに操られた義兄が死んだ目でふりむいた。
もえ:「おにいちゃん、もえだよ。目を覚まして!」
透矢:「無駄ダ、此ノ者ノ意識ハ、既ニ無イ」
もえ:「そんなことないもん! わたしがあなたを封印するんだから!」
時計塔の長針は56分。タイムリミットまで後4分。
もえは封印の書をひらき、バトンをまわして九字をきる。
もえ:「悪しきもの、忌わしきもの、汝のあるべき姿に還れ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・ぜーん!」
封印の書から放たれた冥い光が透矢をつつみこむが、全く効果がない。
時計塔の長針は57分。残りは3分。
透矢:「ドウシタ、ソレデ終ワリカ。ソウルキャプター?」
もえ:「どうしよう、まほうがきかないよ」
透矢:「デハ、今度ハ我の番ダ」
透矢が腕を振り下ろすと、空中にあらわれた闇の刃がもえにおそいいかった。胸当てがやぶれ、巫女ドレスがズタズタに引き裂かれ、のぞいた素肌から血がにじみでる。悲鳴をあげて、もえはひざをついた。
もえ:「ううっ、このままじゃ、かてないよぉ・・・・・・・」
透矢:「ハハハハハハ、何ト他愛ノナイ」
もえ:「たすけてよ、フユちゃん、ナツキちゃん・・・・・!」
しかし、フユちゃんは変身がとけてぬいぐるみの姿で根っこの隙間に埋もれている。
なつきは立つのがやっとのていで、ゾンビたちと格闘している。
透矢:「助ケハ来ナイ。オ前ハ一人ダ」
もえ:「ふ、ふええええん・・・・・・・・」
もえは泣いた。
泣きじゃくるもえの声が、霞が立ちこめはじめた異空間に空しくこだまする。
すると、突然、透矢が頭を抱えて膝をついた。
透矢:「だ、れ、だ・・・・・・・もえを、おれのもえを泣かすのは・・・・・・」
もえ:「おにいちゃん!? おにいちゃん!」
透矢:「そうか・・・・・・・さいごのソウルは、おれのなかってわけか」
透矢は時計台のほうに――――――――屋上のきわににじりよっていく。
霞のむこうに煙る時計塔の針は59分。
透矢は時計を横目でみて、ふっと笑う。
透矢:「ギリギリセーフだぜ」
ふきあがってくる風が透矢の後ろ髪をはげしくゆらす。
トンッ
かかとで地をけって透矢は空中に身を投げた。
見たこともない優しい目でもえに微笑みかけながら。
もえ:「だめぇぇぇぇ!」
もえはバトンにまたがり、時計塔にそって落下する義兄を急降下で追いかける。
頭からまっさかさまに落ちていく義兄は疲れきった人のように目を閉じていて、もえは空中で義兄を抱きしめる。
もえ:「おにいちゃん、だいすき・・・・・・!」
それはいえない恋心。『もえ』の本当の魔法。
封印の書が神々しい輝きをはなち、最後のソウルを浄化した。白い光につつまれて、透矢が目をさます。
透矢:「もえ・・・・・・・」
もえ:「おにいちゃん・・・・・・」
光のなかで抱き合ったまま、二人はふわりと地上に着地した。
手をとりあって見上げる時計塔から、二人を祝福するように鐘の音が聞こえてくる。
リィンゴォォォン ――――――――――――?
「??」
感動のエンディングを迎えようとスタンバッテいた登場人物たちが首をかしげる。どうして12時なのに、
鐘が12回鳴らないのだ?
「ああーっ!」
萌は時計塔をみあげると、泣き笑いの表情でフリーズした。
短針の位置は1。タイムリミットは0時。
いまは1時ジャスト。要するに、時間切れ。
「し、しまったあぁぁぁ」
BAD END
???「オーホッホッホッホッホッホッ・・・・・・・・・」
邪悪なソウルに満たされて、世界は再び暗転する。
最後まで表舞台に登場しなかった、もう一人の魔法少女。
ソウルを操る力をもつ、もえのライバル、という役割だった。
大株主たる彼女は、戦いの最中に時計塔の針をごまかしたに過ぎなかったが、ちょっと間のぬけたヒロインを
ごまかすにはその程度で十分だった。