Too Heart4
萌 :「はい、たくさん食べてね」
裕之:「おお、うまそうだ。さっそくいただくぜ」
萌 :「どうかな。いちおう、裕之ちゃんの好物でまとめてみたんだけど」
裕之:「うむ。腕をあげたな。もう、どこに嫁に出しても恥ずかしくない腕前だ」
萌 :「裕之ちゃん……」
ゴールデンウィーク。裕之の家で夕食をふるまう萌。
家には二人きり。
楽しい食事がすむと、二人、キッチンで後片付け。
裕之:「おい、中華皿はこっちの棚でいいのか」
萌 :「うふふ、ここは裕之ちゃんのおうちだよ」
裕之:「ははは、こんな皿使ったことねーからな。あ、この小鉢は?」
萌 :「こっちの棚だよ。かして」
裕之:「ほら。落とすなよ」
萌 :「落とさないよ〜」
洗い物する手をとめて小鉢をとろうとするが、指先に洗剤がわずかにのこっていた。
ガッシャーン
手がすべり、小鉢が割れる。
萌 :「ご、ごめん。今片付けるね―――いたっ」
裕之:「血が出てるじゃねーか、みせてみろ」
萌 :「あ……」
裕之は萌の指をとると、ためらいなく口にふくんだ。いやらしくなく、ごく自然に。さすがアメリカ人と思わせる仕草で。
萌は本気で恥ずかしくなって顔をそむけた。
裕之:「あ、わりぃ。つい……」
萌 :「ううん…………うれしかった」
裕之:「そっか」
萌 :「うん」
裕之:「なあ、萌」
萌 :「なに」
裕之:「…………」
萌 :「…………」
息がかかる距離で二人はみつめあった。なんとなく手が絡まったまま、蛇口からながれる水の音が
やけに大きくきこえた。
裕之:「やさしいな」
萌 :「え……」
裕之:「おまえの手。こうしていると、なんかホッとする」
萌 :「……わたしもだよ、裕之ちゃん」
どちらからともなく目をつむり、たがいの顔がゆっくりと近づき――――――――
ジリリーン ジリリーン ジリリーン
裕之:「わっ」
萌 :「きゃっ」
とつぜん鳴った電話のベルに、二人はびくっと身をはなす。
遅まきながら、直前のシーンに恥ずかしさがこみ上げてきて、萌は慌てて言った。
萌 :「あ、そうだ! もうこんな時間だし、わたし帰るね!」
裕之:「お、おう。明日は修学旅行だ。カゼひいたりするなよな」
萌 :「うん。裕之ちゃんも夜更かししないでね!」
裕之:「おう! じゃあな」
萌 :「うん、ばいばい!」
ドキドキする胸をおさえて、萌は裕之の家から飛び出した。
すると、そこには白衣をはためかせた冬眞が金属バットをかついで仁王立ちしていた。
「おねえちゃん…………」
「萌……そんなにポーっとして。まさか、あのガキ……!」冬眞は金属バットを振り下ろす。「あたしが甘かったよ。最初からミンチにしとくんだった」
「ち、ちがうよ!」
萌は全力で姉をさえぎった。
「ブラッド君、なにもしてないよ。その、ちょっと、恥ずかしかっただけで……」
「まさか口ではいえない恥辱プレイを!?」
「やってないっての」
萌が平手でつっこみをいれると、姉は「なんだ」とバットをおさめた。
「助けに来てくれたの、おねえちゃん?」
「まあね」
「よくここまで来れたね」
「学校から、あんたらの後をつけてきたんだ。けど、家の中には入れなかったよ。情けないことにね」
「ひょっとしたら、さっきの電話はお姉ちゃんがしてくれたの?」
「電話? あたしはかけてないよ」
「そう……ただのイベントだったのか・・・・・・」
「そんなことより、どうするの。明日の修学旅行が山場なんでしょ?」
「どうするって……朝6時前に駅前だよね?」
「あんたって、とことん流されやすい子ね〜。さっきいったでしょ。本当に行きたくないなら行かなければいいのよ。気合があればできるはずさ」
「行かない……?」
「行かなければバッドエンドになって、この茶番も終わるかもしれないでしょ?」