表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも浪漫竒譚~あやかしと生きる民らの黄昏  作者: よーじや
第三章 畿内強襲計画阻止命令/京都・大阪編
47/90

❸新しい家族/砲兵工廠の反乱・中座

ちょうど大阪城の北西あたりの表門から、砲兵工廠ほうへいこうしょうに侵入した珠と鹿島は、大阪城北東方面を目指して走る。

大阪城北東の二の丸にある、本館に向かった鶯梅おうばい八橋やばせに合流するためだ。

工員達がおかしくなって、静まり返った砲兵工廠ほうへいこうしょう内では、仲間を見つけるのは割と簡単だった。争いの音が聞こえる方に行けばいい。とはいえ、広大な敷地の中では、ある程度聞こえる距離まで接近しなくてはならない。だからとにかく、本館を目指して二人は走ることにしたのだ。

(ーーあっ)

遠くから男の声が聞こえて、珠は鹿島と目を見合わせた。

楓助ふうすけ、私先行くわ」

「気をつけろよ!」

珠はこくりと頷く。花王丸はぐっと姿勢を低くすると、バネのように飛んで、砲兵工廠ほうへいこうしょうおおう高いへいの上にうまく飛び乗った。大阪の街を見下ろせる、普段とは違う高さの不安定な足場に、珠は身体がすくむ。しかし心は冷静になるようにつとめ、へいの上を走る花王丸の上で、目を皿のようにして争いの起こっている場所を探す。

「見つけた……!」

珠の視線の先に、花王丸は駆けていく。内臓が浮くようなふわりとした感覚を繰り返しながら、花王丸は本館の前の広場が見えるへいまで辿たどり着いた。波のようになって襲ってくる工員達に囲まれて、背中合わせに鶯梅おうばい八橋やばせは刀を振りかざして戦っている。周りには工員達が倒れ、その奥では、髪を切りそろえたスーツ姿の少年ーーキリオが、赤い鳥を従えて何かを命じている。

「やば……!ーー夢見鳥ゆめみどり!!」

珠は急いで、青紫色の美しい蝶ーー大紫オオムラサキを少年に向かって放つ。大きく羽ばたいたそれは、キリオが鶯梅おうばい達を指す指にふわりと止まって消えた。キリオは頭を抱えてその場でうずくまったが、キリオが従えていた子供ほどの大きさの赤い鳥ーー否、鳥ではない。首は蛇、腹は麒麟きりん、背中は亀で、脚は鹿、そして派手な尾は魚のものだーー所謂いわゆる鳳凰ほうおうは、こちらに気がついたようだった。こちらに向かって飛んでくる。

「あちゃ……。まぁ、やるしかあれへんね」

花王丸が、鳳凰を威嚇いかくするように吠える。鳳凰も、高らかに鳴いて花王丸を威嚇する。

「蝶!」

「センセ、ちょっとだけやけど引き受けるで!」

八橋やばせにそう叫ぶと、珠はふところ煙管きせるを槍のように巨大化させる。そして、鳳凰とすれ違いざまに煙管きせるを叩きつける。しかし鳳凰はするりと避けてしまう。

(……ま、地面に降りられたからええけど)

鳳凰はすぐにUターンすると、巨大な翼を広げて襲いかかってくる。珠は煙管きせるで追い払おうと振り払うも、鳳凰は大きさの割に早くて当たらない。

「いっ……?!」

珠は簡単にふところに入られ、左肩を思いっきりくちばしで何度も突かれてしまった。右肩を狙われていれば、その衝撃と痛みで思わず、手にしていた煙管きせるを落としてしまっていたに違いない。

(幻術頼りで戦ってきたあたしが、本格的な戦闘ではお荷物になることぐらい、分かってたはずやけど……厳しい……っ!)

珠は思いっきり煙管きせるで鳳凰を殴ると、血がにじんでボロボロの左肩を押さえて叫ぶ。

白雪蝶しらゆきてこな!!」

どこからともなく、無数の紋白蝶モンシロチョウが現れ、雲のように鳳凰を取り囲む。鳳凰は暴れて蝶を翼ではたき落とすが、それでもすぐに全てをはたき落とすことはできない。蝶によって魂をむしばまれた鳳凰は、かなり弱ったようだ。しかし、白雪蝶しらゆきてこなは珠にとっても負担がかかる大技だ。辛うじて花王丸を召喚する鎧獅子よろいししは解除しないでいられているが、もうこれ以上何もできそうにない。それと比べて、鳳凰は弱っているとはいえ、まだまだ戦える。

(花王丸…!)

花王丸は、主人を乗せたまま逃げ出した。そして、短く四回吠える。

「よくやった!蝶、花王丸ッ!」

工員達の包囲を抜けた八橋やばせが、鳳凰の行手ゆくてさえぎった。青紫の霊刀・杜若かきつばた薙刀なぎなたに変えた八橋やばせの姿は、まるで五条大橋で立ち塞がる弁慶のようだ。男にしては背が少し低めではあるが、筋肉質で無駄のない鍛え上げられた身体は、肉食獣のような気迫を放っている。

「覇ッ!おおおおお!!!!」

弱った鳳凰にトドメを刺さんと、八橋やばせは矢継ぎ早に薙刀なぎなたを振り回す。鳳凰は身の危険を感じてか、主人の元へーーさかえ朋衛ともえの方へ飛んでいく。

「チッ、この……」

八橋やばせが後を追おうとした時、馬のいななきがして鹿島が現れた。

「俺が追う!!」

そしてその後を、同じく馬に乗った鶯梅おうばいが追っていった。鶯梅おうばい対峙たいじしていた工員達は倒れており、気を失ったキリオは縄で縛られている。

八橋やばせが後ろを振り向くと、珠が壁の側で膝をついていた。もはや花王丸を維持する力も残っていないようだ。

「センセ……あたし、もう何もできひん。足手纏あしでまといやから、あたしを置いて先行ってて」

珠がそう言うと、八橋やばせは黙って首を横に振る。彼は薙刀なぎなたを消すと、珠の前でしゃがんで背を向けた。

「ーー駄目だ。今目を離したせいで、また家族の一員を失う訳にゃいかねェ。俺じゃ不満だろうが、我慢しろ」

珠はその静かな一言で、「家族の一員」はシマのことを指しているのだと分かった。過去にお金が全てだと生きてきた珠だが、戦闘の師匠であり兄のように慕う八橋やばせから、同じ「家族の一員」としてもらえたことが嬉しかった。しかしそれ以上に、悲しく申し訳ない気持ちだった。

「……わかった。」

珠は八橋やばせの背中に身体を預ける。筋肉隆々の、力強い背中だ。過去の哀しい出来事に逆らって汗を振り絞り、必死で今を生きようとしている、珠が尊敬できる背中だ。だから、彼が自分を「神和警邏団かんなぎけいらだん」という家族の一員として認めてくれる限り、いずれは彼の、そして彼が密かに大事にしている少女・いのの本当の力にもなっていきたい。

八橋やばせはぐっと力を込めて、立ち上がる。そして、一気に朋衛ともえの向かった方向へ走り出した。

大阪城の南東側、砲兵工廠ほうへいこうしょうの診療所や砲兵工廠ほうへいこうしょう専用の鉄道がある方面だ。おそらく彼は、そこから玉造稲荷たまつくりいなり駅に向かい、一般の鉄道を利用する客に紛れて大阪梅田駅へーーそして京都まで逃げるつもりなのだろう。

(あかん、藤嗣ふじつぐ坊ちゃんが川口居留地におるのに、力がーーでも、皆を助けんわけにもいかんかったし。……せめて、せめてさかえ朋衛ともえを止められたらええけどーー)

すっかり夜の闇に沈んだ大阪城の下、珠はうとうとした頭で、ぼんやりとそう考えていた。京都には、家があり、新しい家族がいるのだ。自分に実力が無いのに高望みをしても仕方がないが、こちらでさばけることならばさばいてしまいたかった。悔しかった。

(強くなったはずなのに、全然足りひん)

後悔にまみれた珠の頭は、疲れによる強力な眠気に負けて、真っ白になっていく。八橋やばせは眠りに落ちた珠を険しい顔で背負いながら、馬の足跡を辿たどっていく。


【現在の大阪砲兵工廠】

大阪砲兵工廠の本部は、現大阪城ホールのあるところに建ってたそうですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やばいやつの短編もよろしくお願いします♡
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ