SCもえ 3
蛸。
外にでると、青い空に巨大なタコの化け物がうかんでいた。
もえ:「うにゅにゅ〜、いまはお正月じゃないよ〜!」
フユ:「そりゃタコちがいや」
ぱふっと、もえの肩にのった雪だるまのフユちゃんがつっこんだ。
空にタコの化け物が浮いているというのに、町の人たちは異変にきづいていないのか、特にさわいでいる様子はない。
フユ:「いうなれば、ソウルはお化けのようなもんやからな。ああ、ワイも冥界の番鳥やよって、普通の人には見えへんねんで〜」
もえ:「なるほど〜、べんりだね〜」
フユ:「もえも変身したら冥界の住人になるよって、だれにも見られへんようになるで。そんなわけで、すぱぱぱぱーんと変身したらんかいっ」
もえ:「よーし、わかったよ!」
もえはポケットから金色の鍵をとりだし、天高くかかげる。
Chu☆
金色の鍵にそっと口づけすると、鍵はむくむく大きくなって、おもちゃっぽいバトンになった。
心にはずかしいセリフとポーズがうかんで、やっぱやらなきゃダメなんだろーな、と腹をくくりつつ、マジカルバトンをくるくるっと一振り。
もえ:「ええい、もうやけだ! マジカル・リリカル・キルゼムオーム! プリンセスになーれ☆」
空色の制服がやぶける。スカートがさけ、純白のパンティーがちぎれとぶ。ひめやかな乙女のからだは神秘の光につつまれて、
巫女っぽい和風ドレスがニーソから装着されていく。
もえ:「冥界よりの使者、ソウルキャプターもえ! 冥府にかわって・・・・・・・おしおきよ☆」
きらっ☆
とびっきりの笑顔で決めポーズ。
人として大切な何かを失った感覚がもえをハイにしていた。
フユ:「きまってるでぇ〜、もえ」
もえ:「こうなったら、とことん付き合ってやるっ!」
もえは空をみあげた。
マジカルバトンに翼がはえ、もえはバトンにまたがって空をとんだ。
雪だるまのフユちゃんも自前の羽根をはやして、パタパタともえの横をとんでいる。
フユ:「ええか、あのタコに近づいて、封印の呪文を唱えるんや」
もえ:「もえにまかせてっ!」
いつかみたアニメのように。
魔法少女になったもえはバトンにまたがって空をかける。
イメージ通り、髪が、服が、心地よく風にはためく。
もえ:「いくよっ、フユちゃん!」
フユ:「サポートはワイにまかしとき〜」
もえは空をただよう化物蛸の間合いに突入した。
怪獣映画のように巨大な頭部に付いた、わりとリアルな感じな蛸の眼がギョロリとうごいたとき、ふよふよ蠢いていた八本の触手が
もえを絡めとるべく、いっせいにのびてきた。
もえ:「はっ、はわわわわわわわわわっ・・・・・・・」
縦横無尽にくりだされてくる触手を、もえは下に上にかいくぐりながら本体に迫ろうとするが、あと少しのところで身体ごと触手に巻き取られてしまう。見ためほどに生臭くなかったのが救いではあったが――――
もえ:「ぐ、ぐるじぃ・・・・・」
ぎゅうぎゅうと巫女ドレスのうえから締めつけてくるタコの足。プロレス技のかけっこなどしたことのない萌にとって
未体験の苦痛だった。
フユ:「もえー、いま助けたるでー!」
もえに巻きついたタコあしに、フユちゃんが二等辺三角形の口から吹雪をはいた。
しめつける力がわずかに弱まったすきに、もえはバトンをふかして脱出に成功する。
空中で体勢をたてなおすと、もえの左手に「封印の書」があらわれた。
フユ:「もえ、いまや!」
もえ:「よおしっ」
マジカルバトン・モードチェンジ。空中静止。たなびく巫女ドレス。
封印の書をかかげると、もえはマジカルバトンで九字を切る。
もえ:「オンキリバサラウンバッタ オンキリバサラウンバッタ。彷徨える魂よ、
汝のあるべき姿に還れ! 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・ぜーんっ!」
ふしぎな呪文をとなえると、巨大タコはみるみる小さくなって封印の書に吸い込まれた。
パタン。
本を閉じると、もえはウィンクをして勝利のポーズ、きめっ。
「やおよろずのかみさま、ごめんなさいっ☆」