表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも浪漫竒譚~あやかしと生きる民らの黄昏  作者: よーじや
第三章 畿内強襲計画阻止命令/京都・大阪編
39/90

「萩に猪」と「牡丹に蝶」と/6年前の話 前編

突然だが、ここで菊重あきしげ以外の人間の話をしよう。


神和警邏団かんなぎけいらだん」は当局からも頼られる、優れた力を持つ「人ならざるもの」専門の秘密機関だ。

しかし結成後、二人の尊い犠牲が生まれてしまった。



一人は、美吉野みよしの芳春よしはる

9年前に亡くなった、薫子と桜子の父親だ。


もう一人は、先代の「はぎいのしし」の異能の持ち主・萩池はぎいけシマ

7年前に亡くなった萩池いのの母だ。猪突猛進ちょとつもうしんで真っ直ぐな女だった。だからこそ人にも真剣で、誰からも愛され、「神和警邏団かんなぎけいらだん」になくてはならない存在だったーー



今回は、そんな彼女の奇譚おはなしだ。



「じゃあ松鶴しょうかく先生、お留守番よろしくお願いしますね!」

キラキラとした満面の笑みで玄関に立つのは、シマだ。長い髪を高く結い上げ、橙のしま模様の着物に深緑のはかま姿で、松鶴しょうかくが抱き上げる幼い娘・いのに手を振っている。いのは母恋しさに、甲高い声で泣いている。

「ああ〜……ごめんよぉ、いの!母さん、なるべく早く帰ってくるからね!……桜子ちゃん、薫子ちゃん。悪いけど、いのの面倒をよろしくね!」

シマさん、大丈夫。わたしらに任せてなぁ!」

「いいから、シマさんは早く行きよし!いのちゃんは、わたしがちゃんと見るさかい」

「ありがとう〜!!行ってきまーす!」

シマは礼を言うと、玄関を出て馬車に駆け寄った。

「ごめんねぇ。待ったでしょ」

馬車には、鶯梅おうばい八橋やばせ、鹿島が乗っていた。

シマさん、気にするなって!そもそも俺達が、子供抱えたシマさんの手を借りたくて、江戸から都に呼び寄せたってェのに……。」

「そんなことないよ!こっちも旦那達が病気で亡くなっちゃって、一人で途方に暮れてたんだから〜」

シマは心底嬉しそうに、明るく笑う。

「じゃ、ぼちぼち稼ぎに行きますかねぇ。御者さん、出して!」

「酔うなよ、鹿島」

「う……こんな距離で酔わないですって、若」

鹿島の声に、御者ぎょしゃが国鉄の駅へと向かう。今回の行き先は、大阪だ。鹿島のつかんだ情報から、当局の調査が入った人物ーー名取商會なとりしょうかい名取なとり精十郎せいじゅうろうと、その客を逮捕するのが、今回の「神和警邏団かんなぎけいらだん」の仕事である。


大阪駅から南に進むと、川の中洲なかすにある中之島なかのしま地域に、ハイカラで巨大な西欧建築の図書館がたたずんでいる。そこから更に南に進むと、大阪の商人達がしのぎを削る商業地・船場せんばだ。

多くのハイカラな建物ビルヂングを建築中のこの地域は、商業だけでなく、百貨店や社交場などの新しい文化と生活が花開く土地だった。

それはこの地が賑やかだからという理由だけでなく、近くに存在する大阪川口居留地の、異国の文化の香りの影響も大きいのだろう。


神和警邏団かんなぎけいらだん」一行は、当局の力を借りて身分を偽り、社交場に潜りこむことになった。

先に社交場にもぐり込んでいた当局の者が、変装した八橋やばせシマを、新しい見どころのある実業家夫妻として紹介し、社交場に潜入するのだ。そして、鶯梅おうばいが勉強中の弟として側にひかえ、気の利く鹿島が使用人として、皆をフォローすることになった。

「……あの人ね、嘉吉かきつ君。」

シマが声をひそめて、八橋やばせに耳打ちする。その視線の先には、柔和にゅうわな笑みで他の紳士と談笑する、スーツ姿で恰幅かっぷくの良い丸眼鏡の男ーー名取精十郎がいた。

「そう……だ……が……。お、おいシマさん、近すぎる!」

「お?私もまだ捨てたもんじゃないなあ。フフ……私たち、ふ・う・ふなんだから、照れない照れない」

美しく髪を結い上げ、おしゃれをしたシマが声をひそめて笑う。シマにしては珍しく、橙と白の身体のラインが出たワンピースを着ている。胸元と耳には、大粒の真珠を飾っている。えて洋装で参加することで、本当に金持ちに見せようという狙いだった。

それがまた、普段の天真爛漫なシマの様子のイメージを壊すほどに、シマの気高く強い女性としての美しさを引き出していた。この姿が、母としての格好ではなく、本来の彼女の女性としての姿なのだろう。花のようにぱっと世界を明るくする、輝く笑顔がまぶしい。

「照れるぐらいなら、俺に変われよな。お前をこき使ってやるから」

「全くだ。」

茶化す二人に、嶋はデコピンをかます。二人は無言でひたいおさえてうずくまった。

「……もう!いいから、ちゃんと見張る!」

シマが小さく怒鳴った所で、老夫婦が会釈えしゃくしてこちらにやってきた。シマ鶯梅おうばい目配めくばせして、精十郎の監視を任せた。鹿島が咄嗟とっさに、シマに耳打ちする。

「おやおや、初めて見る顔でござりますなあ。」

「はじめまして。私たち、"萩橋はぎはし"と申します。越してきたばかりの新参者ですが、以後お見知りおきください」

八橋やばせの敬語に、鹿島は唇を強く噛み締めている。笑いをこらえているのだ。

「ほお。わし大東だいとう言います。聞いたことはありますやろか?」

思わず固まり、冷や汗が流れる八橋やばせの前に、シマが割り込む。

「ええ!あの有名な、大東商店の!お目にかかれて光栄ですわ!」

鹿島かしまから耳打ちされた内容を、さも元から知っていたことのように答えた。八橋やばせはこっそり鹿島をにらむが、鹿島は知らん振りをしている。

「もしお宅に縁があればやけど、よろしく頼んます。ところで、お宅は何をしてなさるんや?」

「……江戸では、私も父の商店を営んでました。小さいですが、道具屋を……。しかし、この新時代にそれだけではつまらないからと、外国のものを真似たものを売ってみたら、それが運良く当たりまして……」

そうしてなんとか、大東と八橋やばせは話を繋ぐことができた。しかし、その時間は長くはなかった。

鹿島が失礼します、と一声かけて、八橋やばせに声をひそめて話しかけたのだ。もの凄く嫌そうな顔で。

「……鶯梅おうばいが、名取を追って外に出た。先に出ている」

その様子を見ていた大東は、怪訝けげんな顔でひげもてあそんでいる。

「……おや、どうかしなさったんかいな」

「ええ、実は急用ができたそうで。折角のご縁ですが、ここでおいとまさせていただきます。」

「仕方ありませんなぁ。縁があったら、また会いますやろ。気いつけてお帰りやす。」

八橋やばせシマ会釈えしゃくすると、鹿島に続いて会場を後にする。

「はぁ……早速動いてくるなんて、名取さんも仕事熱心だなぁ……。私、もう少しお洒落を楽しみたかったのに」

「ーー俺はもう、勘弁してほしい」

「俺も、お前なんかの使用人のフリするのは、もう勘弁」

小声で三人が話していると、精十郎と連れから距離を取りながら、通行人のフリをして夜道を北へゆっくり歩く、鶯梅おうばいの姿を見つけた。目立つ洋服姿の三人は、鶯梅おうばいから更に距離を取って後をつけた。シマはヒールの靴を脱ぎ、こっそりいていた足袋たびで走る。鹿島も二人にコートを渡し、戦闘体制を整えた。八橋やばせは紫の軍刀と青紫の軍刀を、シマは巨大な針を出した。

「……やっぱり、居留地に向かってンのか?まあまあ離れてるが……」

「おそらくはな。」

「名取と一緒にいた人、確かヤバい政治運動してた人だよね……。あの人との取引を押さえられたら、即当局に引き渡せるから助かるんだけど」

前にいる鶯梅おうばいが、「神息剣しんそくのつるぎ」を出して、川の中洲なかすにある島・中之島なかのしまを歩いていく。このまま真っ直ぐ進めば、居留地だ。しかしそこで、鶯梅おうばいがすらりと大刀を抜いた。

「敵!」

三人が鶯梅おうばいに駆け寄る間に、闇の中から男たちが現れた。

「若殿!追ってくれ!」

八橋やばせが敵を引き受けると、鶯梅おうばいは精十郎を追った。

「俺は若と行動する。そっちは頼んだぞ!」

「了解!」

鹿島の言葉に、八橋やばせシマが頷く。敵の男が鶯梅おうばいと鹿島を追おうとするのを見て、嶋が光の糸がついた巨大針を投げる。針が男たちの目の前に刺さってひるんでいる間に、鶯梅おうばいたちは行った。

残されたシマ八橋やばせを、男たちが取り囲む。


【年齢の話】

6年前だから、みんなそこそこ若いです。

鶯梅16歳、八橋20歳、鹿島18歳…嶋は25歳、いのは2歳です。

美吉野姉妹も、まだ12歳ですね。ちっちゃーい!


【先生呼び】

嶋が松鶴の先生だったと人伝に聞いているため、いのも松鶴をセンセイと呼ぶようになっています。

「人ならざるもの」についての先生ですね。

いのがセンセイ呼びにする前は、松鶴のことをじいじと呼んでました。彼女なりに大人ぶっているということにしてください。


【歴史の歪みと地名について】

例に漏れず、また大きく歴史を弄ってます。ハイカラな建物を早く生やしたかったんです。

舞台は大阪(大阪梅田)駅の南の辺り…大阪メトロで言う、淀屋橋駅〜本町駅周辺が舞台です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やばいやつの短編もよろしくお願いします♡
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ