④家族写真と「竒譚」の結末 後編
クスクス笑いながら庭に着いた二人に、珠が仁王立ちになって呆れた様子で出迎える。
「もう……シゲ、薫子!もう先に撮りはじめてんで!」
珠の指さす方では、鶯梅と松鶴、そして座敷童の豆が写真機の前でじっとしている。妖も、写真機に写るものなのだろうか?
「お、酒向くんやないか。僕も自分らと一緒に、魂抜かれるために来たで。」
「マスター!もしかして、珠さんが呼んだんですか?」
菊重が、薫子の介助で椅子に座りながら聞く。思わぬ来客に、菊重の顔が綻ぶ。写真を撮ると魂が抜かれるという噂も、一般人ではあるが菊重達と付き合いの深いマスターにとっては、冗談にできるようだった。
「正解。なんたって、あたしの家族やからね!あたしの「兄さん」も、居ったら良かってんけどねぇ」
珠は少し残念そうに笑う。菊重には面識は無かったが、「五光・花鳥風月-天衣無縫」を発動させた時に見えた「藤に子規」の青年がその人だと、菊重は知っていた。
「……ま、俺はアイツの少し気持ちが分かるけどな。」
鹿島が背中を預けている唐獅子の花王丸は、首を傾げている。そんな花王丸の様子に、鹿島は少し笑って頭を撫でてやる。
「おい、鹿島!何格好つけている?早くしろ!」
「はー……せっかちな男は嫌だね。全く……」
鹿島はぼやきながら、花王丸を連れて撮影に向かう。どうやら、花王丸も写真に入るつもりらしい。入れ違いに来たのは、八橋といの、盈月、そして髪切の妖の源次だ。
「ん?……おい、どうした薫子?元気ねェな」
「べ……別にどないもあらへんよ。ただな、一生残る顔を撮るのに、変になったら嫌やわ思て……」
「わかるわかる!いのもねぇ、鏡のまえでずっとお顔の練習したもん。そしたら嘉吉の兄ちゃんが、「どんな顔をしても、お前はお前だろが」ってヒドイこと言ってくるの!」
「おいおい……!さっきのは流石に、貶さず励ましてたつもりだぞ?」
たじろぐ八橋とおろおろする源次の横で、盈月が呵呵と笑う。
「そりゃあ、乙女心を分からんお前さんが悪いなぁ!ま、精々精進することだ!」
「納得いかん……」
(あはは……僕も貴方と同じ意見やわ、先生)
八橋は、頭をガシガシと掻いてむすっとする。どうやら盈月は、妻子を持ったことのないガサツな坊主ではあるが、女心については菊重達よりもよく分かっているらしい。人は見かけによらないというのは、まさにこの事だろう。
(結局……写真は本物には敵わんしのォ。ほやけど、写真として残せば、きっと後々今日の幸せが蘇る。写真を通して思い出せる、「今」が大事なんやでな)
菊重は、薫子の横顔を盗み見て、目の前で笑ういの達を見て、幸せそうに写真を撮る珠達を見て、軒下で仲睦まじそうに話す鶯梅達を見てそう思う。
「次……私等の番やね」
薫子が、菊重に肩を貸しながら言った。庭の真ん中に出ると、菊重はそこに置かれた椅子に腰を下ろす。色づきはじめた木々を背景に、菊重と薫子は写真機に向かい合う。今日は、秋晴れのいい天気だ。菊重は「菊に盃」と「柳に雨」の札、そして神剣を、薫子は「桜に幕」の札を手にした状態で微笑む。
「お二人共、これから合図するまで、動かんよう頼んます!3、2、1……」
写真機が菊重達を捉えている間、菊重は「神和警邏団」に入ってからの出会いを思い返していた。
「神和警邏団」の皆と、都の「人ならざるもの」達。そして、敵対する同じ花札の異能者達。そして、「神和警邏団」の上部組織の「特殊警視隊」と政府の人々。様々な神々にも出会った。ーー家族にも真正面で向き合って「出会え」た。
出会った全ての者たちから、沢山の力をもらった。敵であれ、味方であれ、菊重は全ての者たちから影響を受け、強くなった。
「お。ええ笑顔や。これは、出来上がりが楽しみやな。ーーお疲れさんです!最後に、家族の集合写真撮ろと思てるんですが、続けて撮れますやろか?」
「ええ。薫子さんは?」
「私も大丈夫。も一つ、鶯梅さんの座る椅子、持ってこんと……」
薫子が屋敷に戻ろうとしたところで、八橋が椅子を抱えて庭に持ってきた。
「じゃ、殿と菊重で、鏡合わせで撮るか!御前と薫子の姉妹も鏡合わせに立ってなァ……」
「外国の絵ぇみたいで、面白くてええね。盈月さんは、椅子の間で。……あ。いのちゃんとお豆ちゃん、写れる?」
「そこまで変わった写真にするなら、いの達は盈之さんの前でいいだろう。どうせなら、できるだけ面白く好きにすれば良い」
真面目な顔のまましれっと言う鶯梅に、皆がクスクスと笑う。
「じゃ、いのとお豆ちゃんとおっちゃんが、一番いい場所もらうね!」
「うむ。子供と年寄りを大切にするとは、良い教育をされておるわい!」
意気揚々と真ん中を陣取るいのと豆と盈月に、皆は更に笑い声を上げる。
「ってことは、俺達は後ろかよ!下っ端は辛いぜ……」
「お前と一緒なのは不服だが、まあ我慢してやろう」
「ふふ、一番得してるのはあたしやね!楓助もセンセもマスターも、折角やからあたしの周りに侍ってくれはる?」
「はいはい。我儘姫さんの仰せの通りにしたるわ」
「花王丸と源次はんは、後ろで格好良く構えてな!」
鹿島と八橋も、マスターに倣い仕方なさそうに笑って後列の珠の横に並ぶ。その後ろで、花王丸は狛犬のように、源次はハサミを掲げたポーズで嬉しそうに並ぶ。
「これは……本当に一生の思い出になりそうです」
「またこうして、家族写真を増やしていくぞ。菊重」
「……ええ、鶯梅さん」
話を終えると、皆で写真機に向かって微笑む。
「じゃ、最後の写真撮りますえ。3、2、1……」
心地よい秋風がそよぐ中で撮った、はじめての家族写真。それは立派な額に入れられて、屋敷の壁にずっと飾られている。
これから待ち受ける数多の困難を逃れ、写真は家族の笑顔を永遠に保存し続けることになる。
明治の浪漫溢れる時代の奇譚は、これにて幕を閉じる。
願わくば、また次の時代でお会いしようーー
もしも浪漫竒譚〜あやかしと生きる民らの黄昏
完
【写真】
写真家の方は霊感がある方なので、「人ならざるもの」の話をしたり、彼らが写真に写り込もうとしても流せます。
どこかの後書きか活動報告で言ったかどうか分かりませんが、異能の技として出したもの(花札とか花王丸)は認識阻害を生じさせることもできます。が、阻害させなければ普通に見えます。
この時代、写真を撮ると魂が抜かれるという噂がありますが、その恐怖から大人の男性でも手を繋いで写真を写すこともあったそうですね。
最近そんなエピソードを知ったのですが、可愛くてほっこりしました。
☆☆☆
本編完結!!!!
今までありがとうございました!!!!!
痛い設定や展開なんかもありますが、自分の書こうと思ったものを書き続けられて、嬉しかったです。それにお付き合いしてくださった皆様、本当にありがとうございます!
本編終了後も、よかったらお付き合いよろしくお願いしますね♪




