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帰宅懇願者  作者: 相良
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異国人達

「あなたが聖女様ですね。」

「い、いいえ、違います。」


目の前に立つ見知らぬ異国人達は望みが絶たれたような顔を私に向ける。

そんな顔をされても困る。何もしていないのに罪悪感が芽生えかける。

そもそも、ここはどこだろうか。

何もない広いホールのような場所の真ん中で私は座り込んでいた。パーティーでも行えそうな雰囲気がある。

そして私の国の言葉を流暢に使う彼らは誰だろうか。

私はどうやって此処まで来たのだろうか。

頭の中にたくさんの疑問が浮かぶものの、社交的ではない私は黙って考えを巡らせることしかできない。


「聖女様ではないのなら、あなたはどなた様でしょうか。」


冷ややかな眼差しを向ける異国人その1は随分高圧的な態度をとってくる。

なんて失礼な人だ。と思っても良く言えば、控えめな性格の私は従順に答えるしかない。


「わ、私は浅野まり、女です。アパレル店員です。今年、25歳になります。あ、あとは何かありますでしょうか。」


仕事中は言葉に躓くとこなくスラスラ話せるのに、私生活ではいつも上手く話せない。

萎縮する私を異国人達は品定めするように見つめる。

その視線が怖くて更に縮こまることを彼らは気づかない。


「では、出身国と居住地、あとは此処に来るまでの経緯を話してください。」

「しゅ、出身国は日本で、居住地は東京です。仕事帰りの電車でうたた寝をしていて、目が覚めた時には此処におりました。」


神妙な顔をした、異国人その1はしばらくの沈黙後、私を指し他の異国人に向かって話し始めた。


「私も聞いたことのない国や、住まいがあることを踏まえ彼女は別世界の人間に間違い無いだろう。どのような能力があるかもわからないが、質のいい教育を受けている振る舞いだ。

これから、能力テストを行えば聖女かどうかもすぐにわかるだろう。」


その言葉に頷き、異国人その1が言うなら間違い無いだろうと口にする。

ファーストコンタクトで否定したにも関わらず、聖女である可能性を捨てていないようだ。

それはさておき、この気味の悪いパーティーから抜け出し、私は帰らなくてはならない。

今が何時で此処が何処だかもわからない為、一刻も早く帰宅することを目標に、ない勇気を振り絞り異国人達に話しかける。


「あ、あの、すみません。私明日も仕事があるので帰らせていただきたいのですが、どうしたらいいでしょうか。」


人の会話に割って入った所為かホールは一瞬にして静まり返り、異国人その1にジロリと睨まれる。

丁寧に伺ったつもりだが、何か不快にさせてしまっただろうか。

一つため息をつき私に向かって話し始める。


「まず、あなたは此処にいる魔道士達によって別の世界から呼び出されたのです。故に、帰ることは私たちが望まなければ不可能だと思ってください。もし、能力テストを素直に行い、聖女でないと判断されれば次の日の朝にでも元の世界に帰れるよう調整しましょう。悪い話ではないでしょう。協力していただけますね。」


悪い話です。それは立派な脅迫です。と思うものの処理しきれない単語の数々に脳がフリーズしかける。疑問は一度全て投げ捨てて帰宅を優先する。欠勤なんて許されない。


「わ、わかりました。今すぐにでもしてください。そして一秒でも早く帰宅させてください。」

「いいでしょう。これより能力テストを行う。直ちに準備を。」


それを聞いた異国人達が足早にホールから出て行く。

一人、ポツンとホールに残された私はすぐさまスマートフォンを取り出す。

時間の確認と、必要であれば会社に連絡を入れなければならない。

此処が何処なのかもマップで見ることができるだろうし、この異様なパーティーらしきものもネットで調べたら出てくるかもしれない。少なくとも日本の文化ではないけど、世界の何処かにはあるかもしれない。

早速時間を確認すると、21時過ぎのようだった、ちょうど電車でうたた寝をしているくらいの時間だ。

眠ってしまってからそんなに時間は経っていないようで一安心した。この時間なら帰りの電車もまだある。

位置情報も確認してみたが、大きな建物内にいる所為か表示されなかった。

時間からしてそこまで遠くへ行っていないだろうと推測できたおかげでそこまで不安にならずに済んだ。

あとは、この謎のパーティーを調べたかったのだが、電波状況が悪いようで上手く繋がらずストレスが溜まる一方だった。能力テストと呼ばれるものを行いその後聞いてみればいいかと自分に納得させた。

誰もいないホールでポツリと呟く。


「能力テストの所要時間はどのくらいなのかな。」


ホールで大人しく待っている自分を殴ってやりたいを思うことになるのだが今の私は変なパーティーに巻き込まれた程度にしか考えていなかった。


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